これは僕が小さい頃住んでいた30世帯くらいの集落であった出来事だ。
この集落はおそらく数年後には過疎化して無くなってしまうような集落だった。小学生も僕をいれて4人。
小学5年生だった僕は田舎育ちの活発な少年で毎日のように畑や田圃、川を駆け回り泥だらけになって帰っていた。
この集落は山神信仰であり、山の麓にはその神を祀る神社があったが数年前から神主様が来なくなり、半分廃神社になりかけだった。そんなこともあり、神主様が来なくなってからは山に入ることを大人たちから禁止されていた。
山は子供たちにとって最高の遊び場で頂上付近に隠れ家もあり、この村の子供たちが代々守ってきた隠れ家であった。
毎年楽しみにしていた神社の境内でのお祭りもできなくなり、神主1人来ないだけで子供達には大打撃となった。
夏のある日、ひとつ年下のシオリちゃんと遊んでいる時にちょっとだけ隠れ家にいってみようと僕は提案した。
シオリちゃんは見つかったら大人から怒られるのが怖いとおじけついたが、すぐに戻るから大丈夫と説得して2人で山に入ることにした。
神社を横切り山道に入り隠れ家を目指す。しばらく誰も通っていなかったせいか、倒木もあり木々が生い茂っていた。
隠れ家に到着すると懐かしい物が沢山残っていた。最後に来た時は、小学生になったばかりで高学年の人たちに導かれ訪れていた。
それから、僕とシオリちゃんはちょくちょく隠れ家に遊びに行くようになり、小さな村だけに楽しみがひとつ増えて浮かれていた。
夏の終わりも近い日だった、いつものようにシオリちゃんと隠れ家に向かった。近くの沢で遊んでいるとシオリちゃんが転倒し足を捻ってしまった。捻った足首は時間が経つにつれて紫色に変わっていった。
いくら僕でも、おぶって下山は無理だ、大人を呼びにいくと山に出入りしていたのがバレてしまう。
どうするか悩んでいる間に雲行きが怪しくなり、ポツリポツリ雨が降り出した。
暑い雲のせいか、山の中はいっきに薄暗くなり、まるで夜のようであった。
「大人たちを呼んでくるよ、すぐに戻るからここで待ってて」
「すぐに帰って来てね」
シオリちゃんは痛みを堪えながらそういった。この状況の山の中で一人ぼっちはさすがに心細いのだろう。
僕は雨の中、急いで下山した。いつもの山道は、雨が強くなるにつれて雨水の通り道になり、歩くのは危険な状態だった。
何度も何度も転倒し僕は道を外れ藪をかき分け下山を試みるが思ったように進まない。行手を阻むかのように雷鳴も響き始めた。僕は視界に入った、山の斜面の洞に身を潜めた。
中々雷が止まず、辺りはいっそう暗闇へと変わっていく。時刻はおそらく19時くらい、大人達が心配して僕らを捜索するかもしれない。
雨に濡れ、体が冷えてきた。濡れた服を脱いで絞りっていた時だった。
「ドスン、ドスン、ドスン」
何か重い物が地面に叩きつけられているような音、水溜まりも振動で水面に波紋が広がる。僕はその音、振動、圧力で地面に這いつくばり、恐怖のあまり体が動かなくなった。
「ドスン、ドスン、ドスン」
段々音が近づいて、振動も大きくなる。叫んだり、声を出したら殺される、僕は咄嗟にそう思った。
僕はゆっくり顔をあげ音がする方をみる。泥水を被ったせいか、視界が曇る。
「ドスン、ドスン、ドスン」
100メートルくらい先に灯りが見える。
「ドスン、ドスン、ドスン」
大人達が助けに来たのか、だとしたらこの音や振動は感じてるはずだ。
いや、この音と灯りは同一のものだ。目を凝らしてみると、着物を来て提灯をもった3人組の男性、先頭には女性が歩いている。男性は手に縄を持ちその先には身長5メートルくらいはあるであろう、一つ目の巨人を引き連れている。首には鉄の首輪そこにいくつものお札らしき物が貼られ、捉えられていると悟った。
あの巨体はこの世のものではないと一眼見てわかるが、他の4人は村のものでもなく、この時代のものでもないと感じた、一体何ものなのか。
僕は口を出ておおい、気配を消す。そのもの達は周囲を警戒するそう様子もなく、真っ直ぐに進んでいく。
おそらく僕の存在には気付いていない。そう思った時だった。
「男か女かどちらか選べ」
「男か女かどちらか選べ」
耳もとで誰かが囁く、泥水の中うつ伏せになった状態でゆっくりと周囲を見渡すが誰もいない。
「男かな、女かな、どっちをくれる?」
「男かな、女かな、どっちをくれる?」
どちらをくれる?まさか僕とシオリどちらかをさらうという意味なのか。
体は冷め切っているはずなのに、汗が滲み出る。さっきのもの達は?
僕の5メートル先に立ちはだかってこっちを見ている。
着物を着ているもの達は、目、鼻、耳はあるが口らしいものは見えない、肌は真っ白でこの山道を歩いていたと思えないくらい、着物の裾などは綺麗だった。僕は人ではないと確信した。
「男かな、女かな、どっちをくれる?」
僕は恐怖を、断ち切り、起き上がりこういった。
「僕を選べ、僕はどうなってもいい、シオリは助けてください。」
4人は着物の袖で口元を隠してひそひそ話を始めた。
「男にしよう」「そうしよう」
その言葉が耳にたどり着いた瞬間、僕は地面に叩きつけられた。あの日の出来事の記憶はそこまでだった。
風鈴の音、蝉の声、ドタドタと物音がする。ここはどこ?家か?
僕は目を覚ますと自宅にいた、両親は泣きながら意識を戻した僕に擦り寄って来た。
ドタドタしていた物音は荷造りしている音であった。あの晩僕は山の麓の神社で倒れているところを捜索していた大人達に発見されたようだ。
「シオリちゃんは?」
母親は泣きながらまだ、見つかってないといった。あれから1週間僕は意識を失っていたらしく、シオリちゃんの捜索は昨日打ち切られたようだ。僕は母親に隠れ家の場所を伝えそこで僕の帰りを待っていたと伝えたが、その隠れ家も捜索したがシオリちゃんの姿はなかったようだ。
荷造りしていたのは、今回の件で僕が村人の標的になりかねないと判断し、親戚のいる横浜に行くことになったようだ。
体調がまだすぐれない僕は何もすることが出来ず、この村を後にした。
それからだ、今まで活発だった僕は腑抜けになり、都会にも馴染めず、学校でイジメられる日々がはじまった。
あの日の以来なのか、こっちに来てからなのかはっきりわからないが、僕はこの世でないものが見えるようになってしまった。
あれは一体なんだったんだ、シオリちゃんはどうなったのか。この話の続きはこの物語の終わりの方へ繋がるのであった。
17歳の夏のある日
「お前何やってんだ?」
誰がが僕を木の枝でツンツンしてくる。
「あ。。ぁ。。ぁ。。」
「そういつことか、動くかなくてい、ちょっと待ってろ」
女性は川岸まで行き、ハンカチを水に浸した。
そっか、さっき、殴られて。。。気絶してた。
「多分脳震盪だ」
女性は僕のおでこに濡れたハンカチを乗せてた。
女性は膝を抱えこういった。
「定期的にやられてるのか?」
「えっ」
「こっちとこっちの傷は治りかけだ」
「。。。。すみません🥺」
「何をあやまる、詫びられることしねぇよ」
彼女はタバコに火をつけ一服する。
これが姉御との出会いだった。
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