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ゆゆゆゆ
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夜会は、異様なほど華やかだった。
巨大なシャンデリア。
赤いベルベット。
グラスの触れ合う音。
笑い声。
FORSAKENの殺人鬼も、生存者も、狂信者たちも、
今夜だけは仮初めの優雅さを纏っている。
その中心。
ノスフェラトゥは静かに佇んでいた。
黒いスーツ。
深紅のアンダーコート。
仮面越しの赤い眼。
完璧だった。
誰が見ても、
高貴で冷酷な古代吸血鬼。
……のはずだった。
だが。
衣服の下、
誰にも見えない太腿の内側を、
細い鎖が這っている。
黒い革の首輪から伸びたそれは、
長いコートの影を通り、
広間の端――。
赤いシルクハットの男の手元へ続いていた。
スペクター。
彼は談笑している。
笑っている。
まるで何も知らない顔で。
その指先だけが、
グラスを持つ代わりに、
細い鎖を弄んでいた。
しゃら……。
ほんの小さな音。
次の瞬間。
「……っ」
ノスフェラトゥの肩が微かに跳ねた。
呼吸が乱れる。
だが周囲は気づかない。
皆、彼が冷静に立っているようにしか見えていない。
スペクターは遠くから、その反応を見て笑う。
鎖を、本当に少しだけ引く。
くい。
「……ッ」
ノスフェラトゥの喉が震えた。
足元。
衣服の下で鎖が張る。
強くない。
だが、
“そこに繋がれている”という感覚だけで、
身体が反応してしまう。
最悪だった。
しかも今夜は、
観客が多すぎる。
アズールがワインを揺らしながら笑っている。
ホスフォラスは壁際で尾を揺らし、
面白そうにこちらを眺めていた。
絶対に気づかれてはいけない。
なのに。
スペクターはわざと、
他人と会話している最中に鎖を揺らす。
しゃら。
ノスフェラトゥの指先がぴくりと震える。
「……ノスフェラトゥ?」
参加者の一人が不思議そうに首を傾げた。
「顔色悪いぞ」
「問題ない」
即答。
だが声が少し掠れていた。
スペクターは遠くで笑みを深くする。
楽しんでいる。
完全に。
ノスフェラトゥはワイングラスを持ち直す。
震えるな。
平静を保て。
古代吸血鬼としての誇りを思い出せ。
――しゃら。
「ッ……!」
今度は少し強い。
衣服の下で鎖が擦れる。
その感覚が背筋を駆け上がった。
ノスフェラトゥは思わず息を呑む。
グラスの中の赤が揺れた。
スペクターは別の誰かと談笑しながら、
まるで無意識みたいに鎖を指へ巻き付けている。
その余裕が悔しい。
ノスフェラトゥだけが、
一人で必死に耐えている。
そして何より恐ろしいのは。
身体のどこかが、
次の“合図”を待ってしまっていることだった。
「……っ」
喉が熱い。
首輪がないはずの場所まで、
錯覚みたいに疼く。
スペクターはゆっくりグラスへ口をつけながら、
楽しそうに目を細めた。
そしてまた。
くい、と鎖が引かれた。
ノスフェラトゥの身体がわずかに前へ寄る。
ほんの数センチ。
だが本人には十分すぎるほど伝わった。
“来い”。
命令ですらない。
ただの合図。
それだけで、
身体が勝手に従った。
ノスフェラトゥは奥歯を噛み締めるが、
耳はぺたりと伏せている。
スペクターは立ち上がり、 会場を横切る。
長い赤いコートが揺れる。
鎖が、少しずつ巻き取られていく。
ノスフェラトゥの呼吸が浅くなる。
逃げたい。
なのに。
近づいてくる気配へ、
身体の方が安心してしまう。
スペクターはノスフェラトゥの隣へ来ると、
自然な仕草で腰を抱いた。
周囲から見れば、
ただ親しげな接触。
だが。
その腕の中で、
鎖がぴん、と張る。
「……ッ」
ノスフェラトゥの身体が震える。
スペクターは耳元で囁いた。
「ちゃんと立ってられるね」
甘い声。
褒めるみたいに。
ノスフェラトゥは悔しそうに眉を寄せる。
「……遊ぶな」
「遊んでないよ」
鎖が、また小さく引かれる。
しゃら。
「君がかわいいだけ」
その言葉だけで、
ノスフェラトゥの呼吸はさらに乱れた。
周囲はまだ気づかない。
誰も知らない。
誇り高い古代吸血鬼が、
今この瞬間も、
主の指先ひとつで震えていることを。