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「エトワール様ッ!」
「エトワール様無事!」
アルベドとの話に一段落がつき、私は応接室から出てグランツとリュシオルと再開した。
彼らは、とても心配だったと私に(主にリュシオルが)抱きついてきてわんわんと泣いていた。
「お坊ちゃま……」
「あーファナー、チューリップの花束準備してくれ。後、彼奴らを家に帰すための転移魔法の準備を」
「かしこまりました」
アルベドが指示すると、執事長だという、白髪の執事ファナーリクは私達から離れ何処かへ行ってしまった。どうやら、転移魔法の準備をしに行くようだった。
「そういえば、気になっていたんだけど……どうして、アルベド……公爵様は、私の髪の毛を見て驚いてたの?」
と、私はアルベドに先ほどから気になっていた疑問をぶつけた。
確かに、聖女は金髪で純白の瞳を持っている……らしいのだが、彼は私を見たときまず髪の色を見て驚いているように見えた。それは、伝説と違ったからではなくもっと他の理由があるように思えた。
アルベドは、面倒くさそうにああ。と漏らすと私の髪を指さした。
「あの夜であったとき、お前、金髪だったからな」
「へ?」
アルベドはそう言うとふあぁ……と大きな欠伸をした。
私は、アルベドの言葉が理解できず素っ頓狂な声が出た。
(私が、金髪だって――――――!?)
それは、どう考えてもあり得ない事だった。金髪と銀髪じゃかなり違う。暗かったとは言え、さすがにその身間違いはないだろうとアルベドに問いただすと、彼はまた面倒くさそうな顔を私に向けた。
その顔にイラッとしたが、どういったことなのだと彼に聞く。
「……見間違いじゃねえよ。ああ、でも……あれか。月の光を浴びて金髪に見えたってこと、かも知れねえ」
「そんな事って、あるの?」
「さあ?」
アルベドは興味なさげに、首を傾げた。
彼の態度にイラっとしたが、私もそれ以上追及する気にもならなかったためリュシオルや、グランツの方を向いた。
極力アルベドと喋りたくない。
しかし、そんな私の思いとは裏腹に私の後ろでピコンと聞き慣れた機械音が鳴り響く。
きっと、好感度が上がったのだろうと私は思ったが振返る気も無かった。
上がったところで、攻略しないキャラなのだから関係無い。
「なあ、転移魔法の準備が出来るまで俺と話そうぜ。聖女様」
「アンタと話すことはないわよ。公爵様」
「その呼び方、傷つくなあ。さっきみたいに、アルベドって呼んでくれればいいのにさ」
「……アンタだって、私のこと聖女様って」
「じゃあ、何て呼べばいいんだよ?」
そう尋ねてくるアルベドに私は、深いため息をついた。
名前ぐらい名乗っても良いかと、私はアルベドの方を向く。
「エトワール・ヴィアラッテア。それが私の名前」
そう告げると、彼は少し驚いた表情を浮かべたがすぐ値踏みするような目を向け笑うと私の名前を口にする。
「ふーん、エトワール様か。じゃあ、エトワールでいいな」
「はあ!? ちょっと、私は呼び捨てでいいっていってな――――――」
「様を付けてください。無礼にもほどがあります」
と、私がアルベドに文句を言う前に、言葉を遮り私と彼の間に割って入ってきたのはまさかのグランツだった。
彼は私の前に立つと、私を守るようにアルベドとの間に立った。
グランツの突然の行動に驚いていると、アルベドはグランツの隙間から私を見ようと腰を曲げた。
「だって、お前は俺の事アルベドって呼び捨てにすんだから、俺もお前のこと呼び捨てでいいじゃねえか」
「それはアンタがいいっていったから。私は、いいっていってないの!」
「それは、不公平だろ。別に呼び捨てしたからって減るもんでも何でもねえし……」
「口を慎んで下さい。聖女様の前です」
「あぁ?」
グランツの言葉に、アルベドは眉をひそめる。
確かにグランツの言う通りだが、私が気にしなければいい話だと丸く収めようとしていたのだが、グランツはそれをよしとしなかった。
「ちょっと、グランツいいって……」
「……」
私はグランツの肩を掴んで、これ以上ことを大きくしないでと目で訴えたのたが彼は聞く耳も持たなかった。ただ、黙ったままアルベドを睨みつけている。
何故グランツがそこまでアルベドを敵視するのか分からず、私はリュシオルの方を見た。だが、彼女もこの展開は予想できなかったようで不安げな表情で私を見ていた。
「エトワールはいいよな? 俺が、お前のこと呼び捨てにしても」
「……まあ、私もアンタのこと様付けもしないし敬語も使わないけど。その方がお互い気が楽だろうし」
「な?お前の主もそう言ってんだから問題無いよな?」
「ですが、彼女は聖女様です。貴方とは格が違う。敬い、崇めるべき存在……そんなことも『闇魔法』を使う者は分からないんですか?」
「はあ?」
グランツはわざと『闇魔法』を強調していった。
すると、それまで余裕ぶっていたアルベドの顔が歪み、怒りが表面へと出てきた。額には青筋が見えるような気さえしてくる。
しかし、アルベドは怒りを一歩手前で抑えグランツを見下すように、嘲ると鼻を鳴らした。
「闇魔法……闇魔法ねぇ。『平民』でも、闇魔法の事はさすがに知ってるか」
「……ッ」
「なあ、お前護衛騎士なのに剣は持ってないのかよ? 騎士の必須アイテムだろ? なあ、剣は? まさか、『平民』だから持ってないとかじゃないよなあ」
と、アルベドはまるでグランツを挑発するかのようにいった。
先ほどグランツが『闇魔法』を強調したように、今度はアルベドはグランツに対して『平民』という言葉を強調していった。そう、それは仕返しのように……
(しまった! グランツが護衛騎士になったときの祝いにって、魔剣を買ったのに渡すの忘れてたんだった!)
私は、アルベドがグランツに言った言葉で思い出した。
そう、グランツの為にとわざわざリュシオルを連れて城下町で一番評判の武器やにいってあれやこれやと、剣を見て選んで買ってきたというのに、すっかりグランツと再会できたことが嬉しくて渡し忘れていたのであった。
丸腰の騎士とかそりゃ馬鹿にされる。
これは、私の落ち度だ。
そう、思いグランツを見ると彼はいつもの無表情で、しかし怒りを隠し切れていない様子でアルベドを見ていた。
「短剣でも俺は、エトワール様を守れます」
「へえ、随分と腕に自信があるようだな。平民のくせに」
「……」
売り言葉に買い言葉。
もはや喧嘩を売らないと会話が成立しないのではないかと思うぐらい、二人は火花を散らしていた。
いや、押されているのはグランツだけだ。
そして、今にも殴り合いが始まりそうな勢いだったので、私は仲裁に入ることにした。これでも、入るかどうか迷ったが、ここまでの言い争いになると多分どっちも折れないだろうと思ったからだ。
「ちょっと、私の護衛のこと悪く言わないでよ」
「ああ? 彼奴から喧嘩ふっかけてきたのにか?」
「……喧嘩ふっかけたわけじゃないでしょうが!」
私がそう返せば、アルベドはやれやれと言った感じに肩をすくめていた。
私はその態度に腹が立って、グランツの頬を掴んで彼を指さした。怒りにまかせてきっとグランツにも八つ当たりしてしまったんだろうが、この時の私は、アルベドの言葉にカチンときすぎていたのだろう。
「私の護衛! もう、絶対悪く言わないで!」
「痛いです。エトワール様」
と、グランツは静かに声を上げた。
そんな風に、アルベドと睨み合っていると、そそそっと私達の方に近付いてきた彼の執事、ファナーリクがアルベドに耳打ちをする。
「お坊ちゃま、転移魔法の準備が出来ました」
「ご苦労だったな。ってことで、お別れの時間みたいだ」
と、アルベドは不敵に笑う。
そして、ファナーリクから受け取ったピンク色のチューリップの花束を私に差し出してきた。
「な、何……」
「受け取れよ。別に魔法も何もかかってない。ただの花束だ」
「なんで?」
「お近づきの印に」
そう言うと、私の言葉など無視してアルベドは強引に私の手の中に花束を押し付けた。
しかし、アルベドが何を考えているのか分からず私は困惑する。
(花なんて、似合わない……)
私にも、勿論アルベドにも。
けれど、返却する理由もなく花に罪はないので私はチューリップの花束を渋々受け取ることにした。
それから、私達は聖女殿までワープするために彼らに連れられ魔道士達が集まる広場へと案内された。そこには魔方陣のようなものが石床に描かれており、黒服の人達が何十人か待機していた。初めは一斉に殴りかかってきたら勝ち目ないだろうと思ったが、そんなことは一切なく黙って魔法を唱え始めた。
そうして、私達の身体は紫色の光に包まれる。
その際、私はアルベドの方をちらりと見た。彼の黄金の瞳と目が合い、思わず逸らしてしまう。
「またな、エトワール」
「またなんて、ないわよ! もう二度と来ないから!」
と、私がアルベドに言おうとした瞬間私達はもの凄い光に包まれ聖女殿へとワープした。
「お坊ちゃま」
「ハハッ……面白ぇ女」
「……珍しいですね。お坊ちゃまが人に関心を持たれるなんて」
「ああ、そうだな」
そう、エトワールがいなくなったレイ公爵家の庭でアルベドは優しく微笑み、彼の好感度は10%を刻んでいた。