テラーノベル
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第一話 「閉店後のNostalgia」
ゴリゴリゴリ……。
静かな店内に、コーヒー豆を挽く心地よい音が響く。
ゆっくりとお湯を注ぐ。
ふわりと立ち上る香ばしい香りが、店いっぱいを優しく包み込んでいく。
ここは東京の一角。
都心から少し外れた、どこか懐かしい空気が流れる街。
その片隅に、ひっそりと佇む一軒の喫茶店。
「Nostalgia」
日々の疲れを癒やしたい人々が、自然と足を運ぶ場所。
そのカウンターに立つ青年が、この店のマスター、ジント。
最近、父親からこの喫茶店を引き継いだばかりの若き店主だ。
コーヒーとギターをこよなく愛し、静かな時間を何より大切にしている。
「……よし。」
今日最後のお客さんを見送り、自分のための一杯を淹れる。
この時間だけは誰にも邪魔されたくない。
そう思いながら、幸せそうにカップを持ち上げた、その時だった。
カランカラン。
「ぁ゙ぁ〜疲れた〜……」
店内へ、ヨタヨタと一人の男が入ってきた。
ジントはゆっくりと閉店の札を見つめ、それから男を見る。
「……お客さーん、閉店の札見えませんでしたー?」
「もう固いこと言うなよぉ。俺今日も頑張ったんだよぉ……」
目の下には濃い隈。
乱れた髪。
魂が半分くらい抜けている男。
彼の名はハヤト。
ジントの高校時代からの親友であり、広告代理店で営業として働く、ごく普通のサラリーマン……なのだが。
毎日会社に命を削られている。
そんな彼にとって唯一の癒やしが、この喫茶店と、ジントの淹れるコーヒーだった。
「ねぇジント〜聞いてよ〜。課長が酷いんだよぉ……」
「はいはい。」
結局追い返すこともなく、ジントは新しく豆を挽き始める。
「で、今日はどしたの?」
カウンター越しに問いかける。
「はぁ~、もうマジやってらんね!
課長のやつ、取引先との連絡ミスをさ、俺のせいにしやがるんだぜ!
あのハゲ親父め!!」
怒りを思い出したように身振り手振りを交えて話すハヤト。
「そっかそっか。ハヤトも大変だな。」
いつものことだと思いながら、一応慰めておく。
やがてコーヒーが出来上がる。
「はい。」
「ありがと……。」
一口飲んだ瞬間。
「……はぁぁぁ。」
全身から力が抜けた。
「やっぱジントの淹れるコーヒー最高だわ。」
「そりゃどーも。」
素っ気なく返事をするジント。
けれど耳だけは少し赤くなっていた。
そんな様子を見て、ハヤトは小さく笑う。
その穏やかな空気も束の間。
カランカラン。
「おー!ハヤトも来とったんかぁ!」
夜とは思えないほど元気な声が響く。
現れたのは、満面の笑みを浮かべた青年。
テーマパークでキャストをしているダイチだった。
「お〜ダイチ、お疲れ〜。」
ハヤトが手を挙げる。
ジントは頭を抱えた。
「え〜……今日は早く帰れると思ったのに、ダイチまで来たら絶対帰れないじゃん……」
「もぉゴメンって〜!なんか今日来たなってん!」
「結局いつもこうなるんだよなぁ…。」
「まあまあ!」
ダイチはハヤトの隣へどっかり座る。
「今日も仕事?」
「今日は練習だけな!もうすぐ新しいパレード始まるから、その準備や!」
上着を脱ぐと、鍛えられた腕が現れる。
ハヤトは羨ましそうに眺めた。
「二人ともいいよなぁ……好きな仕事できて。」
「俺なんか毎日会社にこき使われてさぁ……。」
ダイチはハヤトの肩をぽんと叩く。
「ハヤトは頑張りすぎなんよ。たまには肩の力抜かなあかんで?」
「そうは言ってもなぁ……。」
弱々しい返事。
ジントはダイチの前にもコーヒーを置く。
「俺だって好きなことだけやってるわけじゃないし。経営だって勉強だってやらないとだし。」
「そうやねぇ。みんな何かしら頑張っとるもんな。」
少しだけ、しんみりした空気が流れる。
すると。
カランカラン。
「なんや、みんなおるやん!」
勢いよく入ってきたのは、人懐っこい笑顔のシュンタ。
その後ろから、眠そうな顔で入ってきたのはモデルのジュウタロウだった。
「はあぁ……今日残業確定じゃん……。」
ジントが天井を見上げる。
「ジンちゃん、俺らもコーヒーちょうだい!」
「はいはい……。」
もはや断る気もない。
「二人一緒だったんだ?」
ハヤトが尋ねる。
「こっち向かっとる途中でジュウ見つけたんよ。」
「俺は帰るつもりだったんだけど、シュンタに連れて来られた。」
「友達は道連れや。」
「その言い方やめて。」
店内は一気に賑やかになる。
「二人も仕事帰り?」
ダイチが聞く。
「うん。来週から試験やから、今日は残業。」
教師のシュンタが肩を回す。
「俺は朝四時起きで撮影だったから……もう眠い。」
ジュウタロウが欠伸をする。
「モデルも大変なんだな。」
「時間が不規則だからね。」
五人の前に、それぞれコーヒーが並ぶ。
するとダイチが勢いよく立ち上がった。
「とりあえず!」
「みんな今日もお疲れ様!!」
「なんや、ビールで乾杯する勢いやな。」
シュンタが笑う。
「コーヒーで乾杯する?」
ジュウタロウがカップを持ち上げる。
「頼むから溢すとか、カップ割るとかだけはやめてね?」
ジントが慌てる。
店内に笑い声が響いた。
今日も喫茶店「Nostalgia」には、温かな時間が流れていた。
……その時だった。
ピコーン!ピコーン!ピコーン!
何やら警報の様な音が、全員のポケットや鞄から鳴り響く。
「……え?」
「マジか……」
五人が一斉に顔を上げる。
それぞれ、取り出した小さな通信機の通話ボタンを押す。
その向こうから、切羽詰まった声が響く。
『た、大変です!!』
『”あと五分怪人”が出現しました!!』
店内が静まり返る。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
ハヤトがそっと手を挙げる。
「……あと五分なら、待ってあげれば?」
『ダメなんです!!』
『その”あと五分”が永遠に終わらないんです!!』
「「「「「なにそれぇぇぇぇぇ!!?」」」」」
シュンタが勢いよく立ち上がる。
「しゃあない。仕事や!」
ダイチも拳を握る。
「よっしゃ行くで!!」
ジュウタロウは眠そうな目をこすりながら首を傾げる。
「……今日はやめてほしかったなぁ」
ハヤトは絶望した顔で叫ぶ。
「俺もう疲れてるんだけどぉぉぉ!!」
ジントは額に手を当て、大きくため息をついた。
「……俺のコーヒー、まだ一口も飲んでない……」
五人は勢いよく店を飛び出していく。
店内には、湯気を立てたままの五つのコーヒーカップだけが静かに残されていた。
次回!!
『あと五分怪人、現る!!』
コメント
4件

あと5分怪人って(,,,>ฅฅ<,,,) 続き楽しみです
今まで見た事ないジャンルのお話で面白すぎました🤣ほんと最高です! comiさんの書くお話大好きです! 次回が気になる〜(っ ॑꒳ ॑c)
お疲れさま〜!!第2話読んだよ🌸✨ ハヤトの課長への愚痴とか、ジントの素っ気ないけど耳が赤くなる照れ隠しとか、もうね…日常の空気感がめっちゃリアルでほっこりした😭💕 そこにダイチ、シュンタ、ジュウタロウが集まってきて、一気に賑やかになる展開が「Nostalgia」の居心地良さそのものだなって思った! で、最後の「あと五分怪人」のまさかのオチwww コーヒー一口も飲めずに飛び出していく五人、想像したら笑える🤣 次回どんな戦いになるのかめっちゃ気になる〜!続き待ってるね⋆♡