テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

***


静かに下っていくロイヤルブルーのインプを、榊と一緒に並んで見送った。

数秒後にタイヤの派手なスキール音が耳に聞こえてきたことで、ダウンヒルが開始されたのを知る。


(いつ聞いても、自分の車から出てる音とは思えねぇんだよな。和臣くん、何本目のコーナーまで耐えられるだろう)


そんなことを考えつつ、隣にいる榊を見上げた。ここまで響き渡るスキール音に不安になったのか、両手を握り締めながら、心配そうな面持ちをありありと浮かべていた。


「大丈夫だ。アイツの運転技術は俺が保証する」

「橋本さん……」

「この日のために仕事が終わってから、ほぼ毎日走り込んで、誰よりもここを熟知してる。たとえ不測の事態に陥っても、雅輝ならいとも簡単にやってのけるからさ」

「運転が上手な橋本さんにここまで言わせるなんて、宮本さんはすごいんですね」


感嘆な声をあげた榊にレクチャーすべく、人差し指を立てて言葉を続ける。


「ああ。今日のメンツの中で間違いなく、一番の負けず嫌いだからこそ、絶対に格好悪いところは見せないようにするだろうな」


(もしかして和臣くんの可愛さを意識して妙に張り切っていたら、俺としては複雑だけど……)


「宮本さんが一番の負けず嫌い。そんなふうに、全然見えないですよね。ハンドルを握ると、人格が変わっちゃうみたいな感じですか?」

「いやいや、そうじゃねぇんだ。見た目と喋り方がおっとりしてるから、まんまと騙されるだけ。中身は頭のネジが吹っ飛ぶくらいにクレイジーで、情熱的なヤツなんだよ」


自分は宮本じゃないのに、なぜか胸を張って説明してしまった。


「へぇ、そういうところに惹かれたんですね」


思ってもいなかった榊のツッコミに、橋本の頬がぶわっと熱くなる。


「ぅうっ、ま、そういうことにしておいてくれ……」

「ちなみに、結婚しないんですか?」

「ぶっ! おまえは俺の親かよ。アイツと付き合いはじめて、まだ日が浅いっていうのにさ」


容赦なく繰り出される恋愛話に、頭の中がじわりじわりと混乱していく。


「でも結婚したいなっていう気持ちは、付き合いの浅さには関係ないかと思うんですけど」

「恭介ってば自分が新婚で幸せだからって、自慢しようとしてるだろ」


ここは切り返してやらなければと考え、新婚というワードを出して虐めてやることにした。すると、何を言ってるという感じを表すように形のいい眉毛を上げて、橋本を見下ろした。

上目遣いでその視線に合わせると、榊は優しい笑みを唇に浮かべながら口を開く。


「幸せに決まってるじゃないですか。よほどのことでもない限り、和臣が誰かにとられたりしないですし――」

「おまえも誰かに、ちょっかい出されることもないってな」


合わせていた視線を外して、榊の薬指にはめられている指輪を見てから、手前にある柵の下を見下ろした。木々の隙間からインプの青い色が、チラチラ見え隠れしていた。


(以前ならこの手の話題や恭介の指輪を見ただけで、胸の中が痛くてしょうがなかったのに、雅輝のお蔭で穏やかに話すことができるようになったな――)


「橋本さん、宮本さんに例のこと……」

「一応、口止めしてある。それに雅輝のあの運転中に、和臣くんがまともに会話ができるとは思えない」


橋本の名前を伏せて宮本が榊に告白したことは、それぞれ胸の内に秘めてなきものにしていた。過去のこととはいえ、自身の気持ちなど複雑な事情が入り組んでいるため、そのことを知っている宮本も和臣に知られないようにすべく、必死になって隠してくれるだろう。


「宮本さんにぞっこんですね。車でのやり取りを見ていて、いいなって思いました」

「……本当にいいなって思えるか?」


どんどん小さくなっていくインプに向かって、右手を伸ばしてみる。橋本の手をすり抜けるみたいに車体を横に滑らせながらコーナーを曲がり、やがて手の届かない場所に隠れてしまった。

不器用なふたり この想いをトップスピードにのせて

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚