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よし、行くか。
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が外に出ようとすると、彼女はそれを止めた。
それはヒバリ(半袖、半ズボンのサイズにまで体に巻いている赤い包帯と赤髪ロングと赤い瞳が特徴的な朱雀《すざく》の本体)だった。
「ねえ、ナオト。どこ行くの? もしかして、ミカンちゃんとの約束を破ろうとしてるの?」
彼女は彼の行《ゆ》く手を阻《はば》んでいる。
「そ、それは、その……あ、雨がまだ止んでないか確認しようと……」
「ナオトの両耳は飾りなの? 部屋の中にいても雨の音は聞こえるよ」
「そ、そうか。じゃ、じゃあ、俺はこれで……」
彼がその場から立ち去ろうとした時、彼女は彼の手を掴《つか》んだ。
「ねえ、ナオト。ナオトはミカンちゃんとの約束を破ろうとしたよね?」
「そ、そんなことはない……」
彼女は彼の目をじっと見つめる。
「とは言い切れないかな」
「やっぱり破ろうとしてたんだね。そんな悪い子には、おしおきをしないといけないね」
「お、おしおき?」
「うん、そうだよ。えっと、私の炎でこんがり焼かれるのと、一気に焼かれるのだったら、どっちがいい?」
彼女はニッコリ笑っている。
それ、どっちにしろ焼かれる運命だろ。
「どちらも嫌です。女の子に焼かれて死ぬのは、ごめんです」
「そっか。なら、私の遊び相手になってよ」
「遊び相手?」
「うん、そうだよ。まあ、お互いの体の弱いところを探し合って責めるっていう遊びなんだけどね」
「ちょ、ちょっと待て! それだと俺が圧倒的に不利だろ!」
「不利?」
「だって、俺の性感帯が左耳ってことは、ここにいる全員が知ってるだろ?」
「それがどうかしたの? おしおきなんだから、ナオトが不利なのは当然だよ」
「そ、そんなー。勘弁してくれよー」
「……なーんてね。冗談だよ。そんなことしたら、みんなに殺されちゃうよ」
「え? じゃあ、おしおきは……」
「するよ。ミカンちゃんが寝ている間にミカンちゃんとの約束を破ろうとしたんだから」
「で、ですよねー」
「けど、焼いたりなんかしないよ。まあ、とりあえず私のこと抱きしめてよ」
「え? あー、分かった。えっと、こうか?」
彼が彼女を抱きしめると、彼女は彼を押し倒した。
「……っ!? ちょ、いきなり何す……」
彼女は自分の人差し指を彼の唇《くちびる》に押し当てた。
「しー! あんまり大きな声出すと、ミカンちゃん起きちゃうよ。だから、できるだけ声を出さないようにして」
「わ、分かった」
彼女はニッコリ笑うと、彼の心臓の鼓動《こどう》を聞き始めた。
「ナオトの心臓って、蛇神《じゃしん》の心臓なんだよね?」
「え? あー、まあ、そうだな。俺の心臓は……うっ! お、おかしいな。俺、自分の心臓がどこにあるのか知ってるはずなのに、それを思い出そうとすると頭が……」
「無理に思い出そうとしなくていいよ。きっと、そのうち思い出すから」
「そ、そうかな?」
「うん、きっとそうだよ。それじゃあ、いただきます」
「え? ちょ、お前いったい何を……」
彼女は彼が最後まで言い終わる前に彼の左耳を甘噛みした。
「……っ!? お、おい、ヒバリ! そこはやめてくれ! お願いだから!」
彼は小声で彼女にそう伝えたが、彼女はそれをやめようとしない。
「ヒ、ヒバリ……! そ、それ以上されたら……俺、なんか……おかしく……なる……!」
「え? あー、ごめんね。ちょっとやりすぎちゃった」
彼女はニッコリ笑うと、彼の頭を優しく撫で始めた。
「次、約束を破ろうとしたら、今のをずーっとやるから覚悟しておいてね?」
「は、はい、分かり……ました。もう、しません」
「よろしい。ナオトはいい子だねー」
彼女はしばらくの間、彼の頭を撫でたり、頬をツンツンとつついたりしていた。
雨は……まだ止まない。