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2年後。
長かった海外でのプロジェクトが、大きな成果を収めてひとまずの完結を迎えた。
大規模な契約が成立し、クライアントからも絶賛され、すちの名前は現地の業界内でも大きく知られることとなる。
パーティーの席では何人もの関係者が祝辞を述べたが、すちはそのたびに、静かに「支えてくれた人のおかげです」とだけ答えた。
みことはその場に立ち会っていた。スーツ姿のすちは、いつも以上に凛としていて、誇らしかった。
しかし壇上からふと目が合った瞬間――すちはふっと優しく微笑み、みことにだけ向けた穏やかな目でそっと頷いた。
その目を見ただけで、みことの胸が熱くなった。
数日後、ふたりは久々の日本へ帰国した。
機内の中、みことはすちの肩に寄りかかりながら、小さな声でつぶやいた。
「……帰ってくると、なんだか安心するね」
すちはその柔らかい髪をそっと撫でながら答える。
「うん。でもどこにいたって、みことがいれば落ち着くよ」
空港に降り立ったふたりを迎えたのは、懐かしい湿気のある空気と、久々の日本語に満ちた街の音だった。
そのままふたりは、住まいへと向かう。
みことが先に部屋へ足を踏み入れると、玄関の壁には、さりげなく飾られた「Welcome Home」の文字。
みことが目を丸くして振り返ると、すちは少し照れくさそうに微笑んだ。
「……帰ってきた記念。ちょっとはサプライズになるかなって」
「なるよ、もう……嬉しすぎて泣きそう」
思わず抱きついたみことに、すちはしっかりと腕をまわし、ぎゅっと引き寄せる。
「ここでも、また一緒に思い出つくろう」
みことは久々に友人たちと再会し、こさめやひまなつとも感動のハグ。
「すちと仲良くしてる?」とからかわれ、「してるよ……すごく」と少し照れた顔で答えるみことに、みんなはニヤニヤする。
すちも両親に再会し、「あら、前よりもっと優しい顔になったわね」と母に言われ、「そう?」と笑った。
そして夜。
ふたりがベッドに並んで横になると、みことがすちの胸に顔をうずめる。
「……ねえ、また一緒に日本でも頑張ろうね」
「もちろん。どこにいたって、俺は君の味方だよ」
そう言って、すちはみことの薬指に、光る指輪にそっとキスをした。
━━━━━━━━━━━━━━━
帰国後、生活の忙しさもあり、すちとの距離が少しだけ遠く感じていたみこと。
優しさも変わらず、穏やかで包み込むような愛情もある――けれど、どこか物足りないと感じる夜が増えていた。
___
「ただいま」
リビングの明かりをつけ、スーツの上着を脱ぎながらすちは違和感を覚えた。
いつもなら玄関のドアが開いた瞬間、ぱたぱたと軽い足音がして、みことが「おかえり!」と笑顔を見せるはずだった。だが、今日は違う。
「みこと?」
呼んでも返事はない。
一瞬、不安が胸をよぎったそのとき――寝室の扉のほうから、か細い声が届いた。
「……おかえり」
気だるげな声音。もしかして体調が悪いのかと、早足で寝室へ向かう。
扉を開けた瞬間、視界が一気に熱を帯びた。
「…………みこと……?」
そこにいたのは、黒いレースのメイド服を身にまとった、誰よりも愛しい存在。
うなじを飾る白いレースがやけに色っぽく見えた。
裾は短く、白いガーターがふとももを締め、黒のハイソックスがその細い脚を包み込んでいる。
みことは、視線をすちから逸らして、唇をかみしめていた。
「……ねえ、すち……今日は……しても、いい……?」
喉の奥で何かがはじけた音が、すちの中に響いた。
それは、ずっと張りつめていた理性という名の糸。
疲れて帰宅して、癒されるだけで満足だった。触れたい衝動を抑え込むことにも慣れていた。
けれど。
「……お前、何して……誰にそんなこと、教わった?」
すちの声は低く、熱を帯びていた。
みことはきゅっとシーツを握りしめて、うつむいたまま答える。
「……なっちゃんに……最近さみしいなら、これでって……言われて……」
言い終わる前に、すちの影が覆いかぶさってきた。
大きな手がみことの腰をすくい、するりと胸元まで持ち上げられる。
そのまま、ベッドへ倒れ込むように押し倒される。
「さみしかった?」
「……うん」
「俺以外の誰かに、そうやって相談して……こんな格好して、俺の前に立った理由がそれだけ?」
みことは少しだけ戸惑った表情を浮かべた。
「……ちがう。……すちが、好きだから……触れてほしかった。……汚して、よごれてもいいから……」
その瞬間、すちは一気に身体を重ね、唇を噛むように奪った。
柔らかく震える舌に絡みつきながら、奥へ奥へと求めていく。
すちの手はみことの頬を撫で、髪をかき上げ、背中を伝って腰へ。
「そんなこと言うなら……遠慮はしないから」
「……んっ……」
身体の奥まで染み渡るような声音で囁かれ、みことは小さく身を震わせた。
何度も何度も唇を重ねるたびに、みことの喉から漏れる吐息は甘く熱を帯びていく。
すちの指が背中から腰、太ももへと這い降りるたび、身体が震える。
熱がこもった視線を受けながら、みことはそっと脚を開き、両手でスカートの裾を持ち上げた。
「……すち、もう……我慢できない……」
か細い声だった。けれどその言葉には、明確な意志が宿っていた。
視線が絡み合い、ふたりの間にあった“境界線”が崩れる。
「……準備、したから……お願い、早く……触れて、奥まで来て……」
すちの中で、何かが完全に壊れた。
普段は理性を抑えている彼が、獣のようにみことを押し倒し、躊躇なくその華奢な身体を貪る。
「……そんなこと言うから……もう止められない」
熱い吐息が首筋にかかり、舌先が耳元をなぞるたび、みことの声は涙のように震えた。
すちの動きは激しく、情熱的で、どこまでも深かった。
まるでこれまで我慢してきた愛情を、今この瞬間に全部ぶつけているかのように。
ベッドが軋む音の合間に響く、みことの甘い声と、愛しさが溢れたすちの低い囁き。
「……他のやつにこんな姿、絶対見せるな……お前は……俺のものだよ……」
「……うん、俺は、すちのだけっ……」
そう応えたみことの瞳には、涙がにじんでいた。
けれどそれは苦しみの涙じゃない。嬉しさと愛情が、すべての感情を上書きしてあふれ出たもの。
身体がぶつかり合い、唇が何度も重なり、ふたりは名前を呼び合いながら、何度も、何度も深く繋がった。
「ああ……っ、すち……すちぃ……っ」
みことの声が、少し掠れていく。
何度も与えられる刺激に、脚が震え、指先がシーツを必死に掴んでいる。
その姿を見て、すちは愛しさと同時に、止めようのない征服欲に呑まれていった。
「まだ、声出せるね……? 感じてる顔……全部見せろ」
「ん……っ、や……っ、はず……」
「隠すな。かわいすぎて、おかしくなる……お前ほんと……っ、もう……」
言葉の途中、すちの舌がみことの首筋を這い、甘く噛んで跡を残す。
それはまるで「自分だけのものだ」と刻印を押すような愛の証だった。
すちは指先でみことの手を絡め取り、シーツの上へ押し付けた。
その手は大きく、熱を帯び、そしてなにより、どこまでも優しい強さだった。
「……壊したいくらいかわいい。けど……絶対、壊さない。壊せない……」
「すち……」
ふたりの瞳が重なり、みことはそのまま小さく首を縦に振った。
許しも、信頼も、愛も、全部をその仕草ひとつで伝えた。
そして、再び身体が重なり合う。
ぬくもりが溶け合い、熱が混じり合い、音も感触も、全てがふたりだけのものになる。
「……んぁ、あっ……すちぃ……っ」
みことの背中が反る。細い腰をすちの腕が受け止める。
そのまま何度も深く、そして優しく貪るように動くすちに、みことはただ名を呼び続けるしかできなかった。
「みこと、好きだよ」
「……っうん……俺……すちだけの……好きっ…やから…」
どんなに強く抱きしめられても、どんなに求められても、心は苦しくならない。
すちの狂おしいほどの愛情は、みことの胸をただ温かく満たしていく。
みことは、すちに愛されることで――自分の存在そのものが肯定されているような、そんな感覚に包まれていた。
みことの指先が小刻みに震え、脚がすちの腰にしがみつくように絡まる。
「……っすち……もう……無理かも……」
かすれた声が甘く、切なげに響く。
何度も奥を叩かれ、身体の芯が熱にとろけていく。
涙すら浮かぶその瞳に、すちは狂おしいほどの愛おしさを抱いた。
「まだ。お前が……俺の愛を、全部受け止めないと……」
すちはそのまま、みことの身体を持ち上げ、抱き寄せたまま体勢を変える。
ぴったりと密着し、目を合わせながら動きを深く強くしていく。
「ひとりでなんて……絶対眠らせない。今は、俺の愛、全部ぶつける」
「……うん、うん……っ、きて……すち……もっと……愛して……」
本音だった。
抱き潰されるように、愛されたい。
寂しさを上書きしてもらうように、心の奥まで満たされたい。
みことの願いは、すちの中で狂気にも似た愛へと変わっていく。
腰を打ちつけるたび、部屋の空気が熱に歪む。
何度も高まり、震え、全身で愛を受け止めるみこと。
その姿に、すちは理性の残り火までも燃やし尽くしていった。
「かわいすぎるんだよ……。ほんと…誰にも見せたくない……」
「ん……っあ、すち、すき……っ、だいすき……!」
愛があふれて、心と身体の境界がなくなっていく。
すちの瞳は熱に濡れ、焦点が定まらないほどに、ただみことを見つめていた。
「……まだ、いけるよね?」
熱をはらんだ声。
触れる手は優しいのに、奥まで激しく貫いたさっきまでの余韻が、まだみことの身体の中に生々しく残っていた。
「すち、もう……っ、おかしくなっちゃうよ……っ」
みことは腕の中で震えていた。
けれど、その瞳には拒絶も苦痛もない。
あるのはただ、愛される悦びと、すちにしか与えられない深い快楽への陶酔。
その顔を見て、すちは再び欲望を剥き出しにする。
「ねぇ……もっと俺に狂わされて? お前が俺だけのものでいるって、身体にもっと……刻ませて」
「……うん……すちの、だけの、俺だよ……もう、全部……すちにあげたから……」
スカートの裾は乱れ、喉元にはいくつも紅い痕。
肌には、さっきまでの激しい愛撫の証が残っていた。
みことは、それを恥ずかしがるどころか、誇らしげに微笑む。
「もっと……つけて? 見えないとこも、全部……」
「……言ったな。もう知らねぇよ」
その瞬間、すちは再び唇を這わせ、胸元、鎖骨、腰――
何度も、執拗にキスマークを刻んでいく。
そしてみことの手を取って、頭上に固定する。
まるで逃げ道を与えないように。
いや、逃げられると思っていない――この夜はもう、完全に俺のものだという宣言。
「声、もっと聞かせて? 他の誰にも聞かせたくねぇけど……今だけは、俺だけの耳に、ずっと響かせて」
「あっ、やっ……そんなに、しちゃ……っ、だめぇ……っ」
「ダメじゃない。……お前が俺を欲しがって、誘った夜だろ?」
声が潤んでいく。身体が震えていく。
みことの中に残っていた理性が、甘く、快感の波に呑まれて溶けていく。
「こんな姿、俺にしか見せるなよ。お前は俺の、俺だけの……生涯のものだ」
「うん、うん……っ、すち、すち、だいすき……っ、俺……すちに、全部愛されたい……っ」
ベッドの上で、夜は再び燃え上がる。
絡み合う唇、火照った肌、汗ばんだ髪――
どれも、すちの愛で染め上げられていく。
幾度目かの絶頂を迎えても、すちは止まらなかった。
狂気にも似たその愛情は、ただ快楽を貪るだけじゃない。
「離す気はない」――その確かな意志と、計り知れないほど深い、ただ一人への愛だった。
「ほら……ちゃんと見てろ。これ、お前が俺のもんだって証だから」
すちはみことの左手を取り、その薬指に光る銀の指輪を唇で優しくなぞった。
そして、そっと舌先で触れ――キスを落とす。
まるで、そこがみことの最も大切な場所だと言わんばかりに。
みことの喉が、びくんと跳ねる。
「……っ、すち……指輪、そんなに……」
「当たり前だろ。俺の名前が刻まれてる、お前の“証拠”だ」
すちの指輪にも、同じようにみことの名前が刻まれている。
けれど――すちにとっては、それでも足りない。
もっと、もっと、“みことは自分だけのもの”だと実感していたい。
だから、もう一度――
「なあ……ここにも、キスマークつけていい?」
「えっ……ゆ、指輪のとこ……?」
「ダメって言っても、つけるけど」
にやりと笑って、すちは指輪のすぐ下――指の付け根に、
わざと強く跡が残るように、甘く噛んだ。
「っ、あ……すち……あ……っ」
「誰にも見せられないようにしといてやる。……いや、誰かに見られたら、どうする?」
「や……っ、だめ、それは……俺、すちだけの……」
「そうだよな。……じゃあ、何度でも言え。俺だけのものだって。俺の名前、呼んで」
「すち、すち……っ、俺……すちの……全部、すちの、だよ……っ」
涙で濡れた瞳に、震える声。
なのに、みことの顔はどこか幸福に染まっていた。
その顔がたまらなくて、すちはもう一度、唇を重ねる。
薬指の指輪に触れた指先は、そのままみことの胸元、腰、脚――
全ての“自分だけが触れられる場所”を確かめるように這っていった。
「お前の指輪も……俺のも、はずさせない。死んでも、な?」
「……うん……っ、すちがいるなら、ずっと、してる……っ」
心も身体も、愛も、全部。
誓いの言葉よりも重く、深く、確かに、
ふたりは今夜――お互いの“檻”の中で、幸福に閉じ込められていた。
「……足りない。もっと、お前を、俺で染めたい」
すちの声が、低く掠れた熱を帯びて耳元で囁く。
既に幾度も愛された身体なのに、みことの心はそれ以上に敏感になっていた。
触れられるたび、愛を刻まれるたび、心の奥が溶けていくようで――
「すち……もう、充分……全部すちのものだよ……」
「“充分”なんて、ない」
そう言って、すちは再びみことの肌に口づけを落とす。
今度は首筋ではなく――鎖骨の先、脇腹、腰骨の横、太ももの内側……
柔らかく、普段は誰にも見せることのない場所。
そんな秘めた場所に、丹念に時間をかけて、ひとつずつ“印”を残していく。
キスというよりも、まるで呪いのように。
その痕を見れば、みことは「俺はすちに愛された」と何度でも思い出す。
「ほら、ここも……あ、ここも、まだだったな」
みことがびくりと震えるたび、すちはその反応に目を細める。
どこに触れても反応する愛しい身体。
声を堪えきれず、眉を寄せ、熱に頬を染める――その顔が、たまらなく愛しい。
「見てごらん。お前の身体、どこを見ても……俺しか、知らない」
ふと、すちがみことの手を取り、寝室の壁に立てかけられた姿見の前に座らせる。
そして背後から、肩を抱き寄せるようにして、鏡越しに愛しい人を見つめる。
「……ほら、見えるか? ここも、ここも……全部、俺のキスの跡」
「すち……っ、や、あの……こんなの、恥ずかしいよ……」
「恥ずかしがる必要ないよ。これは全部、お前が俺だけのものって、証明だから」
そして、すちは指でそっと太ももの内側をなぞる。
そこにある薄紅の跡――目立たぬように、けれど確かに残るそれは、
誰にも見せない“内側の独占”だった。
「明日になっても、きっと残ってる。だから……忘れんなよ。お前の身体の隅々まで、俺が愛したってこと」
「……うん……っ、ずっと、残ってて……消えないで……」
甘えるような声で、そう願うみこと。
そんな姿に、すちはそっと額をくっつけて囁いた。
「消えたとしても、また何度でもつけ直す。逃げようなんて、思うなよ?」
「思わない……っ。俺、すちのだから……壊れても、そばにいるから……」
その言葉が欲しかった。
だから、もう一度――唇を重ねる。
心に、身体に、指先に――
“すちの愛”という刻印が、深く、深く、みことの中に刻まれていった。
何度目かの絶頂を迎えたあと、ふたりは重なったまま崩れ落ちるように抱き合った。
荒くなる息を互いの肩に感じながら、名前を呼び合う。
ベッドのシーツは乱れ、熱と吐息がまだ部屋に残っていた。
それでも、みことの目はやさしく、とろけるようにすちを見つめていた。
「……いっぱい、愛してくれて……ありがとう……」
「……当たり前だろ。お前は、俺の全てなんだから」
夜はまだ深く、すちの腕の中で、みことはそっと目を閉じた。
肌を重ねることの先にある、心と心の繋がり――
それを確かめるように、ふたりは静かに、深く結びついていた。
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