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雨が降る今日このごろ5月10日給食の時間、二年三組の教室はいつも通りの賑わいを見せていた。給食の話で盛り上がり皆が楽しみにしていた。そして食べ始めて5分後。やがて異変が起きた。「う、気持ち悪い……」
「頭が……ぐるぐるする……」
一人、また一人と、生徒たちが顔を歪め、机に突っ伏す。救急車のサイレンが校舎を包み、保健室はたちまち満員になった。原因は明らかだった。給食に、何らかの物が混入していたのだ。
保健室のベッドに横たわる生徒たち。全員が同じ症状吐き気、めまい、意識の混濁。幸い、命に別条はないが、原因を突き止めなければ、再発の恐れがある。
「原因を解決しなくては」
セリーナは学校の給食がまずいと言い家から食事を持ってきていたため問題なかった。
セリーナは、保健室の外で立ち尽くし、唇をかすかに噛んだ。彼女は給食の残りを密かに回収し、家に帰りで簡易試薬を使って検査した。結果、微量の「アコニチン」——猛毒の植物アルカロイドが検出された。これは、トリカブトに含まれる成分。自然界には存在するが、学校の給食に混入するはずがない。
「誰かが意図的に毒を混入した。そして、その標的は……特定の人物だったのかもしれない」
翌日、セリーナは校内を歩き始めた。目を凝らし、耳を澄ませ、誰もが見過ごす「些細なズレ」を探る。セリーナは感覚過敏を持っており人の陰口も聞こえる。
まず、給食の流れを確認した。食材は外部の業者が調理し、学校の給食室で温め直して配膳される。調理場への立ち入りは厳しく制限されており、教職員のみが許可されている。
「つまり、犯人は教員か、あるいは教員に協力した人物……」
そして、彼女の視線は一人の人物に止まった。
桜井先生。学年主任だ。冷徹で規律を重んじる人物。生徒たちの間では「鉄の桜井」と呼ばれていた。
セリーナは、過去の出来事を思い出した。先月、二年三組の問題児・田中が、授業中に暴言を吐き、桜井先生に怒鳴りつけた。その腹いせに?だが桜井はもともと性格の悪い生徒には厳罰を強いている。
「田中……彼が標的だった?」
しかし、今回の中毒症状は全クラスメートに及んだ。標的が一人なら、なぜ全員が? その矛盾に、セリーナは眉をひそめた。
彼女は図書室で古い新聞を調べた。三年前、同じ学校で「生徒の自殺未遂事件」が起きていた。その生徒もまた、「問題児」として扱われ、桜井先生が担任だった。
「桜井先生は、『問題児』を排除しようと?」
さらに、セリーナは給食のメニュー表を分析した。今日の給食は、本来のメニューにはない。急きょ変更されたものだった。
「誰がメニューを変更した?」
給食担当の職員に尋ねると、こう答えた。
「桜井先生が『生徒たちに、苦手な野菜を克服させるべきだ』と、教育委員会に相談して、急きょ変更されたんです」
(桜井先生が、意図的にこのメニューを導入した。)
そして、セリーナは決定的な証拠集めに勤しむ。中庭にトリカブトが最近発見されたばかりだ。それがもしも使われたとしたら。
その考えは合っており一株消えていた。
さらに、桜井先生の机の引き出しをこっそり調べたセリーナは、古い手帳を見つけた。そこに書かれていたのは、驚くべき内容だった。
【教育とは、秩序を守ること。問題児は社会の害虫。一度でも逸脱を許せば、全体が崩れる。彼らを矯正するか、あるいは消すしかない。】
セリーナの背筋が凍った。
彼女は桜井先生を呼び出した。放課後、空の音楽室。ピアノの蓋が開けられたまま、静寂が広がる。
「桜井先生。あなたは、田中君を標的にした。でも、直接殺すことはできなかった。だから、給食に毒を入れ、事故に見せかけようとした。しかし、田中君は今日、風邪で欠席していた。あなたは、自分の計画が失敗したことに気づいていますか?」
桜井先生の表情が、わずかに揺れた。
「何を言っている。私はただ、生徒たちに健康な食習慣を……」
「アコニチンは、致死量に達していません。あなたは、田中君を『苦しめる』つもりだった。殺すのではなく、『社会的に抹殺する』——病欠、登校拒否、周囲からの孤立。そうして、自然と学校を去らせるつもりだった。でも、他の生徒まで巻き込んでしまった。あなたの『正義』は、狂っているそしてトリカブトのあった場所私知ってますよ」
「はあ?」
顰めっ面で桜井が言う。
「校庭の花壇にこっそり二株それがなぜか一株になっていた私撤去するように相談してたので」
セリーナが言う。
「そうかだが私はやってない!!私は、教育者だ。一度でも規律を乱す者を許せば、学校は崩壊する。田中は、授業を妨げ、教師を侮辱し、同級生を脅した。彼がいなければ、クラスは平和になる。私は……正しいことをしたかった」
「正義を気取って、人を傷つけるのは、ただの暴力だ」
セリーナの声は静かだったが、音楽室に響き渡った。
数日後、桜井先生は謹慎処分となり、心理カウンセリングを受けることになった。そして警察に書類送検されたという。田中は戻ってこなかったが、セリーナは彼に手紙を送った。
【君が悪いわけじゃない。ただ、間違った正義に、巻き込まれただけだ。前に進む勇気があれば、私はいつでも味方だ】
正義とは何か。教育とは何か。
答えは、まだ見つかっていない。
だが、彼女は知っていた。
真実を追うことが、セリーナにとっての唯一の正義だと。