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恭介が浴室から出ると、智絵里は既にベッドの中にいた。疲れたのかな……。そうだよな、いろいろなことがあり過ぎた。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、そのまま寝室に向かい、ベッドに腰掛けた。
今日の出来事を振り返り、本当はどうするべきだったのかを考える。智絵里が言った通り、俺はきちんと伝えるべきだったんだ。でもあの時は冷静になれなかった。
その時、恭介の腰に智絵里の腕が回される。ハッとして智絵里を見ると、目を閉じたまま布団にくるまっている。
「……起きてた?」
「……あんなことがあったのに、そんな簡単に眠れるわけないじゃない……」
「……だよね」
恭介は自分の腰に回された智絵里の手を、何度もに何度も握る。不安を隠しきれず、何か答えを求めているよう仕草だった。
「……恭介は考え過ぎなのよ。極度の心配性だし、しかも一人で考えて決めちゃうし……。これからは二人なんだからね……ちゃんと話し合うって約束して」
智絵里の方が辛かったはずなのに、俺の方が諭されるなんて……自分の不甲斐なさに呆れる。
智絵里がゆっくり起き上がり、恭介の背中を抱きしめた。
「……あのボイスレコーダー、お守りみたいなものとしてカバンに入れたんでしょ? まさかこうなることまで想定してた?」
「何かあった時のためにとは思った。もしあいつが現れたとして、智絵里に近付かせないようにするための証拠にしたかったんだ。でもまさか警察に提出することになるなんて……それこそ智絵里を傷つける結果になった……」
「そうだね……人に知られたくなかった過去が、ここに来て少しずつ明らかになっている……。私のこの先の生活がどうなるのか本当は怖くて仕方ない……」
そこまで話すと、智絵里は恭介の腹部を力いっぱい締め上げた。
「ち、智絵里! く、苦しい!」
「……そうよ、辛いのは私なの。あんたがいつまでも悲観的になってたらおかしいでしょ! 私を守ると言ったのはどこの誰⁈」
「お、俺です!」
「そうよ。それなら最後までちゃんと責任とりなさいなさいよ!」
「も……もちろんです……」
恭介の息が途切れ始め、智絵里はようやく腕の力を緩める。
「この問題に一緒に立ち向かってよ。それから私のことお嫁さんにしてくれるんでしょ?」
相当痛かったのか、恭介は下を向いて息を整えたまま黙っていた。しかし急に起き上がると、智絵里の両頬を摘んで引っ張る。
「何当たり前のこと言ってんだよ! 杉山なんか俺がぶっ潰してやる。それからお前のことを一生離してやらないからな。覚悟しろ」
智絵里は恭介の手を振り払うと、同じようにやり返す。
「望むところよ。絶対離れてやんないんだから。そっちこそ覚悟してなさい!」
二人は吹き出し笑い合うと、唇を重ねる。そしてそのままベッドへ倒れ込む。
「秘密はなしよ。どんな問題も二人でちゃんと共有しよう。わかった?」
「……気をつけます」
「本当に恭介の心配性は長所でもあり短所でもあるよね」
「……仰る通りです」
恭介の手がパジャマに裾から入り込むと、智絵里はその手を止めた。
「私、明日は会社を休む。大事な話をしないといけないから、今日はちゃんと寝よう」
「……じゃあ俺も会社を休む」
「明日は大事な会議があるって言ってたよね」
「うっ……じゃあ終わり次第駆けつける」
「うん、わかった」
行き場を失った恭介の手に、智絵里は自分の手を重ねる。
「……触るだけね」
「いいの?」
「……その方が私も安心して眠れそう」
恭介の唇が首に触れ、指先が肌をなぞる。その心地よさに酔いながら、智絵里はそっと目を閉じ、眠りの世界に堕ちていった。