テラーノベル
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キスのあと。あれから、ちゃんと隣にいる。
触れられる。
名前を呼ばれる。
好きだって、言われる。
なのに。
胸の奥が、静かにならない。
──放課後。
廊下の向こうで、
及川徹 が女子に囲まれてる。
笑ってる。
いつも通りの、あの笑顔。
「及川くん、今度映画行こーよ」 「えーいいよ、俺暇人だから」
軽い。
軽すぎる。
胸が、ひりつく。
“来る者拒まず”
その言葉が、勝手に浮かぶ。
あれは、過去形なのか?
それとも、今も?
足が止まる。
目が合う。
及川が一瞬だけ、表情を変える。
ほんの少しだけ、焦った顔。
でもすぐ、いつもの顔に戻る。
「岩ちゃん」
何事もないみたいに近づいてくる。
「今日一緒に帰る?」
当たり前みたいに。
でも、さっきまでの笑顔が焼きついてる。
「……お前さ」
声が冷える。
止められない。
「変わったって言ったよな」
及川の肩が、わずかに強ばる。
「俺は」
喉が詰まる。
信じたい。
でも怖い。
「俺はお前が最後だって思ってる」
言ってから、心臓がうるさい。
重い言葉。
でも本音。
「お前は?」
静かに問う。
及川は、一瞬目を逸らす。
それだけで、胸が落ちる。
「俺もだよ」
即答。
でも、遅い。
「……でも」
その一言で、空気が変わる。
「すぐ全部切れない」
岩泉の呼吸が止まる。
「俺、ずっとああやって生きてきたから」
軽く笑おうとしてる。
でも、うまく笑えてない。
「急に完璧な彼氏にはなれない」
胸が、ざわつく。
「……じゃあ俺は何なんだよ」
声が震える。
「特別だよ」
すぐ返ってくる。
でも。
“特別”と“唯一”は違う。
「特別は何人いる」
静かに問う。
及川が、言葉を失う。
沈黙。
それが、答えみたいで。
「……やっぱ無理だ」
背を向ける。
信じたいのに。
怖い。
「岩ちゃん、待って」
腕を掴まれる。
でも振りほどく。
「追うって言ったのはお前だろ」
振り返らないまま。
「なら、ちゃんと追えよ」
そのまま歩き出す。
今度は泣いてない。
でも、胸が痛い。
──
廊下に取り残された俺は、
初めて、本気で焦る。
“壊れたくない”って言ってたのは、自分だ。
でも。
壊れるのが怖くて、
壊しそうになってる。
岩ちゃんがいなくなる未来が、
初めて、現実味を帯びる。
「……やば」
小さく呟く。
これは、今までの“余裕の及川”じゃ守れない。
本気で変わらなきゃ、
奪われる。
岩ちゃんに突き放された背中を思い出す。
あの目は、本気だった。
──追うって言ったよね、俺。
廊下を、走り出す。
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