第五話:一歩踏み出す夜
その晩、真白はいつも以上に優しく、陽翔を抱きしめてくれた。
どこか遠慮がちに感じていた陽翔も、真白の温かさに包まれ、少しずつその心の壁が崩れていく。
「先輩、今日はなんか…すごく近いね」
「お前が、いつもより素直すぎるからだろ」
「素直って、言われると恥ずかしいな」
陽翔は少し顔を赤くして、真白の胸に顔を埋める。
そのぬくもりが、ますます心地よくて、もう離れたくないと思った。
「俺、先輩のこと…すごく好き」
「知ってるよ。お前は、ほんとにわかりやすいからな」
そう言いながらも、真白は陽翔を抱きしめて、ゆっくりと顔を近づけてきた。
その唇が触れる瞬間、陽翔は心臓が跳ねるのを感じた。
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キスが深くなり、真白の手が陽翔の背中に回り、ゆっくりと引き寄せられた。
陽翔はその手に安心感を覚えながらも、胸の奥で少しだけ不安を感じていた。
「先輩、俺、怖いよ…」
「怖いって?」
「だって、こんなに近くにいて、もっと触れたら…先輩、どう思うかなって」
真白は一瞬、何も言わなかった。ただ、陽翔の髪を優しく撫でながら、言葉を選ぶように口を開いた。
「お前がどう思うかは、俺には関係ない。お前がしたいことをすればいい」
その言葉が、陽翔の中で何かを弾けさせた。
自分が真白に触れたい、もっと深く知りたいと思う気持ちが、次第に強くなっていく。
「でも、怖いんだよね…」
陽翔は真白を見上げる。その目は、決して軽いものではなかった。
真白はその目をじっと見つめ返してから、少しだけ微笑んだ。
「怖くても、俺がいるから大丈夫だろ」
その言葉に、陽翔は静かにうなずいた。
そして、今までの遠慮を全部捨てて、真白に手を伸ばす。
「先輩、お願い…」
その一言に、真白の表情が一瞬で柔らかくなる。
彼は陽翔をしっかりと抱きしめ、その顔を両手で包み込むようにして、唇を再び重ねた。
そのキスは、優しさだけではなく、深い愛情が込められていた。
互いに感じ合い、少しずつその距離を縮めていく。
手が触れるたびに、陽翔の心臓が速くなる。彼は何度も深呼吸をして、ゆっくりと自分の気持ちを落ち着けようとした。
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そして、今度は真白が、ほんの少しだけ後ろに下がって、陽翔を見つめた。
「お前、まだちゃんと覚悟できてないんだろ?」
「うん…でも、先輩となら、ちゃんとできると思う」
陽翔は真白を見つめて、静かに手を伸ばす。
その手を受け取った真白は、ゆっくりと陽翔を自分の方に引き寄せ、静かに、でも確実に、一歩を踏み出した。
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その夜、ふたりはお互いの気持ちを、全て素直にぶつけ合った。
最初は少し躊躇いながらも、次第にそれを怖がらずに受け入れ、お互いに触れ合うことで、初めての夜を迎えた。
そしてその翌朝、目を覚ました陽翔は、真白が横にいることが不思議で、でも嬉しくて、心が満たされたように感じていた。
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