テラーノベル
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声は、10年前に捨てた
ガサガサと砂を噛むような音しか出なくなった喉を指でなぞりながら
私は暗い部屋でスマートフォンの青白い光を見つめている。
画面の向こう側では、一人の女が「正義」を説いていた。
「いじめは、魂の殺人です。私は絶対に許しません」
フォロワー100万人を抱える超人気インフルエンサー・美波
白を基調とした清潔感あふれる部屋で、彼女は聖母のような微笑みを浮かべている。
笑わせないで。
10年前、私の喉に無理やり熱湯を流し込み
文化祭のステージで這いつくばる私を「ゴミ」と呼んで笑ったのは、どこの誰だった?
私の人生はあの日からずっと止まったままだ。
コンビニのレジでも、役所の窓口でも
常に筆談用のボードを持ち歩き、憐れみの視線に晒される毎日。
対して彼女たちは
あの残酷さを「若気の至り」という魔法の言葉で消し去り
今は誰もが羨む「勝ち組」の椅子に座っている。
美波だけじゃない。
モデルとして華々しく活躍する愛華
医者の妻となり、SNSでブランド品を自慢し続けるエリカ
エリート秘書としてバリバリ働く沙織
そして、彼女たちの腰巾着だった真由美
私の喉を焼き、心を殺した5人の魔女。
(……さっさと死ねばいいのに)
声にならない呟きが、乾いた肺から漏れる。
その時、スマートフォンの画面が切り替わった。
インストールした覚えのないアプリ、『パンドラ』
黒い背景に、血のような赤で一通のメッセージが表示される。
【契約成立:交換殺人へようこそ】
あなたの代わりに、あなたの仇を一人葬りました。
次は、あなたが私の仇を殺す番です。
直後、SNSのトレンドが跳ねた。
速報。
人気モデルの愛華が、撮影現場のビルから転落死。
指先が震える。
狂喜か、恐怖か。
私のスマホに、死んだ愛華の無残な姿が画像で送られてくる。
「完了」
その一言と共に、私は10年ぶりに口角を吊り上げた。
深冬芽以
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