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鬼の血液量は、常人に比べて段違いであることが知られている。
だがそれを踏まえても、屏風ヶ浦の小柄な体にこれだけの血液が流れているのは異常だった。
突然の出来事に対応できず、鳴海達はただただ目の前の巨人に圧倒されていた。
そんな3人に向かって来ていた巨人は、両手を組んで大きく振りかぶると、その勢いのまま腕を振り下ろすのだった。
時は少し遡り、鳴海が一ノ瀬と皇后崎の戦いを見守っていた頃…
無陀野は準備を整え、森の入口前でスクワットをしていた。
その彼の頭に不意にキレイな模様の蝶々が止まる。
「今日は学校説明だけじゃなかったー?」
「校長。」
「初日で課題なんてさすがだねー。」
「説明で1日消費するより、訓練する方が有意義ですよ。」
「優しいね。全部あの子たちのための言葉だ。年間多くの鬼が殺されてるけど、ほとんどが子供…血縁に鬼がいるだけで殺される子も多い。生きたまま連れ去り、研究の道具に…て、例も…何も知らず、何も分からず、ある日突然殺される子供たちは、最期に何を想って逝けばいいんだろうね。せめて全てにおいて平等な天国があることを願うよ。」
「天国なんていりませんよ。強ければ死なない…シンプルな話です。」
「やっぱ君は優しいよ。強くしてあげてね。…そういえば鳴海君は?挨拶したいな~と思ったんだけど。」
「鳴海は先に森の中に入ってます。」
「え、1人で平気なの?危なくない?」
「大丈夫です。リハビリも兼ねてやってるんで。今頃ゲラゲラ笑いながら追いかけ回してると思いますよ」
「そこだけ聞くとやばい人なんだけど…大事にしてるね。」
「…そりゃ最愛の妻ですから。信頼もしてるし尊敬もしてます」
「ふ~ん…あ、そうそう。鳴海君の部隊なんだけど…」
その時、陰陽師のような衣装を纏った校長の言葉を遮るように、森の中からドオッと大きな音が聞こえてくる。
スッと姿を消す校長の気配を感じながら、無陀野は森の方へ目をやった。それとほぼ同時に、彼の携帯が音を立てる。
「鳴海。今、でかい音が聞こえたが…四季か?」
《いや、四季ちゃんじゃなくて帆稀ちゃんが…!》
「屏風ヶ浦?」
《うん。血触解放したけど、本人の意志で出した感じじゃない。》
「暴走してるのか?」
《そう言っていいと思う。本人が制御できてないから…!》
「すぐ行く。もうしばらく抑えていてくれ。いいか?能力は1割だけだいいな?」
《分かった…!》
電話を切った無陀野は、目にも止まらぬ速さで森の中へと入って行った。
屏風ヶ浦が作り出した巨人の攻撃を何とか避けた3人。
ヘッドスライディングのような形で倒れ込んだ一ノ瀬に対して、鳴海は華麗な身のこなしで着地を決めた。
「あっぶね!マジ危ねぇ!てか、鳴海すげーな!もしかしてめちゃくちゃ運動神経いい?」
「これでも隊長なんですけどー?四季ちゃんは?大丈夫?」
「おう、平気!にしてもあの厨二マスク、死んだんじゃねーだろうな!?」
一ノ瀬が皇后崎の様子を伺っている隙に、鳴海は状況報告のため携帯を取り出す。
履歴の一番上にある名前を押せば、相手はすぐに応答した。
《鳴海。今、でかい音が聞こえたが…四季か?》
「いや、四季ちゃんじゃなくて帆稀ちゃんが…!」
《屏風ヶ浦?》
「うん。血触解放したんけど、本人の意志で出した感じじゃない。」
《暴走してるのか?》
「そう言っていいと思う。本人が制御できてないから…!」
《すぐ行く。もうしばらく抑えていてくれ。いいか?能力は1割だけだいいな?》
「分かった…!」
とは言ったものの、使用限度1割となるとどこまで応戦できるか分からない。
この中で一番戦える皇后崎を遠距離からサポートしつつ応戦する中、鳴海は一ノ瀬と共に屏風ヶ浦へと声をかけた。
「おい!屏風ヶ浦!お前ちょっとこれ止めらんねぇの?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…私じゃ…どーにも…な…り…」
「帆稀ちゃん…!気失っちゃダメ!しっかりして!」
「鳴海、あれって血流し過ぎだよな?」
「うん…意識がなくなったらますます血が流れ出て…取り返しのつかないことになるかも。」
「とりあえず引き離す!俺が突っ込んでこっちに放り投げるから、鳴海受け取って!」
「分かった…!気をつけて!」
鳴海の言葉に力強く頷いた一ノ瀬は、血だまりの中にいる屏風ヶ浦の元へ駆け寄る。だが一ノ瀬が近づくのに合わせて、巨人は彼女を守るような体勢を取った。
そして次の瞬間、口の中に溜めた大量の血液を3人がいる方へ吐き出したのだった。
文字通りの血の海に飲まれそうになった鳴海は、来たる衝撃に備えて身構えた。
が、突然その体が浮遊する感覚に襲われる。咄嗟に瞑っていた目を開けると、少し怒ったような表情の無陀野に横抱きにされていた。
「無人くん…!」
「俺はここまで無理をしろとは言ってないが?」
「でも、放置する訳には…」
「分かった上で能力を使おうとしたな?たった少し解放したらここら一帯が更地になるのは経験済みだろ」
「うっ…」
耳を澄まさないと聞こえないぐらいのボリュームでそう言った鳴海は、シュンと顔を伏せる。
その姿に深くため息を吐いた無陀野は、降り立った枝の上に彼を降ろした。
立ったまま変わらず顔を下に向けている妻の隣に並ぶと、無陀野は静かに話し始める。
「頼むから無理しないでくれ。あの時と同じことはもう経験したくないんだ。」
「うん…ごめん」
「お前はもう少しだけ自分の事を大事にすることを覚えないとな。それが難しいなら俺のために動くことを覚えろ」
「無人くんのため?」
「そうだ。出来なくはないだろ?昔からやってきたことなんだし」
「OK任せて。俺無人くんのためならなんでも出来ちゃうから」
「次やったらお仕置だからな」
「鳴海了解!」
鳴海の頭にポンと手を乗せると、無陀野は彼の耳元に口を寄せ、低い声でそう囁いた。
言葉だけ聞けば恐ろしいものを感じるが、彼の表情はとても穏やかであり、妻を心配する気持ちで溢れている。
それが分かるから、鳴海は明るい笑顔で返事をするのだった。
「さて…問題はこっちだな。あれが屏風ヶ浦の血触解放か。」
「うん…制御できないせいで、血を大量消費して危険な状態だよ。」
「そうか。いつでも救護に行けるようにしておけ。」
「了解!」
「(あいつらどう切り抜けるか…)」
木の上で鳴海と無陀野がそんな会話をしている間に、一ノ瀬もまた屏風ヶ浦と言葉を交わしていた。
鼻だけでなく、目や口からも血が流れ出ている彼女。最早意識を保っているだけで精一杯という状態だった。
「やめて…もうやめて…お姉ちゃん…」
「(姉ちゃん…?)」
「2人とも…逃げてください。」
「逃げてどーする…お前このままじゃ血出し過ぎて死ぬぞ…鳴海が言ってた。目の前で人が死ぬのって…結構へこむんだぞ…それにお前、めっちゃしんどそうな顔してんじゃん…ほっとけねぇだろ。」
ボロボロの体を何とか奮い立たせながら、一ノ瀬はそう言って改めて巨人と向かい合った。
この状況を打破するために…!