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レイニルは自分を助けに来たであろうヘリオスを目の前にしても何も言葉が出なかった。
それどころか落胆に近い感情に襲われて胸が痛む。本当は、心のどこかではシャインが来てくれると期待していた。
ヴェルクもヘリオスの方が来るとは予想外だったようだが、余裕の笑みは崩さない。
「ヘリオス様。わざわざアメリア国までお越し下さるとは何の御用ですか?」
「はぁ? オレの愛するレイニルを攫っておいて、よく言うぜ」
ヘリオスはレイニルの肩を抱いて強引に自分の方へと引き寄せた。
(ちょ、ちょっと、ヘリオス様……?)
一気にレイニルの血の気が引く。この際、ヘリオスの口が悪いのは問題にしない。
仮にもレイニルは人妻だし、ヘリオスにもローサという婚約者がいる。この場で言い寄られるのは大問題だ。
その時、ヴェルクがレイニルに目で合図をした……ように見えた。相手がヘリオスであってもレイニルは拒絶しなければならない。
「あ、あの、ヘリオス様、私は……」
「兄貴なら来ないぞ。中庭でローサと語らってたからな。あんなヤツは捨ててオレにしろ」
「え……お姉様、と……?」
レイニルは以前、シャインにローサと結婚してほしいと申し出た割には、ショックに近い衝撃を受けて胸が苦しくなる。
それに……気になる事は他にもある。
(この晴天……晴れ男はヘリオス様の方だったの?)
ヘリオスが来た途端に雨が止んだのは、まさしく晴れ男の能力。
そうなると、サンディ国に雨が降らない原因はシャインではなくヘリオスという事になってしまう。
そんな二人の状況を飲み込めなくなったヴェルクが一人でため息をつく。
「目の前で浮気をされては困るのですが」
「なんだと? オレとしてもレイニルがいないと困るんだよ」
「ヘリオス様はレイニル様の件に関しては無関係なはずです。お引き取りください」
「無関係じゃねーよ、レイニルはオレの女だ」
(いえ……私はシャインの妻なのですが)
レイニルが脳内ツッコミするも、状況は一触即発。アメリア国の王子とサンディ国の王子は一歩も引かない。ヘリオスも好戦的な性格だから困りもの。
確かにサンディ国としても雨女の能力が必要だし、個人としてもヘリオスはレイニルを手に入れたい。もはや男の意地だ。
そんな王子どうしの謎の睨み合いが続いていると、また別の馬車が城門の外に到着した。それに気付いたヴェルクの顔色が変わる。
「サンディ国の馬車が、もう1台……!?」
その馬車から降りてきたのは、今度こそ紛れもなく太陽の化身。レイニルが今度こそ間違いのない喜びの声を上げる。
「シャイン……!!」
レイニルがヘリオスの腕から離れて馬車に駆け寄ろうとしたが、一瞬でその足は止まった。
馬車からはシャインの後ろに続いてローサが降りてきた。しかもシャインに片腕を掴まれて引き連れられるような形で。
(シャイン、どうしてお姉様と一緒に……?)
シャインが金色の瞳で鋭くに睨みつけた相手は、呆然と立ち尽くすヘリオスでもレイニルでもない。ヴェルクだった。
シャインは突然、ローサの後ろに回って羽交い締めにした。抱きしめるなんて優しいものではなく、人質を取った形にしか見えない。
それに驚いたのはローサだった。
「ちょっ…? シャイン様、どういう事ですの!? 一緒に出かけようってお誘い下さるから、てっきり……!」
「ふっ、デートとでも思ったのか?」
シャインはそのまま、ローサを盾にするようにしてヴェルクに一歩、また一歩と詰め寄る。
ヴェルクはその気迫に押されて少し引き気味になる。シャインの行動が意味不明で困惑している。ヘリオスもだが、この双子の行動は予測ができない。
シャインは腕を解くと、今度はローサの体をヴェルクの正面に突き出した。ヴェルクは怪訝な顔をする。
「レイニルと交換だ」
「……はい?」
「雨女が欲しいんだろう? ローサ嬢が雨女らしいぞ。そうだよな、ローサ嬢?」
ローサは自分が雨女だと言い切ってしまった以上、否定もできなくて何も言えない。
さらにシャインは横に立つヘリオスにも屈託のない笑顔を向ける。
「良かったな、ヘリオス。お前の婚約者は雨女だぞ」
「へ……? そうなのか、ローサちゃん?」
簡単にそれを信じてしまうヘリオスも単純だ。ローサは呆れて完全に目が据わっている。
シャインは急に真顔になると、今度はヘリオスの背中を押すかのように巧みな言葉で煽る。
「ヘリオスよ。大事な婚約者を国に奪われたくなかったら、しっかりとローサ嬢を取り返すんだぞ」
完全に流れを作ってしまったシャインは、ローサから離れると今度はレイニルの片腕を掴む。
「交渉成立だな。では帰るぞ」
「えっ……シャイン!?」
シャインはレイニルの腕を掴んで一緒に背中を向けると、乗ってきた馬車へと引き連れていく。
まるで舞台演劇でも見ているかのような見事な流れを誰も止める事ができずに、シャインとレイニルを乗せた馬車はサンディ国に向けて出発した。
ヴェルクとしても商売相手であるシャインに抗う事はできない。こうなったらサンディ国に雨が降らない事を願うしかない。
そんな中、ヘリオスは未だにローサに詰め寄っている。
「なんだよ、お前が雨女だったのか!? それならそうと言えよ!」
「そんな訳ないでしょう! あぁもう、あなたも本当に役立たずですわね!!」
サンディ国の王弟に向かって暴言を吐けるローサも大した令嬢だが、元から愛のない関係なのでお互い気にしない。
クラウディ家と親交のあるヴェルクはローサが雨女ではない事くらいは知っている。
ヴェルクの前で浮気のような行為を見せてしまったヘリオスは、形だけでも取り繕う必要がある。
「……ほら、ローサ。帰るぞ」
なぜか照れ臭そうにしながらヘリオスが片手をローサに差し出す。これでもヘリオスは王弟で王子。口が悪くても所作は気品に満ちている。
そしてローサも引きつった笑顔をしながらも、その手を取る。ヴェルクの前なので、嘘でも婚約者を演じる必要がある。
「えぇ、ヘリオス……」
ローサは照れているのか、不本意からの屈辱なのか……少しだけ頬が赤い。
そうして、結局はヘリオスがローサを馬車に乗せて一緒にサンディ国へと帰る事になった。
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