「マリンじゃだめですか」
「……いいよ」
そんな会話を交わしたのは2年ぐらい前のこと。
「……」
「…ぺこら?」
「お、マリン」
「おはよ、どうしたの〜?暗い顔して」
「ちょっと考え事。」
「話聞こうか?」
「んー…じゃあちょっとだけ」
「べこーらさ、好きな人が出来たかもしれん」
「え」
その一言に雷に打たれたみたいに衝撃をうけたことをよく覚えてる。
その後の相談の内容を真剣に聞けば聞くほど辛くなった記憶。
今でもハッキリ覚えてしまっていて
「どうすればいいと思う?」
「どう、か……ぺこらは、付き合いたい…の?」
「当たり前ぺこじゃん。
せっかくすきになったなら付き合いたいだろ」
「そっ…か?付き合うには、やっぱりアピールですよね」
「そうぺこよね。なにがいちばんアピールになるぺこかな〜」
「積極的に話しかける。とか、スキンシップとってみたりとか…じゃない?」
「そうぺこだよね…よし!頑張るぞ!
マリンありがと!また相談させて!」
「…うん!」
“応援してるね”その一言はなぜか喉につかかったみたいで、言葉になってなかった。
それからはどこか不調が続いて。
収録も、配信も、オフでも、心配される言葉を浴び続けていた。
そんなことを続けていたある日。
ぺこらがすっごく嬉しいそうに話している様子を見てしまった。
あぁ、ぺこらはあの子が好きなんだ。そう、確信できてしまった。
マリンに見せる笑顔の何倍にも輝いてる笑顔。近い距離に、赤い顔。なにか胃から込み上げてくるものを感じてしまった。
「あはは…最初から諦めてたはずなのに…」
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「マリーン!ぺこーらそろそろ告白しようと思うんだけど、やっぱりおしゃれなとこが良いぺこかな!?」
「やっとか〜!?笑
とびっきりオシャレなとこ誘っちゃえよ!?」
(これでいい。)
「どこがいいかな〜。こことかどうぺこ!?」
(ぺこらのその楽しそうな姿が見られるなら。)
「いいじゃん!」
(私はこのままでいいよ。)
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ピコンっ
いつも通りの収録。
今日は特に上手くいかなくて何時間もかかってしまった。帰りの空も真っ暗で大きな雲で覆われているのだろう。雨もポツポツと降り出していて、マリンの心を表しているみたいだ。もっと降るまでに帰ろう。
傘を広げた後に
ふと確認した通知に、固まって、走り出す。
「……あ、マリン」
「…はっ、ぺこらっ」
雨はいつしか視界が悪くなってしまうほどに強くなっていた。
だけどマリンは家にはいなかった。
公園のブランコに1人、しょんぽり座っている彼女をやっと見つけた。
彼女を打っている雨を傘で遮る。
気づいたようで今にも消えてしまいそうな弱々しい声で名前を呼ばれた。
明らかに暗い表情には、告白の結果が見てわかってしまった。
「…帰ろうぺこちゃん。風邪ひいちゃうよ」
「なんか、恋愛って難しいぺこ」
「うん」
「笑顔を見れば暖かくなって、もっと一緒にいたいって…思っちゃう」
「…うん」
「ぺこーらは、…何が悪かったの?」
「…どこも悪くないよ」
冷たい彼女を抱きしめる。
雨音に吸い込まれて消えていく彼女の泣き声に悲しい気持ちと、嬉しいってよかったって安心してる自分に腹が立った。
「…マリンは、優しいぺこな」
「……わたしは、優しくないよ」
「相談もずっとのってくれたし、今だって駆けつけて来てくれたでしょ?優しいぺこだよ」
「マリンは、ぺこらが振られて嬉しいって思っちゃってるよ。」
「え?」
「だから、優しくなんてない。」
「それ、は……どーゆう」
「だけど、ぺこらを泣かせないよ。大切にする。」
「好きだよ、ぺこら。 マリンじゃダメですか」
「……いいよ」
雨はいつの間にか止んでいた。
なのに傘の中、手は繋がれていて。
水たまりには満天の笑顔が咲く準備をしている
あ、そういえば公園の花壇にある赤いチューリップは一足先に咲いてるみたいだった。
コメント
8件
リクエストいいですか?
前も言いましたが本当に文才が神ですね