テラーノベル
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サンダリオス家の広間は、
暖炉の火が優しく揺れる中、
静かなお茶会の場となっていた。
テーブルには、
それぞれが作ったスイーツが並ぶ。
エリザのジャム、
パイオニアのコンポート、
ルナのタルトレット、
ヴェルのムース、
カイザの焼き果実、
ビータのゼリー、
ミラのブランデー漬け、
フロウナの飴細工、
校長のフルーツワイン。
どれも、
同じ果実から生まれながら、
それぞれの想いが形を変えたもの。
みんなが席に着き、
スプーンやフォークを手に取った瞬間、
誰もが、
同じように息を吸った。
「……いただきます」
小さな声が、重なる。
最初に口を開いたのは、エリザだった。
「彼の甘さが、
そのまま残ってるわね。
昔、
レクトが『お母さん大好き』って、
笑顔で言ってくれたことを思い出すわ」
エリザはスプーンを口に運び、
目を閉じた。
涙が、ぽたりとジャムの上に落ちる。
パイオニアはコンポートをフォークで刺し、
ゆっくりと味わった。
「……柔らかいな。
あの頃、
庭でチャンバラして転んで、
膝を擦りむいた時、
俺が必死に慰めていたな。
『パパは慰めるのが下手』ってなぜか文句言ってきて。」
ルナはタルトレットを一口かじり、
サクッという音に、
小さく笑った。
「この皮サクサク……!
レクトと昔タルト作ったことあったからさ、
また作りたかったんだよね。
あの時は『姉ちゃんのタルト、皮が最高!』って言ってくれてすごく嬉しかったの……」
ヴェルはムースをスプーンですくい、
ふわっと溶ける感触に、
左腕の包帯をそっと撫でた。
「……軽いね。
レクトの笑顔みたい。
学園で、
『ヴェル! 課題解こうよ』って駆け寄ってきた時の、
あの軽やかさ……
大好きだった」
カイザは焼き果実を豪快にかじり、
熱々の果汁が口の中に広がる。
「熱いぜ……
あいつの元気そのものだ。
俺と違ってそこまではっちゃけてはいないが、あいつの心の中に秘めた熱が大好きだった。
……眩しかった」
ビータはゼリーを小さく切り、
透明な塊を眺めながら、
静かに言った。
「……レクトの目はこれほどまでに澄んでいた。
この透明さは、
彼のまっすぐなところだと思う」
ミラはブランデー漬けを一口、
少し大人びた香りに目を細めた。
「……少し、強い。
きっと、
こんな味、好きだったと思う」
フロウナ先生は飴細工をそっと口に運び、
キラキラした飴が溶ける。
「……私はずっとアレルギーで苦しんだけど、
この輝きは、
彼の力そのものだったな」
そしてヴェルが口を開く。
「先生……アレルギー、食べて大丈夫なんですか?」
「良くないに決まってる
だけど食べないわけにはいかないでしょう?」
笑ってそう返した。
校長はフルーツワインをグラスに注ぎ、
ゆっくりと味わった。
「……深い。
レクトの魂が、
少しずつ染み込んでくる。
世界を救った少年の、
最後の贈り物だ」
一口、また一口。
みんなが、
ゆっくりと、
彼を味わう。
思い出が、次々と溢れ出す。
「学園の購買で、
チョコバナナ作ってみんなで食べた時……」
「庭でチャンバラして、
遊んだこと……」
「戦いの後、
『みんなでまたパーティしよう』って笑ってた顔……」
語り合ううちに、
声が震え始め、
涙が止まらなくなる。
ヴェルが、
最初に声を上げて泣いた。
「……もう、会えないんだね……!」
カイザがテーブルを叩き、
「くそっ……くそっ……!」と嗚咽を漏らす。
ルナは顔を覆い、
「レクト…ごめん……ごめんね……」と繰り返す。
エリザはパイオニアの肩に寄りかかり、
静かに泣く。
パイオニアは、
ただ無言で、
ワインを飲み干し、
目を閉じた。
みんなで、
大泣きした。
テーブルに顔を伏せ、
肩を震わせ、
声を上げて泣いた。
暖炉の火だけが、
静かに揺れていた。
みんなの顔には、
赤く腫れたニキビが、
ぽつぽつとできていた。
ルナが鏡を見て、
小さく笑った。
「……ニキビ、できた」
エリザが頰を触り、
くすっと笑う。
「糖質が多いのね……
レクトの果実、
甘すぎたわ」
パイオニアは、
髭を撫でながら、
珍しく柔らかい声で言った。
「暫く保湿したくないな。
このニキビ……
レクトの跡だと思えば、
悪くない」
三人で、
顔を見合わせて笑った。
甘い香りは、
まだ家に残っていた。
でも、
それはもう、
悲しみの匂いじゃなかった。
次話 3月14日更新!
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