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弱った顔で頭を下げる私を、ふたりはただじっと見つめていた。
「澪……」
杏の声が震えている。
私は顔をあげ、「ごめんね」と、もう一度ふたりに向かって笑った。
「澪、そんなの嘘でしょ、私―――」
「嘘じゃないってば!
私が言うのもなんだけど、ふたりは私に遠慮しないで付き合って」
「……澪」
杏は今にも泣きだしそうだ。
私は必死に笑った。
そうでないと、杏と一緒に泣いてしまいそうだった。
「もう杏ー、そんな顔をしないでよ。
じゃあ私、家のお手伝いがあるから先に帰るね。
佐藤くん、杏をよろしくお願いします」
私は佐藤くんの目を見てから、踵を返した。
階段へ向かう足が震えて、心臓が痛いほど打ち付ける。
だけどふたりが私を見てるから、まだ泣くわけにはいかない。
「澪!」
階段を下りる直前で、杏が叫んだ。
足を止めて振り返れば、杏の目にはやっぱり涙がたまっていた。
「……またLINEする!」
「うん、待ってる」
私はもう一度笑うと、急いで階段を駆け下りた。
私が外に出る少し前に、雨が止んだようだった。
鈍色の空を見上げて、ほんの少し目を眇める。
傘に隠れて泣きたかったのに、あてが外れてしまった。
駅は下校した生徒たちで賑わっていた。
テストからやっと解放されたと、どの顔も笑顔に満ちている。
どこか寄って帰ろうと、あちこちで話に花が咲いていて、いつもなら私も杏とそんな話をしているのに、今日だけはノイズにしか聞こえなかった。
私は人の少ない一番端の車両に乗り、手すりに掴まって窓の外を眺める。
雨は止んだけれど、厚くて黒い雲は今にも崩れ落ちそうだった。
最寄駅に着いた時、ふと空腹を覚えた。
家にけい子さんはいないし、今日は杏とどこかに寄ろうとしていたから、家にはなにもない。
そんな自分に、私は少し呆れた。
こんなにも心が重いのに、お腹だけは空くんだと。
私は駅横のコンビニでおにぎりを買い、鞄にしまって歩き出した。
商店街を抜けたところで、雨が降り始める。
初めぽつぽつとだったのに、数分後には強くなり、私は折り畳み傘を出そうとした。
だけどやっぱりやめたのは、「今なら泣ける」と思ったからだ。
そう思うとすぐに目の奥が熱くなる。
きっともう、涙腺が限界だったんだろう。
雨脚が強くなるにつれて、私の足取りは重くなる。
頭の中をさっきの出来事が巡り、杏の顔や佐藤くんの声が思い出されて、涙が頬を伝った。
いつの間にかわけのわからない嗚咽もこぼれたけれど、雨がすべてさらってくれるから、なにも考えずにひたすら泣いた。
遠回りでもしようかと足を止めた時、体を打つ雨が遮られる。
咄嗟に顔をあげれば、ビニール傘を傾けたレイが、私の傍に立っていた。