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ひより
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鷹槻れん

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世羅 鈴🎨🎤
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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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午後三時。ノックの音とともに、扉が開いた。
「皇太子殿下がお呼びです」
「あら」
帳簿から顔を上げ、思わず目を瞬いた。そこに立っていたのは、いつもの侍従ではなく、カイル殿下付きの侍従長だった。
「珍しいですわね。直々にいらっしゃるなんて」
「……近くまで参りましたので」
淡々とした返事。けれど、その視線が一瞬、机いっぱいに広げられた帳簿と書類へ落ちた。
「…………」
(何よ、その目)
まるで、『あなたが帳簿を?』とでも言いたげだ。私は気にせず、必要な書類をまとめて抱えた。
***
向かった先は、皇宮のローズガーデンだった。
「……まあ」
思わず足を止める。薔薇に囲まれたテーブルには、白磁と金細工のアフタヌーンティー・スタンド。
下段には、鴨肉とチーズのサンドイッチ。中段には、薔薇のケーキとカシスのマカロン。
そして最上段には、湖に見立てた青いゼリーの上に、白鳥のメレンゲが浮かんでいる。
「お前のために特別に用意させた」
カイル殿下が、どこか誇らしげに胸を張った。
「ありがとうございます、殿下」
「ああ」
満足げに頷く。私は椅子へ腰掛け――抱えてきた帳簿を、テーブルの端へ置いた。
「…………」
視線が、ぴたりと止まる。
「……なぜ、それを持ってきた」
「急ぎですから」
「…………」
ものすごく複雑そうな顔をされた。気にせず、最上段へ手を伸ばす。
「……そこから食べるのか?」
「一番手が込んでいそうですもの」
白鳥のメレンゲをひと口。さくっ。メレンゲが舌の上で雪のようにほどけ、青いゼリーのひんやりとした甘みが広がった。
「……おいしい」
思わず万年筆をテーブルに置いた。カイル殿下の目が、ぱっと輝く。
「……気に入ったのか?」
「ええ、とても」
「そうか!」
なんだかすごく嬉しそうだ。もう一口食べる。
「これなら仕事もさらに捗りそうですわね」
「…………」
彼の笑顔が消えた。
「……あくまで仕事のためなのか」
「もちろん」
左手で帳簿を押さえ、右手で万年筆を持ち直す。そのまま書類をめくりつつ、マカロンをひょいっとつまんだ。
「まあ! これ、片手で食べられて便利ですわね」
「…………」
「どうかなさいました?」
「……何でもない」
カイル殿下が、少しだけ肩を落とした。だが、すぐに気を取り直したように、私の手元を見つめる。
マカロンをかじる。甘酸っぱいカシスのクリームが、口いっぱいに広がった。
「これもおいしい……」
「よく食べるな」
「そうでしょうか?」
「ああ。見ていて気持ちがいい。俺の分も食べるか?」
「まあ! ありがとうございます!」
遠慮なく、彼の皿に残っていた薔薇のケーキへ手を伸ばす。ふわふわの生地。
濃厚なクリーム。そこへ、ほのかに薔薇の香りが重なる。
「これもとってもおいしいですわ」
「そうか」
じっと私を見ている。
「……ソフィア」
「はい?」
「もうすぐ、建国祭だ」
「そうですわね」
ほんの少しだけ視線を逸らしてから、続ける。
「……お忍びで、城下町の祭りを見に行かないか」
「…………」
あまりにも不器用で。けれど、どこか一生懸命な誘い方に、思わず頬が緩んだ。
「ふふっ……。それは――デートのお誘いでしょうか?」
「っ……」
カイル殿下は、一瞬言葉を詰まらせた。けれど――珍しく、私から視線を逸らさなかった。
「……そうだ」
「え?」
「俺は、お前と二人で――」
その時だった。
「お嬢様ーっ!」
「!?」
ローズガーデンの入口から、アンナが勢いよく駆け込んできた。その両手には、何枚もの書類が抱えられている。
「工房の営業記録、ばっちり取れましたよ! 受領証の複写結果も一緒です!」
「本当!?」
頭が、一瞬で仕事モードへ切り替わった。
「はいっ! 休業期間も載ってます!」
「早かったわね! さすがアンナ!」
「えへへ! 頑張っちゃいました!」
差し出された書類を受け取り、すぐに一枚目へ目を走らせる。
「……なるほどね」
「ソフィア」
声をかけられた。
「さっきの返事は――」
「ちょうど食べ終わったことですし、これにて失礼いたします!」
「……は?」
私は勢いよく立ち上がった。
「アンナ、行くわよ!」
「はいっ!」
「お、おい、ソフィア!」
「では、ごきげんよう!」
「ソフィア!?」
背後から声が聞こえたけれど――。今はそれどころではない。こっちは1000万ルクがかかっているのだ。
***
ローズガーデンには、ほとんど空になった皿と、冷めた紅茶だけが残された。カイルは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「殿下ー」
護衛として少し離れた場所に控えていたギルバートが、片手をひらひらと振りながら近づいてくる。
「もうすぐ午後の演習の時間っすよ」
「…………」
「殿下?」
返事がない。カイルは、綺麗に平らげられた三段スタンドをじっと見つめていた。
「ギルバート……」
「はい?」
「俺は……」
ひどく深刻な顔で、ぽつりと呟く。
「菓子にも、仕事にも負けたのか……?」
「…………」
ギルバートは、空の皿と主君の沈んだ顔を見比べた。そして、心底言いにくそうに頬をかきながら口を開く。
「……今日のところは、完敗っすね」
「そうか……」
カイルの肩が、ガクリと落ちた。
(……はあ。殿下にここまで塩対応できるの、ソフィア様くらいっすよ……)
(普通の令嬢なら、茶会へ誘われただけで舞い上がるってのに。菓子だけ綺麗に平らげて、さっさと帰っちまった……)
こうしてカイルの初めてのデート作戦は、見事に失敗したのであった。
コメント
1件
第17話読んだよ!お茶会のスイーツがめっちゃ豪華で、白鳥のメレンゲとか薔薇のケーキとか、情景が鮮やかに浮かんだわ〜。ソフィアが帳簿片手に「仕事のため」って涼しい顔でスイーツ平らげる姿、カイル殿下の空回りっぷりとのギャップがたまらんかった😂「俺は菓子にも仕事にも負けたのか」って落ち込む殿下にギルバートが「完敗っすね」って追い討ちかけるとこ、笑った!建国祭のデートの話、続きが気になるな〜。次も楽しみにしてる!