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『待ってくれ、はるくん。俺が悪かった、嫌いにならないでくれ』
躰を硬直させながら、つらそうに告げた言の葉が、今でも耳にはっきりと残っていた。大好きな人の声だから、余計に印象に残っているのかもしれない。
健吾さんが夢に見るくらいに、『はるくん』と呼ばれた人物を深く愛した過去を知り、激しく嫉妬した今朝。そんな醜い自分を見せたくはなかったのに、酷い言葉を投げつけてしまった。その結果、倍になってそれが返ってきた。
『おまえもしかして、女を抱きたくなったとか?』
妙に乾いた声で告げられたセリフが、胸にグサッと突き刺さった気がした。そんなことなど、まったく思わなかった。愛する人を毎晩抱ける事実が、幸せで堪らなかったというのに――。
急ぎの仕事で頼まれている書類作成が、まったく捗らない。1行打ち込んではため息をつき、1行打ち込んでは物思いにふけってしまう。
(僕が傷つけることを言ったせいで、今頃健吾さんは落ち込んでいるかもしれない。こういうとき、どうしたらいいんだろう?)
恋人ができたことはおろか、交際したことのない自分にとって、関係の修復を図るのは容易じゃなかった。迷案ですら思いつかない。
絶望を感じさせるまなざしをしていた、恋人の心を癒したい一心で、1日中考えを巡らせた。