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――――七年前――――
私達“四死刀”は天下を手中に収める為、世を敵に回し闘い続けました。
何故かって?
私達“特異点”は、この世に存在してはならない存在。
人知を超えたその力は、本来この世界に在ってはならないもの。
人とは根本的に違う存在なので、共存は難しい……というか不可能。
だってそうでしょう?
貴方達はこの様な化け物じみた力を持つ者と、何一つ恐れる事無く接せますか?
私が常人だったら無理ですね。
だって恐ろしいじゃないですか。
突然その力で殺されるとか、洒落にもなりませんからね。
基本的に特異点は、生まれてすぐにこの世から消されます。
例外はありますが、特異点には身体的特徴がありますからね。
常人とは掛け離れた髪色に瞳色。
しかも特異点は遺伝性では無いので、普通だったら異常さと恐ろしさで、口減らししてしまいますね……。
なら我々の……特異点の存在意味は?
私達“四死刀”は決して仲良しこよしの集まりではありませんでしたが、その想いは一緒。
この世界に特異点の居場所が無いのならーー
その力で居場所を奪い取ればいい。
特異点が迫害され、消される事が無い様な世界をーー
*
ーー今でもはっきりと思い出せますね。この子と初めて会った時の事を……。
あれは確か七年前でしょうか。私達“四死刀”が、将軍家が裏で抱える忍達と抗戦していた頃の事。
その中でも最強と謳われていた、将軍家裏隠密忍衆“九夜”ーーまあ最強と云っても、我々の前では赤子同然でしたが。
“九夜”の里の居場所を察知した我々は、ここらへんで根底から排除しとこうと、私一人で襲撃に向かいました。
そして……其処で見た光景は、辺り一面に広がる美しい迄に“死”に満ちた白銀の世界。
その中で一人、放心した様に佇む、本当に小さい幼子。
流石の私も、驚きを隠せませんでした……。
この幼子が特異点で在る事は一目瞭然。そしてこの力は間違いなく、私と同じ“無氷”に依るもの。
何より同じ特異能を持つというだけではなく、その子がまるで私自身と見紛う様な、そんな奇妙な感覚に陥りました。
此処で何が起きたのか?
聞く迄も無く本能で理解出来ました。何故なら、かつての私自身を見ている様だったからですーー
『これは驚きました。まさかその歳で覚醒するとはね』
あらら、瞳に生気がありません。まあ無理もありませんね。自分が何をしたのか、恐らく理解している事でしょう。
怯えにも似た、不思議な表情で私を見詰めていました。
『怯えなくていい。私は君と同じ者ですから』
私はこの子に自分を重ね合わせる様に見ていました。
血の繋がり等ある筈が無い。同じ特異点というだけ。
ただ……他人とは思えなかった。
『君は特異点としての宿命を背負ってしまった。奪った命の重みを、これからも背負い続けていかなければならない。命の限りね……』
気付けば私は、この子に手を差し延べていました。
『私と一緒に来ますか? 私達特異点の存在意味を……存在場所を探しにへと』
お互いがお互いを映す、その深い銀色の瞳で見据えて。
あの時、この子が選んだ道はーー
*
「ーー師匠! 何呆けてるんですか?」
ユキのその一言で時が動き出す。
「ああ……少しばかり、昔の事を想い出していました」
それは、ほんの刹那の時間の回想だったのかもしれない。
「それにしても……」
かつての師は愛弟子を感慨深く眺める。
「大きくなりましたねぇ」
「……嫌味ですか?」
事実ユキは歳相応の体積しかない。当然と云えば当然だが、この年で人智を越えた身体能力をしている方が異常なのだが。
「ええ、嫌味です」
それに対し、かつての師は笑みを浮かべながら、きっぱりと言い放つ。
“こ、この人は……。相変わらず変わってない!”
生前と何一つ変わる事は無い師に、ユキは溜息を漏らすしかない。
「冗談はさておき、精神の方は以前とは比べものにならない位、大きくなったという事です」
「それはどうも……」
やはりこの人は疲れると、切実にユキは思うしかなかった。
「それはともかく、師匠が此処に居るという事は、私を迎えに来たという事ですね?」
“そう、覚悟は出来ている……。此処から先は黄泉への旅路。どの道、私に地獄以外への行き先は無いーー”
「何を寝呆けているんでしょうかね、この子は……。まだ生きている者が、あの世へ行ける訳無いでしょう?」
「はぁ!?」
これは意外な言葉だった。死んだから三途の川に居るのではないか? と、ユキは師の言葉の意味を理解出来ず、戸惑いを隠せない。
「まあ半分死にかけていますが、まだ生きています。あとは生きたいという気持ち。それに、アナタはまだ死ぬべきでは無いでしょう?」
「し、しかし……」
“今更後悔などしていない。それに私の役目はもう終わったのだから……”
「しかしもへちまもありません!」
言葉を濁し、死を漠然とながら受け入れているユキに、かつての師は叱咤する。
“……微妙に意味が違うような?”
それも明らかに間違っている意味でだ。
「全く不出来な弟子なんですから……。強さ的にも精神的にも成長したとはいえ、やはりまだまだ子供ですね」
「何だよそれ!? 褒めたりけなしたり訳分かんねぇよ!!」
師匠の毒舌振りに何時の間にかユキは、これ迄に聴いた事が無い口調になっていた。
現在でこそ、師の影響と名を受け継いだ事もあってか、歳に不相応な紳士的口調の彼だが、かつては父に反抗する子供その者の様な時期もあった。
これこそ彼の、本来在るべき姿なのかもしれない。