私は、隣から聞こえる大声に心の底から震えた。
あきらかに私のことを言ってる。
電話の相手は理仁さんで間違いない。
「もみじ……ちゃん。今の電話って……」
私は、いてもたってもいられず、もみじちゃんの部屋に入って恐る恐る尋ねた。
「双葉ちゃん、ひどい! 盗み聞きなんて」
すごい形相で私を睨みつける。
「ごめん、聞くつもりなんてなかったの。でも、あまりにも大きな声だから聞こえてしまって」
「……まあいいわ。じゃあ、私が言いたいことわかったよね?」
「もみじちゃん……本当? 私のことが嫌いって……」
「本当よ。ずっとずっと嫌い。大嫌いだった。私と私の家族のおかげで生活できてるくせに、いつも学校ではみんなの人気者で。男子も女子も、先生達も、みんなみんな、私じゃなくてあんたを見てた」
「……そんな……」
「そのくせ、告白されても誰も相手にしなくて。その中にはね、私の好きな人だっていたのよ。あんたは、自分なんてって、いつも自信ないフリして、そういうのがたまらなくムカつくのよ」
「フリなんかじゃない。私には幸せになる自信がなかった。幸せになっても、突然また不幸になるんじゃないかって。いつも何かに怯えてて」
「何よ、それ」
「でも、私、一生懸命自分の夢を追いかけてるもみじちゃんを尊敬してたし、いつも励まされてた。なのに……」
「私は仲良しのフリをしてたの。あんたをこの家に縛り付けて、不幸な姿をずっと見ていたかったから。私よりみじめなあんたをあざ笑いたかっただけ」
「ひどい。もみじちゃん、ひどいよ……そんなの……」
「甘いよ。ほんと、甘くて嫌。マジ、ウザ過ぎる。もういいからさっさと私の前から消えてよ! ほら、消えてって言ってるでしょ!」
叫びながらヒステリックに泣くもみじちゃんに、私は何も言えなかった。
夢中で1階に駆け降り、慌ててキッチンで水を飲んだ。ぐちゃぐちゃになった心を落ち着かせなければ、私だって泣き叫びそうだったから。
「双葉!!」
「きゃっ!」
振り替えると、もみじちゃん以上に鬼の形相をしたおばさんが立っていた。思わず持っていたコップを落としそうになった。鋭く睨みつける目があまりにも恐ろしい。
「ふざけんな! お前は姉さんと同じだよ! いつも私より何倍も周りから可愛がられて、ちやほやされて。良い気になって笑顔をふりまいてる生意気なお前達が許せないんだよ。見てるだけで吐き気がする」
「おばさん! お母さんのことは悪く言わないで。私、ここを出ますから」
「ああ、そうしておくれ。せいせいするよ、お前の顔を見なくて済むと思ったら」
おばさんの冷たい言葉が胸を貫く。
「そうだ、良い機会だから教えてあげる。高田はね、お前を苦しめるために私が知り合いの息子に頼んで近づかせたんだ」
「えっ……」
その信じられない衝撃の告白に、一瞬にして背筋が凍りついた。
「あいつはかなりのクズだってわかってたからね。まさか詐欺をするなんて思ってなかったけど、あの時のお前の顔を見るのは愉快だったよ。姉さんにもお前にも、ざまあみろって思った。私は姉さんに散々苦しめられて、もみじはお前に苦しめられた。だから、仕返しがしたかったんだよ」
「ひどい。私、あの時、やっと変われるかもって思えたのに……」
「はぁ? 幸せになんかさせない。変わるなんて許さない。でも……お前はもみじを怒らせたんだ。もうこれっきりだよ! さっさと出ていきな!」
悲しくて切なくて、やり切れない。
おじさんは、おばさんの後ろにいて黙って見てる。私は、こんな人達とずっと一緒に暮らしてきたんだ。そう思うと、急に情けなくなった。
確かにお金の心配は拭えない。だけどもう……これでおしまいにする。もっと早く離れるべきだったのに、色々甘えてしまった自分を心の底から責めたくなった。
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