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ラブホテルの一室で、どこか不満げな顔をしている青年を見上げながら、正直寝心地がいいとは言えない膝枕で、高橋は寝ころんでいた。
これが7回目の逢瀬――毎回呼び出して行為に及ぶことは、いろんな意味で楽しいが、そればかりじゃ飽きてしまう。
「やっと中で感じはじめたのに、卑猥なことをしないなんて、躰がすごく疼いてしまう。なぁんて考えていたりする?」
「そんなこと……考えてないです」
今日もここで嫌々ながらも、卑猥な行為をするんだと考えにふけった青年の気持ちを先読みし、肩透かしを食らわせるべく、こうして膝枕をするように命令した。
行為に及ぶことよりも、楽なことを言いつけたというのに、顔色が一向に優れないままなのは、やはり気になってしまう。
「本当かなぁ? 俺様の大事なところを石川さんの口でしゃぶって、とことん感じさせてほしいとか思ってない?」
「思っていないですっ!」
ぶわっと頬を染めあげて、そっぽを向いて言い放つ。
初心な態度をとる青年がかわいくて、つい意地悪なことばかりを口にするのは、Sっ気たっぷりの自分の性格を表わしているみたいだ。
こんなことをしていたら、どんどん嫌われるのが手に取るようにわかったが、脅して関係を強要している時点で嫌悪されているのだから、嫌いに拍車がかかったとしても、高橋には関係なかった。
でもたまには、最初に出逢った喫茶店での会話のように、笑顔を交えながら話がしてみたいと思ったりもする。まぁここまでこじれているので、それが無理なことはわかっていた。
「……石川さんは、好きでもない相手とこんなことをして、楽しいんですか?」
「何を言いだすかと思ったら。はるくんが好きだよ」
「えっ!?」
「あ、訂正。はるくんの躰が好きだよ。俺との相性もバッチリだしね」
他の男に触れられる前で良かったと、肌を重ねるたびに思わされる。誰も開発していない場所を探るように触れるたびに、嫌だと口にしながらも、憎らしいくらいに青年の躰がいい反応を示した。
元々の感度がいいんだろう。狙い通りのいい玩具が手に入ったことに、高橋としては酔いしれていたかった。しかし現実は、そこまでうまくはいかなかったのである。
「コチラとしても、全力でお仕事を手掛けさせていただきますよ。勿論、提示された額でやらせていただきます」
バカな上司の言葉に俺をはじめとして、部下全員が困惑の表情をありありと示したというのに、それを完全に無視して、クライアント側の要求で仕事を押し進められてしまった。
「橘さん、ちょっと待ってください。先に藤田鋼業の仕事を手掛けなければならないので、その納期では、どう考えても無理なんですが」
クライアントの顔色を窺って、厄介な仕事をしようとした上司の動きを止めるべく、高橋が口を挟んだ。かなりタイトな状態で仕事をしている手前、口を挟まざるを得なかったのである。
(しかも、こちら側が提示した額より安価すぎる仕事を、誰が喜んでやるっていうんだ)
そんな心情を悟られないように、声を押し殺したというのに、そんなの知ったこっちゃないという感じで、上司がため息をついた。
「死ぬ気でやればできるだろ。ちっぽけな仕事を頼む藤田鋼業よりも、ご新規様を優先させなくてどうするんだ」
(コイツ、大口取引先をちっぽなんて言うところをみると、仕事の内容を全然見てはいないな)
突如現れた仕事のできない上司のせいで、青年との逢瀬の時間がなくなってしまった。お蔭で毎晩、残業の日々である。