テラーノベル
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あるところにとても肥えた豚の王がおりました。王は、とても横暴で支配的でした。国民である豚たちを日夜働かせるのに、その対価として僅かな食糧を支給するのみでした。
国民はそんな王に不満を抱き、ついに王政の打倒を目指さんと秘密結社を結成しました。しかし、なかには王室のスパイが紛れ込み、市民たちが反乱を起こそうと謀っていることを王の耳に入れたのです。
王はこれに怒りと恐れが入り混じった爆発的な感情を露わにし、秘密結社がある集会日に夜中兵を送り込むことを命じました。兵士たちはとても強靭な豚たちで、他国の獰猛な獣共ですら震え上がるほどでした。市民たちは大変危険極まりない状況に置かれましたが、これもまたどこからか情報を得た市民のうちの情報通の豚が結社の仲間に知らせたのです。
「ついに王の逆鱗に触れてしまったぞ。俺たちの計画が知られた。ああ、恐らくスパイが紛れ込みやがったんだ! ……待て、ここで争っても仕方がない。こうなれば、やつらを返り討ちにしてやるんだ」
そう情報通の豚が気勢を上げて言いました。これには他の豚たちから反対する声が当然あがりました。
「とはいえ、俺たちは絶体絶命なんだぜ。やつら兵士どもはとても俺たちの力で敵う相手じゃない。どう転んでも全員お陀仏さ」
「そうだ。俺たちだけでは不可能だ。やはり打倒王政は不可能だったんだ!」
「ああ、神よ。どうか許したまえ」
1人の悲観的な意見に同調して、次々と弱音を吐く豚たちが続きます。これには流石に辛気臭い空気に押された情報通の豚ですが、なんとか立ち向かって言いました。
「俺たちは諦めてはいけない。ここで折れれば本当に全員お陀仏になるだけだ。だが、どうせ玉砕覚悟なら女子供のために闘うのが俺たちの務めというものだ。それに、負け戦と決まったわけではない。まだ策はあるさ」
「策ってなんなんだよ」とすぐさますっかり落ち込んでいる豚たちからヒステリックな声が返ってきました。しかし、その声には苛立ち混じりにかすかな期待がこもっていたのもまた事実でした。
情報通の豚はもったいぶって、椅子に腰掛け、やがて口を開きました。
「直接やつら兵士と闘っても勝てないならば、別の方法を取るしかない。その方法こそ、闘わずして勝つ作戦だ」
「はっ! これはこれは……まさか、闘わずして勝つだって?……そんなバカな策は聞いたこともない!」
そうだそうだと大反対の意見が押し寄せましたが、情報通の豚は片手でそれを制して、最後まで話を聞くように注意を促しました。
情報通の豚が話す言葉は初めこそ落ち着いた調子でしたが、段々と熱を帯び、最後には演説をするかのように身振り手振りで力説していました。その迫力に他の豚たちも呑まれ、先ほどまで意気消沈していた豚たちがいまでは活気を取り戻し、打倒王政の四文字を再び明確なビジョンとして掲げるようになりました。
もちろん、全員が乗り気とはいきません。冷静に話を聞いていた豚が疑問を投げかける場面もありました。しかし、だからと言って他に手段がないのも事実なのでした。情報通の豚が話す計画は、現実的でなく無謀にも思えましたが、そもそもやるからには身を挺してやる必要がありました。いまさら逃げ腰で臆病風を吹いていても仕方ありません。
というわけで、残り僅かな時間のなかそれぞれが持ち場につき、兵士がやってくるのを待つばかりになりました。
その時は、程なくしてやってきました。ぞろぞろとドア越しに音がしたかと思えば、乱暴にドアは蹴破られ、兵士たちは神妙な顔つきで中に入ってきました。
これを出迎えたのは、計画を立てた情報通の豚自身でした。
「おや、こんな夜中に随分なご挨拶だな。王室お抱えの兵士なら、もう少し上品にお願いしたいものだ」
「黙れ。口の聞き方を弁えるんだな」
そういうが早いか、兵士はあっという間にその場にいる豚たちを乱暴に制圧してしまいました。首根っこを抑えられ、後ろ手に縄を縛られました。
あっさりと秘密結社は崩落し、あとは処刑代を待つのみ……と思われたのですが、兵士の中でも特別に偉い隊長があることに気付きました。そうです。明らかに聞いていた人数より少なかったのです。
余裕の表情を浮かべる情報通の豚の態度を考え合わせても、何かが起こっていることは容易に分かりました。隊長の豚は情報通の豚を殴りつけ、恐ろしい顔で問い詰めました。
「何か隠しているな。吐け。さもなければお前をいますぐ処刑台へ送ってやるぞ」
「ああ、分かったよ。勘弁してくれ。話すからそう乱暴はしないでくれ」
「いったい、他の豚どもはどこへ行きやがったんだ」
「それなら情報通の私がお教えしましょう。仲間は散り散りに身を潜め、王室への攻撃に備えて計画を練り直している最中です。仲間を売るのは癪ですが、私も自分の命が惜しい。もし、命を助けてくれるならば是非とも案内しましょう」
隊長はこの願いを(少なくとも表面上は)聞き入れて、情報通の豚が話す場所を駆け回りました。すると、本当に豚たちがあちこちに身を隠しており、見つけるたびに捕らえていきました。
牢獄はたちまち豚たちで溢れかえり、もうここまでかと思われました。それにしても、隊長は胸騒ぎがおさまりません。捕らえた豚たちが妙に落ち着き払っているのです。それに、情報通の豚が教える場所は東西南北の全方位に散らばり、とても少数精鋭では手が回りませんでした。各部隊に応援を頼み、ようやく情報通の豚が教えるすべての豚たちを捕まえたのは、丸一日かかったほどでした。
しかし、ついに大仕事をやり切った隊長は満足気にしげしげと謀反を企てた豚たちでいっぱいになった牢獄を眺め、一人悦に入りました。これほどまでの難事業を乗り越えたのですから、期待する報酬も大きくなるものです。
隊長は王様の元に行き、事態の説明を始めました。疲れや苦労は吹っ飛び、意気揚々と舌に言葉を乗せて自らの功績を調子よく話しました。
すべてを聞き終えた王様は、一言こう言いました。
「よくやった」
そして、すぐさま牢屋にいる豚たちを処刑するよう命じました。
隊長は牢屋まで飛んで行き、次々と、順番に処刑台へ豚どもを送り込んでやりました。諦めた顔をした豚。恐怖で引き攣る豚。泣き叫ぶ豚。
とうとう情報通の豚の番がやってきました。隊長は勝ち誇って言いました。
「そういえばお前は助けてやる約束だったな。どうだ、仲間を売って助かる気分は」
「悪くないな」
「そうかい。あんたは最低なやつだな。そんな最低なやつに教えてやるとすれば、あんたが行くのは地獄に違いない。そう、いますぐ行けるさ」
「助けてくれるんじゃなかったのか?」
「まさか、本当にそんな上手い話があると思ったのか? とんだ馬鹿者だ。お前らは押し並べて破滅するのだ」
「では、私からも言うがね。あんたこそこんな上手い話があると思っているのか?」
「どう言う意味だ」
「つまり、俺がまんまと騙された挙句、仲間を売り、大人しく処刑されて終わりだとでも思っているのかと言っているんだ」
「なんだと。この状況で何ができると言うんだ。死に際に悪あがきはするものじゃないぞ。大人しく死を受け 入れるんだな」
「お前らは押し並べて破滅するのだ」
隊長はぞっとしました。自分が言い放った言葉なのに、いざ情報通の豚が最期に言い遺した言葉には何か言いようのない含みがありました。
すっかり全員を処刑台へ送ってやったあと、隊長は考え込んでしまいました。あの豚はいったい何を言いたかったのか。なぜ、落ち着き払って死んでいったのか。頭の中で蛇がとぐろを巻いて締め付けるような不快感を覚えましたが、嫌な思考を振り切って思い直しました。
「さて、王から正式に報酬を催促することにしよう」
隊長は再び王の元に赴き、全員の処刑が完了したことを告げました。期待で胸を高鳴らせ、思わず笑みが溢れてきます。王は、言いました。
「ご苦労。下がりたまえ」
その一言でした。隊長は呆然とし、しばらく言葉の意味が分かりませんでした。そしてすぐさま謙虚を装いつつ報酬について問いただしました。
「王、大変恐縮なのですが……つまり今回務めた任務についてなのですが、大規模な調査と摘発により国家転覆を未然に阻止しました。この任務にかかった部下たちを含め、大変多くの者の努力と苦労によって王の命令を叶えることができました。そこでなのですが、どうかその者たちに見合った対価を与えてはくれませんか」
「なに?」
王はいかにも不満気に隊長を見つめました。隊長は震え上がらんばかりにこうべを垂れます。
王は一言も発さず、しばらく睨み続けていました。しかし、ようやく口を開いたかと思うと、こんなことを言いました。
「やらん。報酬はやらん」
「しかし、王。今回の任務は……」
「貴様、私の意見に楯突くつもりか。やらんと言えば、やらんのだ」
「はあ」
「たかが無抵抗の豚どもを一日かけて捕らえたばかりではないか。国家転覆と言えども、その蓋を開けてみれば恐れることはない。なんとも拍子抜けではないか」
「それは、そうですが」
「その程度の連中を制圧したからといって、それに見合う報酬などないのだ。分かれば、早く下がれ。不快だ」
隊長は言いようのない怒りと憎悪が湧いてきました。苦労も知らないで、どれだけの経費と労働があったことか。これでは、部下に面目もありません。
部下たちの間でも不満と不信が渦巻きました。それなりの地位にいながらこの待遇では割に合わないと思ったからです。そして、密かに王政への愚痴が募っていきました。
そこで隊長は思い出しました。あの情報通の豚が最期に言い残した言葉です。「お前らは押し並べて破滅するのだ」というあの言葉。まさか、これを狙って全員処刑台へ立ったということなのでしょうか。そう考えると、隊長は戦慄を覚えずにはいられませんでした。まるで狂気です。完全に異常者の捨て身の発想としか思えなかったからです。
しかし、現に部下たちを含め隊長自身も王政への愚痴をこぼしていましたし、今回の王の待遇はあまりにも酷いものでした。沸々と、確実に崩壊が見え始めていました。
そんなある日、隊長は部下から一つ気になる情報を聞かされました。それは、食糧庫の食糧が異常に早く減っているというのです。国民の全員が秘密結社のメンバーだったわけではないですが、その数はなかなかのものでした。少なくとも以前より食糧が早いペースで減るというのは考え難いことでした。
不思議に思いながらも隊長は自らの行先や、王への不審と毎日格闘せねばならず、とてもそれどころではありませんでしたから、やがて食糧庫の話は忘れさられました。
それからさらに幾月か過ぎた頃、いよいよ食糧庫の問題は無視できないものとなりました。このままでは国民どころか兵士、王を含め食糧が尽きて餓死してしまうというのです。いったい、何があってそこまで危機に瀕することとなったのか検討もつきません。農業の働き手は国民を駆り立て、厳しく監督していました。それに、今年は豊作で収穫量も決して少なくありませんでした。以前と変わりなく、王はともかく国民は食糧を切り詰めて配給していましたし、思い当たる原因などありませんでした。季節は冬に入り、このままでは国家滅亡を覚悟する事態となりました。
そこで、誰かが食糧を盗み出しているのではないかという声が上がりました。これは大変鋭い意見でした。隊長もそうとしか考えられず、食糧庫の監督及び警護を一層厳しく取り締まり、隊長自身も持ち場について日がな一日目を見張りました。そして、あることに気がつきました。
外で厳重に見張っているにも関わらず、食糧がどんどん減っているということに。
次に考えたのは、虫食い問題です。食糧庫の中に虫が入り込み、貴重な食糧が蝕まれているのではないかと思い至ったのです。そこで食糧庫の中にある食糧を一つ一つ検査しました。食糧は箱詰めされていたり干し草などは藁状に積み上げられたりしていました。一通りあらためて見ましたが、目立って虫などが付いていることはありませんでした。ここまで食糧が減っているということは、虫食い問題ならば目に見えて虫が湧いていなければおかしいものです。それなのに一匹たりとも見つかりません。
そうしている間にも刻一刻と食糧のタイムリミットが迫りました。残されたのは、食糧箱が6箱と、干し草の藁が3塊ほどです。とても国民を賄っていくことはできず、既に多くの餓死者を出していました。他国はそんな情勢を見て、いつ攻め込んでくるとも知れない緊張状態にありました。王は王で、いつものように癇癪を起こし、「食糧の確保」が口癖になっていました。皆が空腹を堪えて越冬を望みましたが、裏切るように食糧はなぜか減っていきました。
ある1人の部下が、こんなことを呟いたのを隊長は聞きつけました。
「まるで、幽霊が食糧を食い荒らしてでもいるようだ。そう、あの処刑台へ送ってやった秘密結社の豚どもの怨念がそうしているに違いない」
隊長は部下のその言葉に恐怖を抱きました。いつまでも離れない不安の正体は、食糧の枯渇よりもあの狂気的な秘密結社の豚たちの態度と言葉にあったのです。
「まさか、あいつらの本当の狙いは、俺たちと王の敵対関係を築くことではなく自らの死をもって悪霊化し、食糧を食い荒らすことにあったとでもいうのか」
ハッとしましたがもう遅かったのです。隊長はその言葉を無意識に呟いていました。部下たちは隊長の見るからに不安そうな言葉を聞いて、より恐怖を覚え、疑念と葛藤に苦しみました。
こんな時こそ一致団結が必要だということは誰にもわかっていましたが、皆の心は離れ離れになっていました。誰もが心ここに在らずといった様子で、無くなり続ける食糧を前にしてぼうっとしていました。
そして、とうとう食糧箱2箱、干し草が2塊といった悲惨な状況に置かれました。まどまだ冬は長いなか、これは絶望的と言えるでしょう。もう、どうすることもできず他国の侵攻を待つほかない状況でした。
そこで、食糧庫の管理係から奇妙な情報が飛び交いました。干し草の隙間に何かが見えるというのです。藁状に積み上げられた干し草は、残りわずかでしたがそれでも隙間なく敷き詰められていました。しかし、ようく見てみると何かが中で動いたような気がするというのです。
隊長は、胸騒ぎを覚えました。何かを感じとったのです。そして、早速干し草の中で動くなにかを調査することにしました。
食糧庫の重い鉄扉をぎぎぎと唸らせながら押し開けると、すっかり広くなってしまった庫内が見渡せました。その光景は茫漠としていて、はっきりとした絶望よりも未だ夢の中のような呆然とした感が漂っていました。
隊長はゆっくり歩み始めます。一歩一歩進むごとに靴音が反響して、耳の中にぐわんぐわんと渦のようなうねりが生じます。頭の中を不快にかき乱し、まともに思考するのを妨げる気さえするほどです。
食糧庫内にあるお目当ての物資はすぐに目につきました。何せそれ以外何もないからです。強いて挙げるなら、潰れた空箱や吸い殻があちこちに落ちているくらいです。本来、懲戒を加えるべき管理の杜撰さですが、隊長は部下の心境を誰よりも知っていましたから咎めることはよしておきました。優しさというよりも、諦めの気持ちからくるものでした。
とうとう問題の干し草の前にやってきました。一見すると、別段変わったところはありません。何の変哲もない干し草であり、いまでは国民の唯一の希望です。隊長はそこでじっと見つめ続けました、部下の言うところでは、何かが中で動いたようだと言うのです。それが本当であれば、隊長として無視できない事案でした。
しかし、いくら待っても何も変化がありません。ひんやりと底冷えするような空気が肌を撫で、これ以上じっとするのは得策ではないと判断し、そろそろ引き上げようと隊長は思いました。
その時でした。出口へ向かおうと顔を振り向かせた視界の端で、もぞっと何かが動いたのです。隊長はびくっと痙攣したかと思うと、干し草と出口の中間点に視線をやったまましばらく身じろぎもしませんでした、見たくない気持ちと確認しなければならない責務の狭間で心の天秤が何度も揺れ動いていました。
嫌な気持ちは消えませんでした。それでも見なければならない使命感も同じくらい均衡し、ついに腹を括り、ゆっくり顔を干し草の方へ向かわせました。
そこで見たものに、隊長は一瞬のうちですべてを悟りました。そして、あの情報通の豚が遺した言葉の意味をはっきり理解したのです。
「お前らは押し並べて破滅するのだ」
つまり、こういうことです。あの時、情報通の豚が隊長の前に不敵に現れ、大人しく仲間とともに捕まったのも、散り散りに豚たちが潜伏していたのも、すべては打倒王政のための計画だったのです。それは、玉砕覚悟で何もかもを破滅に導く悪魔の計画なのでした。
隊長は想像します。情報通の豚が仲間に向けて演説する光景を。それはやはり狂気であり、恐るべき執念と憎悪に塗れていました。
「……計画を始めるにあたって、まず協力してもらいたいことがある。それは、たとえ俺たちが処刑台へ送られることになろうとも決して怯えず、負けず、むしろ立ち向かう勇気を持ってほしいということだ」
静謐とした空気の中、情報通の豚が口を開きました。彼が発した「処刑台」という言葉に敏感に反応した仲間たちからは、ざわめきが巻き起こりました。
たまらず1人の豚が情報通の豚に食ってかかりました。
「なに? どういうことだ。俺たちに死ねとでもいうのか」
「反対する者が出てくるのは分かっている。しかし、これはもはや単なる革命ではないのだ。言うならば、”復讐さ”」
「復讐?」
「そう。復讐。俺たちを散々苦しめた王室を徹底的に苦しめ、恐怖に陥れ、絶望の果てに一網打尽にするための計画なんだ」
「でも、だからって俺たちは生きるためにこうして立ち上がったんだ。死んでしまっては意味がない……」
「そうかな? では、他に何か策はあるのだろうか。もうあまり時間もなく、ここに兵士がやってくる。武力で対抗するのは不可能だ。今から使うべき武器は、知略さ」
「とは言っても、一体どうするつもりなのさ」
「いい考えがある。どうせ皆んな死ぬなら最期くらい俺たちの執念を奴らに刻みつけてやるのさ。そのために、俺たちは一度敗北しなければならない」
「敗北だと?」
「そう、敗北。少なくともそのフリをしなければならない。下手な演技ではダメだ。こちらも一応の知略を使って、王室を出し抜こうとする意志や態度を見せなければならない。つまり、だ……よく聞いてくれ。ここが肝要なのだから……計画を完遂するために、この秘密組織の人数を奴らに誤認させなければならない」
「人数を誤認させるだって。それはつまり、俺たちの誰かが犠牲になり、また誰かが生き延びて計画を遂行するということか」
「物分かりが良くて助かるよ。何せ幾分時間がないものでね。さて、そこまで来たらあとは簡単さ。俺たちはとにかく四方八方散り散りに逃げ回り、潜伏する。但し、これは本来の目的の場所に向かう者以外すべてが囮だ」
「本来の目的の場所とは?」
「くく。まさにそこが味噌でね」
情報通の豚がこれまでに見せたことのないくらい邪悪な顔を見せました。その目は、深く暗く澱んでおり、どこまでも吸い込まれてしまいそうな気迫に満ちていました。
固唾を飲む聴衆を前に、高らかに情報通の豚が宣言しました。それは、憎悪に塗れた死刑宣告に等しかったのです。
「国家管轄の食糧庫さ」
「し。食糧庫? 一体、そこに行って何をするつもりだ……」
「単純なことだ。潜伏した少数精鋭の我々の誰かが、国庫の食糧を時間をかけて、ゆっくりと」
ゆらりゆらり。
今まさに隊長は頭の中で、その悪魔の言葉を想起していました。
「食い尽くすのだよ」
まさに、傲慢な王と権力欲に満ちた兵士たちが、市民を誑かした結果招いた事実。それこそ。
「お前らは押し並べて破滅するのだ」
豚の夢なのでした。
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