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白鳥沢学園の文化祭当日。校内は模擬店の呼び込みや吹奏楽部の演奏で、耳が痛くなるほどの活気に包まれていた。
私は実行委員の腕章を巻き、トラブル対応であちこちを走り回る。
「……はぁ、……はぁ。やっと休憩……。あ、白布君どこかな」
スマホを取り出そうとした瞬間、背後から無言で腕を掴まれた。
振り返る暇もなく、人混みを縫うように強引に引きずられていく。
「……ちょ、白布君!? 急に何、仕事中なんだけど!」
「……うるせー。三十分だけだ。お前、さっきから色んな男に話しかけられすぎだろ。効率悪ィんだよ」
不機嫌オーラを全身から放つ白布君。彼は一般客や他校の生徒の視線を遮るように私の前に立ち、そのまま立ち入り禁止の屋上へと続く階段を駆け上がった。
重い扉を開けると、そこには突き抜けるような青空と、下界の喧騒が嘘のような静寂が広がっていた。
「……ふぅ、やっと静かになった。……奈々花、こっち来い」
彼は屋上のフェンス際で、私を自分の体とフェンスの間に閉じ込めるように立ちはだかった。
眼下では後夜祭の準備が進み、遠くでパレードの音楽が聞こえる。
「白布君、バレー部の出し物は? 瀬見さんたちに怒られるよ?」
「……知らねーよ。あいつらには『西村を回収してくる』って言ってある」
「……なんてこと言うの! 恥ずかしいじゃない!」
私が真っ赤になって抗議すると、白布君はふいに私の腰を引き寄せ、鼻先が触れるほどの至近距離で私を見つめた。
切れ長の瞳には、文化祭の楽しさなんて欠片もなく、ただ私を閉じ込めたいという、剥き出しの独占欲だけが宿っている。
「……奈々花。お前、さっき他校の奴に写真頼まれてただろ。……笑いすぎなんだよ」
「えっ、あれは案内係として……」
「……理由なんてどうでもいい。……お前のその顔、俺以外の計算(記憶)に残させたくねーんだわ」
彼は私の頬を包み込むと、周囲の喧騒を塗りつぶすような、深くて独占的なキスを落としてきた。
屋上を吹き抜ける秋の風。でも、重なった体温だけが異常に熱い。
「……文化祭が終わったら、後夜祭だろ。……ダンスも、花火も、俺の隣以外は許可しねーからな」
「……わかってるよ。……白布君しか見てないってば、バカ」
私が彼の制服のシャツをギュッと握りしめると、白布君は満足そうに喉を鳴らした。
「1点差」のライバルだったはずの彼は、今、この広い学校の中で、私という存在だけを完璧に支配しようとしていた。
文化祭のフィナーレ。校庭の中央で巨大な炎が揺らめき、スピーカーからはスローテンポな曲が流れ始めていた。
フォークダンスの輪が広がる中、私は人混みを避けた校舎の影、誰もいない渡り廊下の下に呼び出されていた。
「……遅い。三分のロスだぞ、奈々花」
暗闇の中から現れた白布君は、少しだけ乱れた制服のまま、私の前に立った。
彼の目には、キャンプファイヤーの炎が反射して、いつもより熱く、そして真剣な光を宿している。
「ごめん! 実行委員の後片付けが長引いちゃって……。で、話って?」
「……これだ。さっき、結果が出た」
彼はスマホの画面を私に見せた。そこには、夏休み明けの「実力テスト」の学年順位。
「……1位、白布賢二郎。2位、西村奈々花。……差は、一点」
心臓がドクンと跳ねた。また、一点。
でも、今回は「悔しい」よりも、約束の重みが私の胸を締め付ける。
「……私の負けだね。……何でも命令、聞くよ。白布君」
私が覚悟を決めて俯くと、白布君は一歩、また一歩と距離を詰めてきた。
彼の手が私の腰を引き寄せ、背中が冷たい校舎の壁に当たる。
炎の熱気と、夜の冷たい空気。その境界線で、彼の低い声が耳元に届いた。
「……命令だ。……これから卒業するまで、いや、卒業した後も。……お前の隣にいる『一点目』の男は、俺以外許可しねーからな」
「……えっ?」
「……及川だろうが、五色だろうが、他の誰だろうが関係ねー。……お前の『初めて』も『最後』も、全部俺が独占(計算)してやる。……文句あんのか」
それは、勝利のご褒美なんて生易しいものじゃない。
一生を賭けた、独占欲全開の「呪い」のような愛の告白だった。
「……文句なんて、あるわけないでしょ。……白布君が一番じゃないと、私も嫌だよ」
私が彼の首に腕を回して囁くと、白布君は満足そうに目を細め、そのまま深く、深く唇を重ねてきた。
遠くで上がる後夜祭の打ち上げ花火。
その轟音も、周囲の歓声も、今の二人には聞こえない。
「……責任、取れよ。……俺を、ここまで狂わせたんだから」
一点差のライバルから始まった物語は、この夜、誰にも邪魔できない「絶対的な独占」へと変わった。
敗北は熱を帯びる_。 fin