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【ドラマロケ現場:完璧なセンターの受難】
「カット!……オッケー、目黒くん、エリカちゃん、今の表情最高だったよ!」
監督の声が、夕暮れの海辺のロケ地に響く。
目黒は、人気若手女優のエリカの手を離しふぅと息をついた。
ドラマ『恋の残像』のクライマックス、二人の距離が急接近する重要なシーンだ。
「目黒くん、お疲れ様。……さっきの、本当にドキドキしちゃった」
エリカが上目遣いで微笑み、目黒のシャツの襟元を整えるふりをして指を這わせる。
「……ありがとうございます。エリカさんのおかげです」
目黒がプロとして誠実に微笑み返した、その時。
ロケ現場の入り口に、数台の黒塗りの高級車が音もなく停まった。
「お疲れ様でーす。差し入れ持ってきましたよー」
場違いなほど明るい、けれど芯まで冷え切った声。
そこには、深澤、渡辺、阿部、そしてラウールの四人が、芸能人オーラを全開にして立っていた。
スタッフたちが「Snow Manだ!」と色めき立つ。
「……みんな、なんでここに」
目黒の顔から血の気が引く。
「なんでって、蓮が頑張ってるから、リーダーの照から『見てこい』って言われてさ」
渡辺が、目黒の隣に立つエリカを、ゴミでも見るような冷たい一瞥で射抜いた。
「へぇ……今のシーン、モニターで見てたけど。ずいぶん楽しそうじゃん。鼻の下伸びてたよ?」
「阿部ちゃん、今の映像データ、バックアップ取っておいてね。後で『反省会』で使うから」
阿部がタブレットを操作しながら、穏やかな笑顔の裏で、目黒のドラマの絡みシーンを秒単位で解析し始める。
「目黒くん、ちょっといいかな? 衣装の汚れ、チェックしてあげる」
深澤が目黒の腕を強引に引き、スタッフの目も届かないロケバスの影へと連れ出す。
「……ラウールも、来なくてよかったのに」
目黒が縋るように最年少を見つめるが、ラウールの瞳には暗い嫉妬の火が灯っていた。
「ダメだよ、めめ。あんな女に、僕だけの 場所を触らせるなんて。……今夜、あの女の指が触れたところ、全部僕が消してあげるから」
ラウールは目黒の耳元で囁き、誰にも見えない位置で、目黒の脇腹を強く、爪を立てるように掴んだ。
「……ひっ……」
「返事は? ……これ、僕たちへの『裏切り』だよね?」
華やかなロケ現場。
目黒に向けられるスタッフの称賛の裏で、メンバーたちによる「所有権」の確認という名の、音のない蹂躙が始まろうとしていた。