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いま、僕の目の前には、ゴブリンの死体がいくつも転がっている。
胸に穴が開いていたり、上半身と下半身が分かれていたり、首から上がなかったり、人型であるはずのゴブリンが箱型に変形していたり。
どれも見るに堪えない無残な姿に……。
「お願い、戦わないで逃げて……ゴブリンさん」
◇ ◇ ◇ ◇
「パーティ名ですか?」
今日は朝から、冒険者ギルドでパーティ登録を行いに来た。
パーティ登録をしないで依頼を達成しても、報告した個人の功績になってしまうからだ。
「はい、パーティ名をカードに刻みますので」
今日も知的な受付嬢さんは、丁寧に説明してくれる。
とはいってもだよ。
あくまでお試しなわけだから、今そこまでする必要はないと思うのだが……
「ふむ……紅白、なんてどうだろう?」
リズさんはノリノリだった。
しかしネーミングセンスがちょっと……。
「それ髪色だけで決めてません?」
僕の白い髪と、リズさんの赤い髪で紅白?
元日本人としては、縁起の良い名前なのはわかるけど遠慮したい名前だ。
「むぅ、じゃあエルが決めてくれ」
「ゴリラギャング団とかでいいんじゃないですか?」
「ゴリラ……? 何か知らんがカッコイイじゃないか」
「嘘です、ちょっと考えるんで待ってください」
てきとうなこと言ったら危うく決まってしまうとこだった。
しかし名前か……たしかに髪の色は特徴として大きいよなぁ。
「……ローズクオーツとかどうですか?」
「ふむ、装飾品によく使われる鉱石だったか」
良かったこっちの世界にもあった。
「いいんじゃないか? 私はさっきのゴリラなんとかのほうでもいいが」
「ローズクォーツでお願いします!」
「それではローズクォーツで登録しました」
受付でギルドカードを出すと、ローズクォーツの名が刻まれていた。
(ホント、名刺みたいだ)
さて、あとは依頼を受けて……
「エル、これにしよう」
リズさんが持ってきた依頼書には、ゴブリン討伐と書かれていた。
◇ ◇ ◇ ◇
ゴブリン討伐は、ゴブリンの右耳が討伐証明になり、討伐数×青銅貨2枚になる。
これなら常駐依頼でいいのでは? とも思ったが、受注型にしておかないと、勝手に討伐に行って帰って来なくなる冒険者がいるからだ。
受注型にしておけば、何かあっても早期発見が期待できるということらしい。
(やっぱりゴブリンって緑色なんだね)
僕は今、ゴブリンの右耳を無心で切り取っている。
そして、リズさんはというと……
「遅い! 脆い! そんなものか!」
右手の剣でゴブリンを真っ二つにしながら、左手でゴブリンの頭を握りつぶしていた。
「なんで……なんで向かって行くのゴブリンさん」
彼らは皆、戦士の顔をしていた。
そしてリズさんは楽しそうな顔をしていた。
「グギャーッ!」
たまにこちらに向かってくるのもいるので、眉間にマナバレットを撃ちこんだ。
「ごめんね……」
もはやゴブリンが哀れに思えてくる。
「全部で10体ぐらいか? 思ったよりアッサリ終わったな」
「そ、そうですね……」
僕は2体しか倒してないんですけどね。
魔物とはいえ、人型の生き物の命を奪うのは、躊躇する自分がいるのではないか……なんて思ってた。
だがあまりにも狂気的なものを見たせいで、そういう考えは吹っ飛んでしまった。
もはや剣士というより狂戦士だよ。
「エルの魔法は変わっているな、無駄がない。オリジナルなのか?」
「えぇ、まぁ……」
――――その時、10mほど先に、もう1体魔物の存在を感じた。
「リズさん」
「あぁ、わかってる」
岩陰から、緑色のゴブリンとは違う、人間に近い肌色、でっぷりとした腹、豚鼻の魔物――――
(もしかして、これはオークなのでは?)
オークの討伐依頼はCランクからなので僕たちでは受けられない。
つまり格上なのだ。
「なんだ? 変わったゴブリンだな」
リズさんは無造作に近づいていく。
「ちょっ! リズさん! どう見てもそれゴブリンじゃないから!」
「ハハハッ、何を言っている。こんなに弱いんだ、きっとゴブリンだろ」
オークらしき魔物の目の前で、こちらを振り返り返事をするリズさん。
危なッ――――
と思った矢先に、ズシンと音を立てて魔物は倒れた。
魔物の土手っ腹には風穴が開いていた。
……実は前世ゴリラなのでは?
「これ絶対ゴブリンじゃないですよ……」
「しかしな、手応え的にはあれらと同じだったぞ?」
リズさんの指差す方には、大量の緑の肉片がある。
どんな判断基準なの。
「絶対ゴブリンじゃないですよ。こっちは耳取っても討伐証明にはならないでしょうし……リズさんって解体とかできます?」
「素材として、という意味なら難しいな。バラすだけなら得意なんだがな」
でしょうね。
周囲の惨状だけでそれはわかります。
「じゃあそのまま持って帰るしかありませんね」
中が血塗れにならないことを祈って、ポーチに仕舞う。
時間遅延がどれぐらいのものかわからないから不安だ。
「ほう、マジックバッグか? その大きさのものが入るのか……」
「あっ……」
そういえばリズさんには、ポーチのこと言ってなかった。
パーティを組むのなら言っても良かったのかもしれない。
「内緒にするつもりではなかったんですけど……」
「いや、高価なものというのは知っている。昨日今日知り合ったばかりの者に話さないのは当然だ」
先ほどまで暴れていた人とは思えないほど理解がある人だ。
「そう言ってもらえると……っと、そういえばゴブリンの死体はどうしましょう。そのままってわけにもいかないですよね」
死体そのままなんて衛生的にちょっとね。
「普通なら燃やすなり埋めるなりするのだろうな。だがこの辺りにはブラックウルフも出るからな、道中やつらの痕跡もあったし、放っておけば胃袋に収めるだろう」
痕跡なんてあったんだ、全然気づかなかったよ。
◇ ◇ ◇ ◇
「はい、ゴブリン10体討伐たしかに確認しました。こちら報酬の銀貨2枚です」
ギルドの受付で報告をし、報酬をもらった。
「ホントに取り分は均等でいいんですか? ほとんどリズさんの成果ですよ?」
「パーティとはそういうものだろう? それに、適材適所というものがある。今回はそれが私だっただけだ」
一々考え方がカッコイイ人だな。
姉御って呼んでしまいそう。
「まぁ、たしかに揉める原因にはなりそうですね。じゃあ今後も均等割りで」
今度はリズさんに楽してもらおう。
「じゃあ次は素材買取のほうですね、オークを買い取ってもらわないと」
「あれはゴブリンだと思うんだがなぁ」
まだ言ってるよ。
「お、今日はどうした? また角ネズミじゃねーだろーな」
どうやら、こちらの顔を解体のマッチョのおっさんは覚えていたようだ。
「違いますよ、でもここだと邪魔になるので……」
さすがにあのサイズを、ここでポーチから出すのはなぁ。
「んー? あぁ、じゃあ作業場のほうに頼むわ」
何かを察してくれたらしい。
この筋肉は空気も読めるようだ。
作業場には、作業中の従業員が数名いたが、とくにこちらを気にしている様子はなかった。
(みんな作業に集中してる、職人って感じだなぁ)
これならこっちも気にしなくていいよね。
「この台に出していいですか?」
「おう、これでゴブリンだったら許さねーぞ」
「おいエル、謝っておいたほうがいいのでは……」
リズさんが心配し始める。
えっ? 僕の方が認識おかしいとかじゃないよね?
これ絶対オークだよね?
ポーチから腹に風穴の空いたオーク(仮)を台に取り出す。
「おいおい、こりゃお前……」
うん、やっぱり何度見てもゴブリンではないよ。
「オークか、この辺じゃ珍しいな」
「あ、やっぱりオークだったんですね。1匹だけゴブリンの群れの近くにいたんですよ」
「あー、じゃあこいつは、はぐれだろうな。大方ゴブリンでも狙ってたんだろう」
なるほど、お食事予定だったんですね。
はぐれってのは群れからはぐれたってことだよね?
「はぐれかぁ、こういうのってギルドに報告したほうがいいんですか?」
「ん? 珍しいといってもまったくないわけじゃねぇ、心配すんな。まぁ一応俺が報告書は上げるがな」
この筋肉は書類仕事もできるのか、さすがだな。
そしてリズさんはというと……
「あんな弱かったのにゴブリンじゃないのか……」
不服そうだった。