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※ご本人様・関係者様とは一切関係のない二次創作です。
※『乙女解剖』の曲バロです。
春の夜、花街は夢を売る。
提灯が揺れ、三味線が鳴り、
花魁道中がゆっくりと進む。
紫の打掛に藤の刺繍。
その中心にいるのが、藤の君。
本当の名ではない。
けれど――
その仮初めの名に、恋をする男がいた。
旅人を名乗る、おんりー。
それもまた、本名ではない。
二人とも、名前を隠している。
最初から、嘘でできた出会いだった。
甘い嘘
おんりーは花魁のいる見世へ向かう。
ただの旅人では通してもらえない。
「武家の使いで参った」
そう嘘をつく。
襖が開く。
香の匂い。
灯りに照らされる藤色。
藤の君は、微笑んだ。
「ようこそ。今宵は、どのような遊びを?」
遊び。
それは、恋のことだ。
本気になったほうが負けの、危うい戯れ。
「あなたと、話がしたい」
おんりーはそう言った。
藤の君は少しだけ目を丸くして、
それから柔らかく笑う。
乙女解剖
豪華な料理、酒、三味線の音。
けれどおんりーの胸は、それどころではなかった。
彼は“解剖”したかった。
腹を裂く、という意味ではない。
心を。
本音を。
「藤の君。それは、本当の名前じゃないよね」
唐突な問い。
藤の君の指先が止まる。
「……なぜそう思われますか?」
「笑い方が、少し寂しい」
彼女は一瞬だけ、無表情になった。
すぐに花魁の微笑みを作り直す。
「寂しさも、商品でございます」
「違う」
おんりーは首を振る。
「それは演技じゃない」
沈黙___
二人きりの部屋で、時間がゆっくり溶ける。
「……あなたは、怖い人ですね」
「どうして?」
「わたくしを、解剖しようとしている」
おんりーは笑った。
「だめ?」
「……だめでは、ありません」
どくり、と鼓動が鳴る。
本当の名
「わたくしの名は」
藤の君は、盃を置いた。
「綾乃、と申します」
初めて落ちた仮面。
白粉の下の素顔。
少しだけ不安げな瞳。
「あなたは?」
おんりーは、迷う。
自分の名を明かすということは、
同じだけ“解剖”されるということだ。
「……おんりー」
「それは本当のお名前ですか?」
くすり、と笑われる。
痛いところを突かれた。
「違う」
「では」
綾乃は静かに言う。
「本当を、教えてください」
逃げ道がなくなる。
恋は、こうして追い詰めてくる。
彼は小さく息を吐いた。
「……俺の名は――」
その名を、彼は誰にも教えたことがなかった。
けれど。
今は、教えたいと思った。
それが、恋だった。
ドキドキの正体
二人の距離が、近づく。
指先が触れる。
「好き、って」
綾乃が小さく言う。
「どこにあるのでしょう」
「胸、かな」
「解剖したら、見つかりますか?」
「たぶん、見つからない」
「では、どうすれば?」
おんりーは彼女の手を取る。
胸に当てる。
自分の鼓動を、伝える。
どくん、どくん。
「これだよ」
綾乃の目が見開かれる。
「……速い」
「あなたのせい」
彼女も、そっと自分の胸に彼の手を重ねる。
同じ速さ。
同じ熱。
解剖しなくてもわかる。
これが“好き”。
噂と真実
その頃、街では別の噂が流れていた。
「殺人鬼が捕まったらしい」
誰かが流した嘘。
不穏な空気を消すための、作られた物語。
本当は、誰も腹など裂いていない。
けれど人は、恐怖や噂に恋をする。
おんりーは思う。
自分もまた、嘘に恋をしていたのかもしれない。
花魁という幻。
手の届かない存在。
けれど今、目の前にいるのは。
藤の君ではない。
綾乃だ。
夜の終わり
夜が明ける。
別れの時間。
「また、来てくださいますか」
「来るよ」
「武家の使いとして?」
「ただの、男として」
綾乃は微笑む。
「ではわたくしも、藤の君ではなく」
「綾乃として、待っています」
最後に、そっと唇が触れた。
甘い
苦い
胸が裂けそうなほど、痛い。
これが、乙女解剖。
刃はいらない。
名前を明かし
本音を晒し
弱さを見せる
それが、いちばん怖い。
それでも。
ドキドキしたいじゃんか。
恋は、きっと。
壊れる寸前が、いちばん甘いのだから。
ハッピーエンド
最後まで見てくれた方本当にありがとうごさいます!
よければ他の曲パロのリクエストもお待ちしてます♪
※表紙のイラストはAIで制作したものです