テラーノベル
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流れ星が空を泳いでいた。
クレヨンで描いたかのような世界。
そこは牧場で、無限に広がるような草原があった。
遠くを見ると、“竜巻”があった。
しかしこちらには風が全く感じない。
“何故か既視感を感じる”。
足元の草を見た瞬間、セインの脳裏にエレノアの声が蘇る。
『この色、絵の具で塗るときれいだよ』
まるで誰かが、彼の記憶をスケッチしているようだった。
牛の噛み方で草を食べている豚。
その豚の尻尾は何故かカンガルーのように長く太いものだった。
足はダチョウのようにしっかりしていた。
セインはにいなの方を振り返え、優しく声をかけた。
セイン「にいなちゃん、ちょっとここで待っててね。」
にいなは静かに頷いた。
セインは警戒しながら豚に近づく。
豚は睨みつけるように左目でセインの方をジッと見つめる。
セインの心の中(なんかどっかで見たことあんなぁ…)
にいなは気がついた。
豚の尻尾はセインの方に素早く近づく。
にいな「セインさん離れて下さい!その豚…多分…!」
“豚は雑食性である。”
セイン「わあっ!」
長い尻尾がセインを捕まえた。
“豚は非常に力強い。”
尻尾は徐々にセインの腹を潰すように力強くなる。
どうやら豚はセインを餌と見なしたようで、絞め殺してから喰おうとしているようだ。
セインは尻尾を外そうとしたがどんどん腹が苦しくなり、力も出せなくなっていった。
セイン「うぅ、コイツ…強いなぁ…」
セインの心の中(ああ…こういう時にあの勇敢なカルティエがいたらな…。)
カルティエの鋭い目つきをセインは頭の中で走馬灯のようにくっきりと思い浮かべた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カルティエ「は?普通に言えば良いじゃん。」
カフェでジュースを飲んでいた。
今夜は雨が降っていた。
カルティエは眉間に皺を寄せてセインに言った。
セイン「だーかーらぁ!無理だって!告るの!」
セインはエレノアにどうすれば告白する勇気が出るのかカルティエに相談していた。
カルティエ「他の男にとられたらどうするんだ。お前の希望に満ちた人生は曇って雨が降るぞ。」
セイン「…でもさぁ」
カルティエはポテトを口に入れながらセインに言った。
カルティエ「“でも”は考えるな。お前は自分に甘い。やらないで後悔するよりやって後悔した方が圧倒的に良いだろ。」
セインはストローから唇を離してカルティエの瞳に映る自分を見た。
セイン「…分かったオレ頑張るよ。」
カルティエはセインの肩に手を置いてセインを元気づけた。
カルティエ「きっとOKしてくれるぞ。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カルティエはセインとエレノアが付き合うきっかけをつくった男だ。
セインが虐められていた時に助けてくれた救世主でもあり、彼の両親が否定した医学部にも合格した天才でもある。
そんな彼を、セインは今必要としていた。
にいなは泣きながら見ていた。
にいな「また…私のせいで誰かが死ぬんだ………」
助けようとしても足が動かず震えるばかり。
にいなの心の中(だめだめだめ…私が助けなきゃ…セインさんが死んじゃう…!)
その瞬間、大きなナイフが飛んできて豚の首を切り落とした。
そして力がなくなったように尻尾はセインするりとを落とす。
セインは無事で、奇跡的に無傷だった。
にいなはセインが助かっても、笑えなかった。
“自分じゃ救えなかった”その現実が、また胸を刺した。
しかし、何故ナイフが飛んできたのだろうか。
ナイフが飛んできた方を2人は向いた。
そこには…
「また会ったなセイン。」
セインは目を輝かせた。
そこに立っていたのは、見覚えのある黒髪に黒いジャンバーを着た、だらしない格好をしている青年のカルティエだった。
セイン「カル…!!!」
セインは何度も咳をした。
にいなはセインの背中を摩った。
セイン「ゲホッ、ありがとな…お前のおかげで死なずに済んだぜ…」
カルティエはゆっくりと口を開く。
強い風がヒューヒューと音をたててカルティエを照らす。
カルティエ「“一度は救えなかった”からな。今回は救おうと思って俺の得意な投げ技で助けてやったんだ。感謝しろ。」
図々しい態度でセインを見る。
セインは目を丸くしてカルティエを見た。
セイン「…どういうことだ?」
カルティエはもう一度ため息をついた。
そして投げた切れ味の良いナイフを持ってナイフの様子を見ながら答えた。
カルティエ「やっぱり分からないんだな。“お前は…轢かれたんだ”。」
━━━その瞬間、風が止んだ。
豚の鳴き声も、草の擦れる音も、全部。
ただカルティエの声だけが、世界の中心に響いた。セインは驚きすぎて言葉も出なかった。
冷たい汗がセインの首を流れる。
セイン「は………?」
罪悪感と悲しみがセインを重圧のように潰そうとしてくる。
セインの頭の中はさっきまでカルティエに会えた喜びばかりだったのにそれが何もかも消え去り真っ白となった。
セインの心の中(もうオレは…手遅れなのかもしれない…。まだオレはみんなに謝ってねぇよ………親に復讐してねえよ…やりたいことだってたくさん…)
セインは唇を噛み跪いた。
服の中に閉まっておいた太陽神のネックレスを見つめる。
手が小刻みに揺れ、止まろうと思っても止まることができない。
目からは自然に涙が溢れ出てくる。
目の前が真っ暗だ。
涙のせいで霞んで見える。
絶望と後悔がセインの涙となって彼の頬を流れた。
そんなセインにカルティエは手を差し伸べた。
カルティエ「ここは多分“死後の世界”か“境界”なんだ。だって俺もお前のことを助けようとしたら“一緒に轢かれた”からな。」
カルティエは落ち着いた様子だった。
眉間には皺を寄せている。
カルティエはセインの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
カルティエ「だから、もしこの世界が“境界”ならば、俺達はまだ目を覚ます可能性があるということだ。何故なら、“境界は此の世と彼の世の狭間にある”からな。完全には死んでいないということだ。」
涼しい風が吹いた。
ほんの少しだけ、希望が見えた。
エレノアの声が再びセインの頭の中で響く。
エレノア『涙も、セインの物語の一部だよ!だから、その涙を笑顔に染めちゃお!』
セインの心の中(エレノア…)
セインはカルティエの差し伸べた手を掴み、立ち上がった。
セイン「…ここで崩れたらダメだよな。」
カルティエはさっきまで真面目な顔だったが、今は少し口角が上がっていた。
それは正に、安心した表情だった。
カルティエ「…お前にはもう少し人生を楽しんでもらいたいからな。先ずは目の前の問題から解決していこう。」
セインは涙を服で拭いた。
下を見るとあることに気がついた。
セインの目から落ちた“涙が染みており、ヨレている”ように見えたのだ。
セイン「…ここって普通の世界じゃねえよな。ならさ、オレのぶっ飛んだ仮説も当たってる可能性もあるってことだよな。」
さっき使用したライターと地面に生えているヨレた草を手に持ってにいなを後ろに下がらせた。
カルティエは柵を足で蹴って破壊し、豚をこっちに向かわせた。
セイン「 𝓜𝔂 𝓟𝓻𝓮𝓽𝓽𝔂 𝓟𝓻𝓲𝓷𝓬𝓮𝓼𝓼こっちだぞ〜!」
カルティエ「おいそれどっかできいたことあるぞ。」
にいなはセイン達の予想外な行動に驚いて口を抑えた。
にいな「えっ…?!」
セインはヨレた草にライターで火をつける。
カルティエは大きなナイフを手に持って構える。
豚はダチョウのように走ってきた。
セイン「そういえばカル。レリィが『宜しくね』だとよ!」
カルティエ「お前の妹はそれしか言えないのか?」
そう言うとセインは火をつけた草を豚の近くに投げつける。
“豚は暑さに弱い。”
そしてカルティエは豚の右側の方からナイフを刺して豚を殺した。
“豚は左目で人や物を見る傾向がある。”
セイン「今夜はバーベキューかなぁ〜!」
無限に広がるような牧場の遠くからどんどん豚がこちらに向かって走ってくる。
しかし豚はカルティエとセインによって次々と殺されてゆく。
にいなは目を閉じて耳を塞いでしゃがみ込んでいた。
セインは情緒が不安定になったのか、さっきまでの涙はなかったかのように笑いながら殺伐としていた。
ついた火は消えない。
“世界に焦げ目がついていた”。
豚の死骸は山のように積み重ねられていた。
その上に血だらけのセインは立つ。
セイン「はははは!人間様を舐めんじゃねえぞ下等生物共め!」
涼しい風がセインの髪を揺らせた。
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豚は全員死んだのか、もう来なくなった。
しかし、竜巻がこちらへと向かっていた。
にいな「セっ、セインさん!竜巻がっ…!」
竜巻は唸り声をあげたような風音を立てた。
竜巻の色は空よりも黒く暗く、同時に雷のような音も聞こえる。
セイン「絶対自我持ってるってあの竜巻!!」
カルティエ「とにかく、竜巻から逃げるぞ!」
セインは立ち止まった。
“この世界には行き止まりがある。”
カルティエ「なにしてんだセイン!」
セイン「…この世界は、“スケッチブックの世界”だ。ずっと既視感あるなーって思ってたけど、よくよく考えたら、この世界、『エレノアのスケッチブック』じゃんか!」
エレノアとの思い出がセインの頭の中を鮮やかな色で染めてゆく。
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エレノア「あ〜!これ懐かしい!」
エレノアはセインにスケッチブックに描かれた絵を見せた。
その絵は夜の牧場で、星がキラキラ輝いていた。
それはセインとエレノアが過去に一緒に描いた絵だった。
セイン「オレなんか化け物描いてんだけど笑」
セインが指差したところには、カンガルーの尻尾を生やし、ダチョウの足を持った、左目でこちらを見つめてくる豚だった。
彼曰くこれは羊らしい。
エレノア「この時、セインが私に告白したんだよね!あの時はドキドキしたな〜。」
そう言うと、エレノアはセインに寄っかかる。
セインは絵をじっと見た。
セイン「ああ、オレが15歳の時か〜。」
エレノア「あの時の私が今の私を見ると、『まさか未来ではこんなイケメンなセインくんと結婚してるだなんて〜!!!』って驚くだろうな〜!」
エレノアはリラックスするように体を伸ばした。
セインは少しニコッとしてエレノアの顔を見た。
セイン「オレは全力で嬉しがるだろうな〜。」
エレノアは少し頬を赤くした。
そして、セインの頬にそっとキスをした。
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セイン「そう、確かエレノアは、竜巻をちゃんと描いたんだ!だからあの竜巻にも“線”があるはずだ!」
セインはライターを強く握り、竜巻の方へ走る。
カルティエ「やっぱお前は阿呆だ!」
カルティエはにいなと共にセインを追いかける。
にいなはもう頭の中が真っ白になって何も考えられなくなった。
竜巻に吸い込まれそうな自分の体を支えながらセインは一人で呟く。
セイン「オレはこの思い出の世界を違う物に染めたくはない…。だから水で濡らすようなことはしない。ごめんエレノア…このスケッチブックは、ちゃんとオレの記憶の中にしまったから。」
そして近くの豚の死骸に火をつけた。
炎はメラメラに燃える。
豚の死骸は山のように積み重ねられていた為、大きな焚き火のように火は下の豚の死骸へと染めてゆく。
竜巻はどんどんセインに近づく。
カルティエとにいなはもうこれ以上セインに近づけなかった。
にいな「セインさん…!もう私は…目の前で死んでいく人を見たくないんです…!!!」
涙目で見るにいなはセインの背中を不安ながら見つめた。
セインはにいなの方を振り向いて万遍な笑顔を浮かべて大声で言う。
セイン「大丈夫!オレはぜってぇ死なない!!!」
にいな「…!」
にいなの心の中(そんな自信…どこから出てくるの………?!)
セインが飛ばされそうになった時、一瞬にして炎が竜巻の線につき、竜巻全体が燃え始める。
セイン「あっぶねぇ…!」
竜巻の火が黒い空にもつき、そして世界が崩壊していく。
カルティエとにいなは急いでセインの方へ走った。
にいな「セインさん…大丈夫ですか…?!」
セイン「ほらな!言っただろ?オレは絶対死なないって!」
にいなは目を輝かせた。
一瞬だけ、にいなはセインに憧れた。
カルティエは息切れをしていて、かなり疲れたようで膝に手を置いて体を少し丸めていた。
カルティエ「お前っていつも危険な状況に一人で走っていくよな…?!」
セイン「いつもギリギリで生きていきたいからな!」
カルティエ「はぁ…やっぱお前はオレがちゃんと見ていなきゃダメだな…」
さっきまでの緊張感はなく、場は和んだ。
微かに甘く、乾いた匂いが辺り一帯に広がる。
どうやらスケッチブックの三分の一が燃え、塵となったようだ。
にいなは上を見上げ、口を抑えて驚いた。
にいな「す、凄い…!」
セインとカルティエも上を見上げた。
そこには…
次のページに描かれていた、“セインの肖像画”があった。
鉛筆で濃く描かれており、線は生き生きとしていた。
セインの細かい部分も十分に描かれていてセインは少し頬を赤めた。
にいな「…セインさんそっくりで凄い………!」
カルティエ「やっぱりここは、お前の言ったとおり、エレノアのスケッチブックの世界だったんだな。エレノアは本当に絵を描くのが上手だ。」
2人はセインの顔を見ながら肖像画を見て、あまりにもそっくりなことに感動した。
セイン「え…オレ描かれた記憶ないんだけど?!」
セインの顔は美しく、エレノアの愛が込められているように感じた。
セインの心の中(…エレノア。)
風は暖かく、肖像画の方へ吹く。
カルティエは目を丸くしてセインの肖像画の左側に光を見つけた。
カルティエ「おいまさかあれって…」
それは、エレノアの光だった。
やはりセイン以外にもその光は見える。
セインは急いでその光を追いかけた。
にいなとカルティエもセインの後を追いかけてゆく。
その光は前と同じように扉の向こう側へ入っていった。
やはりその光に近づけば近づくほど頭痛が酷くなる。
セインは倒れそうになったが、力を振り絞って光を追いかけた。
そして前と同じように扉のドアノブに触れ、扉の向こう側へ走る。
セイン「待ってくれエレノア!!」
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誰もいない学校の廊下に、耳が痛くなる程の愚痴が響き渡る。
さっきまで追いかけていたはずのエレノアの光はまた消えていた。
外は日が暮れているのに太陽は見えない。
目を細めると、その太陽のような光は、“誰かの目”だった。
スキップをするような足音が徐々に近づいてゆく。
にいなは物凄く震えてセインの手とカルティエの手を掴み、足音が鳴る反対方向へ走った。
セイン「にいなちゃんどうしたんだ?!」
にいな「“あの子”が…ここにいる………」
スキップをしていた足音は段々早くなる。
鈴の音がシャンシャンと揺れるように音を立てた。
そして甲高い声で彼らに話しかける。
“あの子”?「鬼さんこちら手の鳴る方へ〜」
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