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「わたし以外に空を飛べる魔女なんて、初めて会いました」
ふたり並んで空を飛びながら、わたしは楸先輩――結局二年生の先輩だった――にそう言った。
楸先輩はくすりと笑んで、
「そうですね。魔法使いだからといって、空を飛べる人なんてあまりいませんから。私も、私の他にあと二人くらいしか空を飛べる魔女を知りません」
そうなんだ、と答えて、私は小さく頷いた。
楸先輩は再び顔を前に戻すと、慣れたようにくるりと空中で一回転。
けれどその動きはどこか荒々しく、見ているわたしからすると落っこちてしまうんじゃないかと冷や冷やしてしまうほどで、
「危ないですよ」
思わずそう口にしていた。
「大丈夫ですよ!」
楸先輩はあははっと笑い、
「落ちない限り死にませんから!」
「落ちたら死んじゃうから危ないって言ってるんじゃないですか!」
すかさずわたしはツッコミを入れる。
なに? なんなの、この人!
楸先輩はそんなわたしの反応が嬉しかったのか、にやにやと笑みを浮かべながら、
「安心してください、慣れてます」
さらに何度も回転したりスピードを上げて蛇行したり――
「や、やめてください! 見てるこっちが怖いんですから!」
楸先輩はそんなわたしにひとしきりアクロバット飛行をして見せると、ようやく私のスピードに合わせるように再び並んで飛び始めて、
「カネツキさんって怖がりなんですね!」
なにが面白いのだろう、ニコニコしながらわたしをからかった。
わたしは頬を膨らませながら、
「もう、信じられません。そんな無茶な飛び方をするだなんて」
はいはい、と楸先輩は明らかに反省する様子なんてなくて、間延びした声でそう返事した。
マイペースって言えばいいんだろうか。
いまいち何を考えているのか解らない。
見た目は可愛らしいし美人なのだけれど、こういう人と付き合っていくのって、結構大変そうだよな、と私は思った。
思っただけで、当然口には出したりしない。
それからしばらくの間わたしたちは黙って飛んでいたのだけれど、
「こうして空から下の世界を眺めるの、私、好きなんですよね」
楸先輩はうっとりしたような表情でそう口にした。
わたしはそんな楸先輩の様子に相槌を打ちながら、
「あ、わかります! なんかいいですよね。活気があって」
「そうですね」
と楸先輩は答えると、くつくつと不敵な笑みを浮かべながら、
「――それに、なんだか私が世界の支配者になったみたいで、すごくいい気分になれますよね」
不穏な言葉を、口にした。
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