夜の空気がざわめく。雨に濡れた路地に、硬質な鎧のような影が立っていた。
「……また、私たちの前に現れましたか」
菊は短く息を吐き、御札を手に構える。
王耀は退魔刀を肩に担ぎ、並んで立つ。
「お前は……ルート。どうしてここに?」
「ここが俺の遊び場だ。退魔師も陰陽師も関係ない」
鎧の中から低く響く声。
その姿は不自然に硬く、刃も結界もほとんど効かない。
「菊、こいつ……普通の妖じゃないアル」
「……異常な防御力ですね」
ルートは一歩踏み出すたびに、地面を震わせる。
街灯が揺れ、壁がひび割れ、雨が鋼鉄に反射して光った。
「耀さん、どう倒します?」
「……二人の力を合わせるしかないアル!」
菊は札を並べ、王耀は刀を振るう。
二人の連携でようやく鎧の継ぎ目に僅かな隙が生まれる。
しかし、力を出しすぎれば王耀の霊力が削られ、菊の体力も限界に近い。
「くっ……これ以上は無理アル!」
「……やるしかない」
菊が深呼吸し、結界の力を極限まで引き出す。
王耀も退魔刀を高く掲げ、二人の力を一点に集中させる。
閃光が轟き、雨粒が蒸発するほどの衝撃。
鎧のルートが崩れ、ついに地面に倒れ込む。
「……やっと、終わった……アルネ」
王耀は肩で息をしながら言う。
だが、崩れた鎧の奥から小さく光るものが――
「……これは……?」
菊が覗き込むと、微かに残った妖の核片。
これを見た二人の背筋に、ぞっとする冷気が走った。
「……まだ、誰かが裏で操ってるアル?」
「……この感覚……あの時のアルフレッドやアーサーと同じですね」
二人は互いに視線を交わす。
そして夜空を見上げる――街の明かりの向こう、誰かが微笑んで見下ろしているような気配。
「……次は、あの人が来る……」
王耀の声は静かだが、覚悟を決めた響きがあった。
菊も黙って頷く。
二人の戦いは、まだ終わっていなかった
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