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れもんてぃ🍋
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童磨は「了解しました、お嬢様!」と軽快な敬礼をして、大きな体をベッドから揺すり起こした。彼はしのぶが被った自分のTシャツの裾をわざと少し捲り上げ、彼女の太腿に未練がましいキスを一つ落としてから、足取りも軽くキッチンへと向かう。
数分後、リビングからは豆を挽く香ばしい香りと、フライパンでベーコンが踊る小気味よい音が聞こえてきた。しのぶは重い腰を上げ、彼から借りたオーバーサイズのシャツの袖を捲りながらリビングへ足を踏み入れる。
「しのぶちゃん、特製オムレツだよ。栄養をつけないと、また二人の『激闘』に耐えられないからね」
「……その物言いをやめなさいと言っているんです」
テーブルには、驚くほど美しく黄金色に輝くオムレツと、丁寧にいれられたコーヒーが並んでいた。しのぶが椅子に座ると、童磨は当たり前のように彼女の背後に回り、椅子の背もたれ越しに抱きしめる。
「昨日の『無限城』の収録、最後は本当に寂しかったな。しのぶちゃんがあんなに冷たい目で僕を見るから、本気で泣きそうになっちゃった」
「仕事でしょう。それに、あなたはあの役が似合いすぎていて、こちらこそ時々背筋が凍りますよ」
しのぶはコーヒーを一口含み、ホッと息をついた。昨夜の狂乱が嘘のような穏やかな朝食。童磨の腕が自分の肩に預けられている重みが、不思議と心地よい。
「でも、あっちの僕はしのぶちゃんを食べちゃったけど、こっちの僕はしのぶちゃんに食べられちゃいたい気分だなぁ」
「朝からそんな冗談を言う気力があるなら、早く掃除機をかけてきてください。それと、シーツの洗濯も。あなたのせいで、使い物にならなくなっていますから」
「あはは! 厳しいなぁ。でも、そんなふうにテキパキ命令してくれるしのぶちゃん、最高に痺れるよ」
童磨はしのぶの頬にチュッと音を立ててキスをすると、今度は本当に掃除用具を取りに走り出した。
朝の光が満ちるリビングで、しのぶは一人、静かにオムレツを口にする。
モニターの中で憎しみ合い、殺し合っていた二人の姿は、ここにはどこにもない。ただ、少し騒がしくて、度を越して愛の重い恋人がいるだけだ。
「……ふふ、馬鹿な人」
誰にも聞こえない声でそう呟くと、しのぶの唇には、昨日から続く幸せな疲れを隠しきれない、穏やかな笑みがこぼれていた。
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