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控室の照明はすでに落とされて、明かりは間接照明だけ。
ソファに並んで座ったふたりの間には、ほどよく静かな空気が流れていた。
「……さっきのおでこ、まだ熱い」
初兎がポツリとつぶやくと、いふが横でくすりと笑う。
「そりゃそうだ。ちゃんと気持ち込めたからな」
「……ずるい。まろちゃんだけ、落ち着いてて」
「落ち着いてるふりしてるだけ。内心じゃ、結構ギリギリ」
「……え?」
その瞬間――
いふが、ゆっくりと体をこちらへ傾ける。
「初兎」
「な、なに」
いふの声が低くて、落ち着いていて。
それだけで、全身の温度が一段階上がる。
「さっきのは、子どもみたいなキスだったろ。
優しいだけで、触れるだけの」
「………………うん」
「じゃあ……大人のキスって、教えてやるよ」
そう言って、いふは初兎の顎に指を添える。
ゆっくりと、逃げ場を与えずに顔を上げさせて――
唇が、触れた。
だけど今度は、浅くない。
ただ重ねるだけじゃない。
少しずつ、少しずつ――熱を込めて、呼吸を奪うように深くなっていく。
初兎の手が、無意識にいふの服を握る。
「……まろ、ちゃっ……」
「声、かわいい。……もっと、聞かせて」
そのまま、また唇を重ねる。
温度も、感情も、さっきとは比べ物にならない。
やさしくて、でも逃がさない。
なによりも確かに、“愛されている”とわかるキスだった。
「初兎。……俺のもの、だよな?」
「……うん、まろちゃんも、僕にだけ」
甘くて、静かで、心まで溶けていく夜。
触れるたびに、大人になっていく。