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第5話:仮面の裏側、暴かれる真実
デビューの準備が進む中、ユズルは事務所の一角にある「開かずの簡易スタジオ」に籠もっていた。
「……よし。……これ、アップしたら……寝る」
彼は、自身のチャンネル『シキ』として、未発表の新曲をSNSに投稿する最終作業を終えたところだった。
一方、廊下ではF/ACEのメンバーたちが、スマホを囲んで騒然としていた。
「おい、見ろ! 『シキ』が新曲のデモを、今、生配信で流してるぞ!!」
桜利が叫ぶ。
「本当だ……! でも、背景の壁……これ、ここの事務所のスタジオじゃない?」
ナツキが鋭く指摘する。
多聞の心臓が、ドクンと跳ねた。
あの日の夜の歌声、レッスンの時の圧倒的な表現力。点と線が、強引に結びついていく。
「……まさか、ユズルくんが……?」
多聞が震える手で、配信の音が漏れ聞こえてくる「スタジオの扉」に耳を寄せた。
スマホから流れる『シキ』の歌声と、扉の向こうから微かに漏れる生歌が、完璧にシンクロしている。
「……『……サヨナラ。……夜が、明ける……』」
曲が終わり、配信が切れる。
と同時に、ガチャリと扉が開いた。
そこには、ヘッドホンを首にかけ、いつにも増して隈のひどい、フラフラのユズルが立っていた。
「……あ。……多聞くん。……何。……出待ち?」
沈黙が流れる。
桜利が、スマホの画面をユズルの目の前に突きつけた。
そこには、今しがた配信を終えたばかりの『シキ』のアイコンが表示されている。
「……おい。これ、説明しろ。お前、ここの管理画面開いてたよな?」
「…………」
ユズルは一瞬だけ、動きを止めた。
いつも通りの無表情。
だが、その瞳が「めんどくさいことになった」と雄弁に語っている。
「……あー。……バレた。……隠すの、飽きたし……いいや」
彼はゆっくりと溜息をつき、壁に背を預けた。
「……そう。……僕が、シキ。……編集も、告知も……全部一人でやるの、疲れたから……事務所に入った。……文句、ある?」
「文句どころじゃねーよ!!」
桜利が詰め寄る。
「俺が、どれだけお前の曲を……っ! 毎日、寝る前に……っ!」
「……坂口さん。……顔、近い。……暑苦しい。……シッ」
ユズルは、いつものように桜利の口を指で塞ぐ。
すると、横から多聞が、見たこともないような「ガチ」の表情でユズルの手を握りしめた。
「ユズルくん……。君だったんだね。僕……君の曲に、何度も救われてたんだ」
「……多聞くん。……手が、熱い。……あと、泣かないで。……ウタゲ姉さんに、殺される」
ついに暴かれた『シキ』の正体。
憧れの歌い手が、実は「無気力な後輩」だったという事実に、F/ACEのメンバーたちは畏怖と、そして異常なまでの執着を抱き始める。
「……あ、そうだ。……正体、バレたから。……次の曲の、コーラス……多聞くん、手伝って。……一人で録るの、喉が疲れるから」
「喜んで!!!」
多聞の即答が響き渡る中、ユズルは「……うるさい」と呟きながら、ようやく深い眠りにつくために目を閉じた。