テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
教室の窓際。
今日も誰かが菓子パンを出し、誰かが課題そっちのけで雑談を始めていた。
グループワークで一緒になってから、何となくつるみ、 6人の気取らない、でも心地よい関係を築いていた。
ひまなつはいつも通り、無造作にいるまの隣の椅子に腰掛けていた。
肘が少し触れるか触れないか。特別すぎない距離感。
「……俺たち、付き合ってるんだ」
みことの一言に、場の空気がふっと静まる。
すちも隣で静かにうなずいていた。
一瞬の沈黙のあと――
「……え? マジで? っていうか、そっか……」
先に口を開いたのは、こさめだった。
「なんか、うん。今思えばすっごい納得かも。距離感おかしかったしな、お前ら」
いるまは低めの声だったが、驚きというより、苦笑い混じりの“察してた”系のリアクションだった。
みことはすちの隣で、少しだけ顔を赤くしながら、でもまっすぐこちらを見ていた。
すちは、そんなみことの手を机の下で握っているらしく、どこか落ち着いた空気をまとっている。
「バレバレだったわけじゃないけど、空気感はあったよな」
らんが笑って言うと、場がゆっくりとほぐれていく。
「俺たちのこと、変に思わない?」
そう尋ねるみことに、ひまなつが眉を下げながら笑った。
「誰が誰を好きになったって、いいじゃん。すちがみことを大事にしてるのも、逆も、見てたらわかるし」
「てか、むしろ爆発すんなよ。こっちはおこぼれの糖分で生きてるんだから」とらんが冗談風に笑う。
「それな。次はデート報告よろしく。話のネタにするから」
ひまなつはらんに続けて冗談まじりの軽口を言った。
ひまなつは、ちらりといるまの横顔を盗み見る。
「……隠す気なかったんだな、あのふたり」
「だな」
いるまの口元には笑みが浮かんでいたが、どこか遠くを見るような瞳だった。
「公表、するのって……すげーな」
ひまなつの呟きに、いるまは少し黙って、それからぽつりと返す。
「ま、公表しようがしまいが、俺らの関係は変わんないだろ」
その一言に、ひまなつはちょっとだけ目を見開いた。
「……俺も。別に、誰かに知ってほしいわけじゃないし」
「でも、もし誰かに聞かれたら?」
「……“そうだけど何か?”って、言ってみるかも」
いつになくはっきりした声に、いるまは小さく吹き出した。
「はは、それっぽいな、お前」
ひまなつは気まずそうに目を逸らしながら、いるまの膝に自分の足が軽く触れるように寄せた。
わざとじゃない、けど、わざとみたいな距離。
誰もその距離にはツッコまない。
そのあと、場は和やかに流れていった。
すちとみことへの質問、軽い茶化し、拍手、笑い声。
でも、ふたりだけが知っている。
「言わない」という選択の中にも、「確かさ」はちゃんとある。
帰り道。階段を並んで降りながら、ひまなつがポツリとつぶやいた。
「……もし、いつか俺が“言いたくなったら”さ。俺から言ってもいい?」
「当たり前だろ」
その言葉に、ひまなつは小さく微笑んで、目を伏せた。
誰にも知られなくても、ちゃんとふたりは、隣にいる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!