「1週間…!」
部屋を出たところで、嶽丸に捕まった…。
「え…っと、久しぶり」
「久しぶりじゃねぇ。今日で連勤1週間だぞ。休みはどうした」
「…今日、ケンゾーが海外出張から帰ってくる日だから」
「だから?休日返上するってか?」
日曜日。
ケンゾーとの食事から、1週間が過ぎた。
…ということは、中沢由香ちゃんという会社の後輩とのキスシーンを見てしまってからも1週間たつわけで。
あれから嶽丸は、今までのリモート勤務が嘘みたいに毎日出勤するようになった。
満員電車を避けるため、嶽丸はかなり早く出社してるみたいだし、帰りも遅くてほとんど会えない。
だから…こんな風にちゃんと顔を見るのは、ほぼ1週間ぶりなのだ。
「明日、休めばいいかなって、思ってて…」
「だめ。今日は予定通り休みな」
もう着替えてたし…あとはメイクするだけだったけど、目の前に立ちはだかる嶽丸は、決して私を1人、家から出してはくれないだろう。
「…わかった」
どちらにしても休みの予定だったから連絡する必要もない。
「いい子。じゃあこっちおいで」
「…え」
「もう少し寝るだろ?俺の部屋で一緒に寝よ」
手を引かれて素直に連れ去られてみれば、迷わずブラウスのボタンを外される。
「…ちょっと、自分で着替えるから!」
ふふん…と謎の不敵な笑みを浮かべて、嶽丸は自分のTシャツを放ってきた。
「し…下は?」
「なし」
「え…?」
心もとない下半身をTシャツの裾を引っ張って隠してみる。
「あ〜あ…伸びるからやめて?」
「だったらハーフパンツ取ってくるからどいてよ」
嶽丸はすでに私の隣に座って腰を抱き寄せてる。
「ごめん、それはムリ」
そっとベッドに押し倒されて、横向きに向かい合いながら、こういう体勢の嶽丸は久しぶりだと思う。
「1週間、何してた?」
「仕事、してたよ」
「ヘアショー終わって、少しはよゆーできた?」
「うん…」
ケンゾーと食事してきたことは、そう言えば話してない、と気づいて…わざわざ言うことでもないかと口をつぐんだ。
「あぁ…可愛い…」
頬を両手で挟まれて、ジッと見つめられる。
その目は、愛しさと優しさと温もりとー…情欲が混ざったような、複雑な色。
「…キスしたい」
キス…ずっとしてない。ちゃんと会えなかったし、キスを日常にする間柄とは少し違うし。
でも、キスと聞いて…思い出すことがある。
「キス、してたじゃん?」
「ん?」
そんなこというつもりなかったのに…不思議そうな顔しないで。
覚えがないって顔してるよ、その目は。
「もしかして…見てた?」
「見てたよ」
…探るような目に変わった嶽丸。
実はずっと気になって、そのせいで私の心は冷たくて重たくなってた。
じんわり…涙が浮かぶ。
嶽丸が悪いわけじゃないし、私に謝る理由もないのに、私の微妙な変化にすぐに気づいたみたいに…ふんわり抱き寄せられた。
「あの子はこの春入社してきた子で、指導係が俺に代わったんだよ。で…久しぶりの出社で後輩たちが飲み会セッティングして、そこに来てさ。帰れって言ってるのに、タクシーでついてきちゃったわけ」
「全部話すんだね…」
「そりゃあまぁ…誤解されたくないしな?」
「…キスの言い訳は?」
「あれは…人の隙をついてぶつかってきたみたいなもんだ。気持ちがないから、何も感じない」
「…気持ち?」
腕の中で、ちょっと上を見れば、気配を感じて下を向いた嶽丸と目が合う。
「そう。…気持ちがあるキスっていうのは…」
角度をつけた嶽丸の顔が近づいてきた。
…はじめから唇を開いてて、私も合わせるように口を開けた。
舌が熱くて、その熱を移すみたいに、絡められる。
うごめく舌は上になり、下になって…私を抱きしめる腕に、徐々に力が込められた。
先に吐息をもらしたのは嶽丸。
私は…うまく息ができないほど、夢中になった。
チュウ…ってリップ音が響いて、ちょっと恥ずかしくなる…
「わかる?これが愛する女にする、気持ちのあるキス。…みゃーが見たキスと、違うだろ?」
「…」
本音を言えば、ぶつかるだけのキスでも嫌だった。嶽丸が誰かに触れるなんて嫌だ。このしなやかな筋肉をまとう腕は、いつも私にまとわりついていればいいと思う。
「うん…違うね」
そんな本音は、上手に隠したつもり。
でも私の手は無意識に嶽丸を求め、その首筋に巻き付いてしまう。
自然と顔が近づいたから…私から2回目のキスを落とした。
チュッとついばむようなキスをしてから…唇を押し付けるようなキスに変えた。
…ずっと、このままでいたい…と思ってるのに、嶽丸の唇が開くのがわかる。
「みゃー…俺、無理だわ…」
Tシャツの上から背中を撫でていた手は腰のカーブにたどり着いて、グッと引き寄せられて…その形を擦られた。
お互いのお腹がくっついて、足が絡みついて…私が押し付けたキスは、嶽丸によって唇がこじ開けられ、淫靡な水音を響かせる。
「…わかってる?俺がどれだけみゃーが好きで、毎晩、どれだけ我慢してるか」
溢れ出すような嶽丸の情欲を受け止めながら、まだ少し我慢してるんだろうと思った。
…どうすれば、そのストッパーを完全に外すことができるかな、なんて思うのは…
もっと素の嶽丸を見たいから。
私だけが知る、嶽丸を見たいから。
でも、見たらいけない気がする。わずかでも…ストッパーがかかっているからこそ、2人の生活が成り立ってる気がする。
「本気…出していい?」
それなのにそんなこと聞かないで。
「本気って…最初のホテルでのことみたいな?」
「あんな生易しくない」
「…え?」
「ねぇ…俺に溺れて?…」