殺し文句にもほどがある…半開きの目は、目の前の私への欲を隠さない。
こんな男っぽい嶽丸を見るのは初めてだ。心臓が音を立てて破けそう…
そこへ、玄関のチャイムが鳴った。
まだ朝と言っていい時間、しかも日曜日。
まさか…帰国したケンゾー?
いや…さすがに連絡もせずに来るとは思えない。
考えを巡らせている間にも鳴らされるチャイム。
…そのうち携帯も鳴り始めた。
その間にも、嶽丸は抱きしめる腕を緩める気配を見せない。
まるで…チャイムと着信音と嶽丸の勝負みたいになってきた…。
「…嶽丸の、携帯だよ」
わかってると思うけど、唇が離れた瞬間教えてあげた。
「んーーー…っっ!?クッソ!あのバカ女がっっ!」
誰の仕業かわかってるみたい。
もしかしてもしかして?
まさかの、まさか…?
「…なんっだよっ?」
ついに観念して着信を取った嶽丸。
「…はっ?そんなこと、月曜でいいだろうがっ!」
携帯を持つのも嫌だ…と言いたげに、ハンズフリーに設定したらしく、携帯をそのへんに放った。
「やだやだ!どうしても今見たいんです!嶽丸先輩のパソコン!」
「…後で画像送る!」
「生で見たいんです!…今玄関にいるから、開けてくださいよう…!」
やっぱりそうかと納得した。
この声は、まさにぶつかりキスの相手、中沢由香ちゃんだ。
玄関前にいるって言ってた。
…しつこいチャイムは、彼女の仕業?
「やだって言ってんだろっ!こっちはもう、ドロドロのグチャグチャなんだからな?お前に構ってるよゆーなんかあるかっ!」
ハンズフリーをぶった切り、嶽丸が私に向かって倒れてきたけれど…チャイムは鳴り止まず、携帯も鳴り続けた…
「…なんかすいませーん」
結局私に説得され、嶽丸は一時中断を余儀なくされて仏頂面。
私がかわりに、由香を嶽丸の部屋に案内した。
「パソコンの写真を…撮りに来たんですか?」
裏側に記載してあるメーカーや型番まで写真に撮っている由香に、私は感心しながら聞いてみる。
「そうなんです。せっかく嶽丸先輩に教えてもらえることになったので、ちゃんとしたスペックのパソコンが欲しくて…」
「仕事熱心…なんですね?」
そう言った私の言葉を聞いていなかったのか、それとも異様に鼻が利くのか、由香は気になることを言い始めた。
「なんかこの部屋…空気が違う…」
「…え?」
「なんだろう…男女の妖しい匂い」
「…そんなことに気づくのか。答えは正解だ。わかったらさっさと帰れ」
いつの間にかドアにもたれかかって嶽丸が立っている。
ハーフパンツを履けといったのに、Tシャツだけ着てパンイチだ。
「…なにそれ…近親相姦ですか?」
「ふざけんなアホ。はじめから美亜が俺の姉じゃないことくらい、わかってただろ?」
「…そうなの?」
ひえぇ…なんでわかったのか教えてもらいたい。
「だって悔しかったんだもん。嶽丸先輩が美亜さんを見る目が…会社にいるときと全然違うんだもん」
「そりゃあそうだろうよ?好きな女を見る目は誰だって変わるわ」
すると、キッとした目を私に向け、確かめるように由香が私を見た。
「じゃあ美亜さんは…嶽丸先輩の恋人なんですね?」
「…え?」
こういう時、説明に困る複雑な関係。まっすぐな愛を伝えてくれる嶽丸と、素直に受け取れない私。
恋人とは…言えない。
「ただいま盛大に口説いてる真っ最中だ」
かわりに嶽丸が答えてくれた。
「…口説いてるって…」
「お前が来なければ、口説き文句がうまく刺さって俺に落ちたかもしれないのに、どうしてくれんだバカっ」
こんなに口悪くていいの?後輩とはいえ、会社の人なのに…。
「それじゃ…私、諦めません!」
「はぁ?つくづくバカだな?お前みたいなションベン臭いガキに、俺のが勃つと思ってんのか?」
「思ってます!私だって美亜さんと同じもの持ってますから!」
喧嘩なのか…愛の告白なのか…声高に言い合う2人についていけない。
「お前と美亜じゃ、勝負にならんって言ってんの!」
はよ帰れ!…と付け加える嶽丸。
そのうち由香の目元に、涙が浮かび始めたことに気づいた。
「…もう、そのへんにしておきなよ…」
たまらず口を挟むと、指先で涙を拭って、負けない由香が宣言する。
「私だって、色っぽく迫ってみせますから…美亜さん、私絶対負けません!」
…その顔は、私が見ても可愛かった。ふと嶽丸を見ると、片方の眉を上げ、腕を組んでいる。
さすがに言い過ぎたと後悔してるのかな…
「…嶽丸先輩…」
ふらりと動いた由香。向かう先は私を通り越して嶽丸のところ…
「…やめろ!離れろクソガキ…!」
由香は、嶽丸の首に腕を絡めて抱きついた。
目の前でそんな光景を見せられて、私がどう思ったかというと…
履けと言ったハーフパンツも履かないでパンイチで女の子に抱きつかれて…なにやっとんじゃボケェ…。
嶽丸は自分に巻き付く由香の腕をケガをさせないように慎重に剥がしていたけど…
「なんか下半身ブラブラしてるの感じてラッキーでした」
なんてケロっと言われてて、私はさらに、アホとバカチンを心の中でつけたした。
「…もう2度とブラブラ体験なんかさせないからな?」
しょうもないセリフを吐いて、嶽丸は由香を本格的に家から排除しようとした。
ところがそこへ、意外な連絡が入って…