リゲルの説得に応じたヒノトは、二年の教室へ行き、グラムに事情を話すと、グラムは真剣な顔で頷いた。
「俺も……本物の魔族ではないけど、魔族と勘違いされて孤立していた。その子は、きっともっと辛い想いを胸に秘めているような気がする。救ってあげたい……」
「グラム……! 流石は俺のパーティメンバーだ!」
ヒノトは、グラムの返答にキラキラした笑顔を見せた。
「さて、行くなら今だ! 授業はバックレることになるけど、朝なら兵士たちはみんな見張りの交代や街のパトロールに出てて一番手薄なはずだ!」
「それも、国王様からの情報か?」
「ああ!」
これから王城へ殴り込みに行くと言うのに、ヒノトはニシっといつもと変わらない笑顔を見せた。
そのまま城門へ向かった三人だが、やはり兵士が少なくなっているとは言え、門兵はしっかりと二人、そこに頓挫していた。
「どうする……? ヒノ……」
リゲルが言葉を言い切る前に、ヒノトは門兵の前にズケズケと出て行った。
「学寮の一年、ヒノト・グレイマンです! リオン先輩に会いたいんですけど、王城に入れてください!」
堂々とした侵入に、兵士たちは困惑の顔を示すが、互いの目を見合ってヒノトに向き合う。
「学生さんなら、今は授業中のはずだろ? 授業をバックレて来たのか? 学寮は王国が管理しているんだ。王城に無闇に入れることもできないし、この国の兵士として、バックレを見逃すわけにもいかないよ」
兵士は至極真っ当なことを優しく伝える。
しかし、ヒノトは引き下がらない。
「だって、リオン先輩だって帰って行ったんですよ! それに、俺たちは緊急の用があるんです!」
「リオン様……帰ってるのか……?」
ヒノトの言葉に、兵士たちはヒソヒソと話を始めた。
見るからに、不安気な空気感が伝わる。
「それに、俺はラグナおじちゃんとも知り合いなんだ! 帰って来たら俺の名前で聞いてみてください!」
「確かに……国王は『村の友人がいる』と話に聞いているが……なあ……?」
「ああ……私たちの判断で通すわけには……」
そんな中、城から一人の兵士が急ぎ足で出てくる。
「なあ! リオン様が大変なんだ!!」
その言葉に、三人は顔を向ける。
「ど、どうした……?」
「突然帰宅してきたと思えば、『魔王の娘を妻にする』と言い張っていて……。我々も勝手な判断は止める方に止めているんだが、全く話を聞いてくれなくて……」
どうやら、リオンの暴走には、兵士たちも手を焼いているようだった。
「国王様には……連絡取れたのか……?」
「それが問題なんだ……!」
そして、驚愕の言葉が兵士から伝えられる。
「勝手なことをしたリオン様を……地下牢に閉じ込めておけと伝令があり……」
「王子を……幽閉したのか……!?」
「いくら国王様のご判断とは言え……!」
兵士たちが慌ててる隙に、ヒノトはリゲルたちの隠れている方向をチラッと見て、小さく手招いた。
「マジか……」
リゲルは汗を滲ませるが、グラムは表情を変えずにコソコソとヒノトの方へ向かった。
「あっ! おいコラ、待て!!」
「大丈夫っすよー! 王子様も魔族の子も、みんな助けて来ます!!」
そのまま、ヒノトたちは走って王城内へ駆けて行った。
ひたすら忽然と兵士のいない広間を抜け、話に聞いていた地下牢への扉を目指す。
「これ、勝手に侵入したようなもんだが……勝算はあるのか……?」
「ああ……。兵士の人たちも困惑してた。ってことは、何か妙なことが起きてるんだ。それに、ラグナおじちゃんがそんな命令を下すはずがない……!」
「この混乱の中で二人を救出することで、今回の侵入はチャラ……そう言う考えだな……?」
「おうよ!」
そのまま、ヒノトたちは駆け抜けた。
地下牢の入り口は直ぐに分かった。
何故なら、困惑した兵士たちが動揺のままに動けずに扉付近に屯していたからだ。
「場所は分かったが……さっきの広い城門とは違って、あの扉を三人で無理やり行くなんて無理だぞ……。さっきのやり取りを聞いてる感じ、話して通してくれるどころか、きっと捕まって終わりだ」
ヒノトも、「う〜ん……」と声を唸らせていた。
「出せ!! 早く!! 王族であるぞ!!」
中からは、リオンらしき叫び声が響き渡り、またしても兵士たちはその声に動揺を表していた。
そんな中、「ポンっ!」と、ヒノトは何かを閃いたかのように手を合わせた。
「俺たち、今ちょうど制服だろ? だからさ……」
ゴニョゴニョ……と、二人へ作戦の伝達をする。
リゲルは、半信半疑な眼を向けながらも、他に突破口はないと踏み、ヒノトの案に乗ることにした。
「あのー、僕たち、先生から伝言を預かって王城への入室を許可して貰ったんですけど……リオン様、どうかされたんですか……?」
そう、この作戦。
リオンの同級生になりすまし、あくまで『王城への立ち入りを許可された』と匂わせる作戦だった。
「あ、ああ……。そうだな……学生同士にしか分からないこともあるだろう……。奥にいるぞ……」
作戦は、想像よりも容易に通ってしまった。
何故なら、混乱した兵士たちは、今、自分で決定させる権力を用いていないからだ。
許可された、この言い回しが、混乱した兵士たちの決定打を鈍らせていた。
「それじゃあ、失礼します」
そして、なるべく俯き、フードで髪を隠してはいるが、身長の大きなグラムの存在も大きかった。
三年生である、と言う主張も、これで通せていた。
地下牢は、長く続く廊下のようで、薄暗く、鉄格子が何層にも広がっていたが、今幽閉されているのは、王子リオン・キルロンドと、リリムだけだった。
「あ! いた!!」
「おい……なんでお前たちがここに居るんだ……!」
「まあ、今出すからちょっと待ってろって」
そう、ヒノトが鉄格子に手を掛けようとした瞬間。
ゴン!!
「うわっ!!」
ヒノトの手をギリギリに、“何か” が鉄格子を大きく鳴らせ、ヒノトの手を阻んだ。
「勝手なことされちゃ困るわね……。や〜っとここまで準備できたのに……」
すると、奥からは兵士の格好をした女が立っていた。
「お前……!」
その姿に、リオンは眼を見開く。
三人は、突然の女兵士に唖然とその姿を見遣る。
「兵士に成り済ましていたのか……! 魔族……!!」
「そうよ。それも貴方がまだまだ幼い頃からずっとね。この時をず〜っと待っていたの……」
「何が目的だ!! 僕を人質にでもする気か……! だったら、早くリリムちゃんだけでも逃がせ……!!」
その言葉に、またも三人はハッとした顔を浮かべる。
リリムを誘拐したはずのリオンは、自分を犠牲にしてまでも、リリムを救おうとする言動が見られた。
リゲルは、頭が追い付かずに目だけを行き来させる。
「ダメよ……。貴方の人質もそうだけれど、私たちにはこの子が必要なの。魔族の王……魔王様に帰って来てもらうために……!!」
そう言うと、高らかな笑みで両手を上げた。
眼を凝らすと、リリムは拘束され、口も塞がれていた。
「取り敢えず……リリム様の保護は成功、王子を人質にする為には、目撃者を始末しないと……ね?」
そう言うと、女は三人の前にゆらりと近付く。
「ヒノト……かなりまずいんじゃないか……」
ヒノトは、ジッと女の様子を窺っていた。
「ブレイバーゲームだ……」
「は……?」
「グラム、シールダーとして、後衛防御できるか?」
「それは無理だ……! 練習したこともないのに……!」
「ああ、指示をくれたらその通りにやろう」
「グラムまで……!」
ゾクッ……!
ヒノトの顔を見た途端、リゲルは背筋が凍った。
ヒノトは命の危機を前に、笑っていた。
――
リオン・キルロンド
*レオの兄、キルロンド王国の王子。三年生。
*女癖が悪いと評判が良くない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!