テラーノベル
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ドイツはカフェで、紅茶を飲んでいた。目の前には、落ち着いた顔でスコーンを食べるイギリス。
「……つまり、その、気持ちには応えたが、まだ足りない気がしている」
「ふむ。プレゼントでも用意してみれば? それか、デートに誘うとか」
「デート!? まだそういう段階では――いや、そもそも俺は、そんなことをどう計画すれば……」
「やれやれ……。じゃあ、ひとつだけ聞きますね?イタリアは、イタリアさんは君のどんなところを好きだと思います?」
ドイツは答えに詰まる。
イギリスは静かに続ける。
「君は誠実で、不器用で、でも人のために動ける。たぶん、イタリアさんはそういう君が好きなのでしょう。なら、
君なりに“自分のやり方”で返してやればいいんです。」
「……自分のやり方、か」
その夜、ドイツはイタリアに「週末、来てくれないか」とだけメッセージを送った。
週末、イタリアが訪れたのは、ドイツの家のキッチンだった。
「えっ、クッキー作るの? また?」
「……あの時の味を、俺も覚えておきたくてな。そして今度は、俺の“好き”を込める」
イタリアは目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。
「そっかぁ、うれしいなんね……。じゃあ、レモンピール、一緒に切ろっか!」
二人で作ったクッキーは、見た目こそ不恰好だったが、ちゃんとレモンの香りがした。
テーブルについたイタリアは、クッキーをかじると、ちょっとだけ目を潤ませた。
「ドイツの味、だよ。まじめで、ちょっと焦げ気味で、でも、あったかい」
ドイツはその横で、ごく自然に言った。
「……お前がくれた“だいすき”に、俺の全部で返したかった。俺なりに、だが」
イタリアは、何も言わずに頷いて、ドイツの腕にそっと触れた。
後日、イギリスの家に届いたお礼の箱の中には、二人の手作りクッキーと手紙が。
「あの時のアドバイス、ありがとう。
俺にも、できたみたいだ」
イギリスは手紙を読み終えて、ティーカップをひとくち。
「……まったく。」
そうぼやきながらも、その目元は、どこか優しかった。
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