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#学パロ
隣人ループ / 蘭菊
「転校生が来るらしい」
学校に登校するやいなや、そんな言葉が教室内で飛び交っていた。
「どんな人だろう」だとか「イケメンだといいな」だとか。そんな言葉が絶え間なく聞こえていた。
それからかれこれ数分が経ち、騒がしい時間も終わり、無慈悲なチャイムが校内に轟いた。
静まり返った教室に、担任が足を踏み入れる。友達に視線を交わすクラスメイトらとは対照的に、教壇に立つ彼はいつも通り退屈そうだった。マイナスな気持ちを隠そうともしないその様子は、見ていてあまり気持ち良いものではない。しかし、彼のそんな様子を「かわいい」と囃し立てる女子生徒が数人居る。非常に理解し難い。
「えーっと、転校生を紹介する」
その気怠げな声を合図に、教室がざわめきはじめた。即座に友達のほうを向いて、互いに顔を合わせるクラスメイトら。
──そして、扉が開いた。
入って来たのは、かなりの高身長で、まさかの金髪の美少年。そして額には微かな傷跡。きっと、この教室に居る担任以外の生徒全員の頭に「不良」の二文字が横切ったことだろう。私も例外ではない。
しかし、顔立ちを見ればすぐ分かった。彼は日本人じゃない。いや、わざわざ説明することでもないが。
そして担任に促されて、彼は一度教室全体を見渡してから、口を開いた。
「”蘭”。名前長いで、そう呼ばれとる。フルネームは後で確認しての。オランダと日本のハーフやざ。⋯⋯生まれも育ちも日本やけど」
それだけ。好き嫌いとか得意不得意とかの詳しい紹介は一切なし。その上自分の名前すらも省いた。
それ以前、なぜ方言?日本の方言を使うオランダ人──厳密に言えば、オランダと日本のハーフだが──なんているのか?
何かと癖が強すぎる。
案の定と言うべきか。皆、その徹底した省略に呆気にとられていた。が、しかし。そんな生徒らを一瞥だにせず、担任は淡々と手元のバインダーを見て欠伸をした。
そして、目が合った。担任と、私が。
「あー⋯⋯本田の隣、いいよな?」
途端に、一斉に視線がこちらに集まった。ガタガタと鳴る椅子の音がやけにうるさい。
薄々気付いてはいた。この教室で空いている机はここ──私の左隣の席で、俗に言う主人公席──しかなかった。
「あ、はい。ここです、本田です」
そう言って、恐る恐る手を挙げた。彼と目が合う。睨まれもせず、微笑むこともなく、ただひたすらに無反応。
椅子についてからも無反応。⋯⋯別に期待をしているわけでもないのだが、「よろしく」の一言でも声をかけてくれれば良いものを。ここまで無言を貫き通されると、少し気が滅入る。
そんなこんなでチャイムが鳴り、担任が教室を出た途端──クラスの大半が転校生を囲った。
「どこの学校から来たの?」とか「なんで方言なの?」とか。質問攻めである。⋯⋯なぜ方言なのかという点については、こちらも気になるが。
いや、それよりも。それよりも思うことがある。彼らは私の机にぶつかってもお構いなしなのだ。この時期には珍しい、それも異国の血が混ざった転校生に話しかけるのに必死で。
ため息をつけど、誰かがこちらに目を向けることもなく。時計の針はどんどんと回り、気付けば空は茜色に。
昇降口に来るなり、私は教室に忘れ物をしたことに気が付いた。
靴音を響かせ、来た道を戻る。
夕日が校舎をのんびりと照らしていた。
ガララララ、と扉をスライドさせて教室に入った。
そこで私は、窓際に佇む”彼”と目が合った。
転校生の⋯⋯あの人。
「あ」
もはや、どちらが発した声なのかすらわからない。どちらも小さく口を開いて、少しばかり身体を強張らせた。
お互いにお互いが予想外だった。
開け放たれた窓から入り込む風で、白いカーテンが揺れる。
私は「どうも」なんて挨拶をすることもなく、無言で自分の机に近づいた。
日中の仕返し──初対面で隣の席だというのに、挨拶をされなかったこと──とでも言うべきか。⋯⋯あまりに幼稚だが。
「忘れ物け」
彼が突然口を開いた。
「まあ、はい」
私は戸惑いつつ曖昧な返事をした。
それから、一切会話はなかった。無言だった。机の中から筆箱を取って鞄に仕舞う時も、教室を出る時も。いや、嘘だ。少し会釈した。気休めに。
足早に階段を駆け下りた。
逃げているわけではない。もし彼と鉢合わせたらと考えると、ここに留まるのは少し億劫に思えた。
少年の足音は止むことなく、自宅であるアパートへと向かった。
帰り道が妙に長く感じる。焦燥感というか、なんというか。
別にあの転校生が嫌いなわけではない。ただ、少し話しづらいのだ。なぜか、少しだけ。
アパートの階段を上った先は「201号室」。
鞄から鍵を取り出して、扉を開いた。
部屋は暗い。
リビングの机の上に、ラップに包まれた夕飯と書き置きの他に、五千円札が置いてあった。
『食べ終わったら食器は台所に置いてください。お小遣い、少なくてごめんね。明日の朝の分は冷蔵庫に入ってます。夜はどこかで軽く済ませてね。帰るのは明後日あたりになります。ごめんね。』
夕飯をレンジで温めて食べる。慣れたものだ。父が亡くなってから、ずっとこれだから。
帰ってきたと思えば、数時間したらすぐに出ていく母。単純に忙しいのだ。
子供なんかに構っている暇はない。
風呂上がり、課題を済ませて布団に潜る。
遠くで聞こえる蝉の声が、やけにうるさかった。
明かりのないアパートの一室に、月明かりが差し込む。
瞼が、重くなってきた。
コメント
1件
転校生、金髪のハーフで方言ってだけで既に尊すぎるだろ?!😭✨ しかも無言のまま帰る本田さんと夕方の教室でバッタリ会っちゃう演出、エモすぎて叫んだわ〜〜!! 最初は距離ある感じなのに、これからどう縮まっていくのか気になりすぎる!!続き読みたい!!📖🔥