奨也が術式の進化を果たしたその直後、彼のもとに緊急の連絡が届いた。福岡分校の教頭が厳しい顔で伝える。
「禪院奨也、お前に命じる。東京本家から派遣された刺客を撃退しろ。やつらは、禪院家の本家そのものだ。」
奨也は静かにうなずきながらも、内心の怒りが燃え上がっていた。剛士を失った傷がまだ癒えぬまま、彼の復讐心と義務感が彼を突き動かしていた。
戦場となったのは福岡市郊外の広大な廃工場。冷たい風が吹き抜ける中、重厚な扉が開かれ、そこに禪院扇の姿が現れる。彼は貴族然とした笑みを浮かべ、静かに奨也を見下ろした。
「奨也、お前の術式が進化したと聞いたが…本家に逆らうその力、見せてもらおうじゃないか。」
扇の手には、禪院家特有の黒炎が揺らめいていた。その炎はただ燃えるだけではなく、まるで意思を持つかのように形を変え、空間そのものを焼き尽くす力を秘めていた。
「なら…お望み通りだ。」奨也はハンドスピナーを取り出し、静かに回し始めた。
扇が黒炎を放つと同時に、奨也はその術式で炎を一瞬で気体へと変換させた。黒炎は消えるどころか、奨也の制御下に置かれ、扇に向かって逆流し始めた。
「これは…俺の炎だぞ!」扇は驚愕し、慌てて後退するも、奨也は冷静に言い放った。
「術式に本家も分家も関係ない。お前の黒炎も、ただの気体だ。」
奨也は扇の黒炎を圧縮し、無数の微細な火球に変えた。それらが一斉に扇に襲いかかる。
「終わりだ。」奨也の一言と共に、爆発的な熱が扇を包み、一撃で屠った。
扇が倒れた直後、地面が轟音と共に揺れた。その音に合わせて工場の奥から現れたのは、巨漢の男、禪院甚壱だった。彼の体格は奨也の倍以上もあり、両腕には筋肉の塊が隆起していた。
「扇がやられるとはな…やっぱりお前は危険だ、奨也。」
甚壱は不気味な笑みを浮かべながら、大地を揺るがせる拳を放つ。その拳は、巨大な式神の手と連動し、まるで山が動くような衝撃を生み出していた。
奨也は瞬時に術式を発動させ、拳魔の衝撃波を「液体化」させることで威力をそぎ落とした。しかし、甚壱の拳魔は連続攻撃を繰り出し、奨也の術式の限界を試すような戦いを仕掛けてくる。
「お前の術式がどれだけ進化しようと、俺の拳には勝てない!」甚壱が叫びながら拳を振り下ろした瞬間、奨也は冷静にハンドスピナーを操作し、驚きの一手を繰り出した。
「甚壱、お前の拳は確かに強い。でも、力だけで勝てる時代は終わった。」奨也は術式を全開で発動させた。
拳魔の巨大な手を液体化するだけでなく、その液体を急激に冷却し、固体化させた。そして、その固体化した手を自分の術式で気化させ、消滅させるという複雑な工程を一瞬でやってのけた。
「これでお前の武器はない。」奨也は静かに言い放ち、甚壱に近づくと、最後の一撃を放った。ハンドスピナーを通して放たれるエネルギーが甚壱の防御を貫き、彼を地面に沈めた。
「…バケモノめ。」甚壱は倒れながらそう呟き、意識を失った。
禪院家の刺客を撃退した奨也は、その場に立ち尽くしていた。扇も甚壱も倒したものの、彼の心は晴れなかった。禪院家との戦いは、これで終わるわけではない。
「これで本家が黙っているとは思えない…次はもっと強い奴が来るだろう。」奨也はそう呟きながら、ハンドスピナーを握りしめた。
次に彼を待ち受けるのは、禪院家の本当の「本流」たち。奨也の戦いは、まだ始まったばかりだった。
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