『続・嘆きのバイト』
「わたしには、通勤時間は無駄でしかないんで。」
職場まで自転車で数分の所に住んでいるらしい彼女は、わたしが通勤に片道一時間掛かるか掛からないか、という話を上司としていた時に、そう言い放った。
働く人の多くは、朝早くから電車やバスに揺られて通勤している。それに掛かる時間が無駄かどうかは、その人次第やなかろうかとわたしは思うているが、議論の価値もないので言わない。
自分を甘えさせる傾向にあることを多少なりとも自覚しているわたしには、彼女にとっては「無駄」なこの時間が、結構重要やったりもする。自宅にいると、どうしてもプロ野球中継や漫才の特番を観てしまうので、往復の電車内で参考書や問題集を読んでいたことがあり、その甲斐あっていくつかの資格や免状が取れた。
今は、テレビは押し入れの中に閉まってあるが、You Tubeで情報を得ようとすると、つい活字から遠ざかりそうになるので、通勤用の鞄の中には常に文庫や新書を入れて、読書の時間に充てていることもある。そんなわたしにとっては、通勤時間は決して「無駄」ではないんである。
先日、送別会があり、ええ店で食べさせてもろた。和食のコース。
(こんなん、生きてる間にあと何回食べられるんやろか。)
と思いながら、時々大将との話も楽しみつつ、ゆっくりと料理を堪能したいのに、彼女はいきなり、
「大根が熱すぎて味がわかりませんでした。少し冷ましてから食べます。」
と、大きな声で言い出した。大将は、苦笑いしながら、
「大根は熱いですからね。気を付けて召し上がってください。」
と返したが、わたしは、
(一番美味しい状態で出されたものにケチを付けたのか、それを言って面白いと勘違いしたのか、いずれにしてもスベっとんな。)
と思いながら食べ続けた。
そんな彼女は、所長に向かって、
「よく通る声で話しているのを見掛けましたよ。」
と言っていた。自分の地声の大きさには気づいてへんらしい。
その日、彼女は業務の指導をする上司と話をしながら仕事をしていて、
「わたし、家に帰ったら『悪口ノート』に書くんです。」
と言うていた。前後の話は聞いとらんので知らん。
そんな彼女に関わる出来事を、わたしはここで書いている。