コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私の名前はアリア=リディアーヌ。侯爵令嬢よ!……嘘じゃないわ!! ほんとよ!!! 本当だからね!? ちゃんと聞いてよね!! そうして今、私はとあるゲームの世界にいるの。
『君に捧げるこの愛』っていう乙女ゲームのヒロインになっているんだけど……ちょっと困ったことになっているの。
*****
「あらお嬢様。おはようございます」
「えぇ、おはよう。今日もいい天気ね」
メイドさんたちと朝の挨拶を交わす。うん、いつも通り平和な朝ね。
ちなみに私の部屋は二階にあるのだけど、階段を下りたところですれ違ったのは専属侍女のメリッサだ。彼女はもう十年以上私の傍にいて、家族のように仲が良い。
「それじゃあ朝食を食べに行きましょう」
「はい」
食堂に入ると、すでに父様と母様がいた。二人とも仕事着姿で書類を手にしている。きっと執務室で仕事をしていたんだろう。
「おはよう、リディ」
「おはよう、リディ」
「おはようございます、おとうさま、おかあさまってうそぉっ!!」
両親に声をかけられた瞬間、また新しい日々が始まる。
新たな出会いがあり、新たな発見がある。
そして……恋だって始まるかもしれない。
「おはようございます!お父様、お母さま!」
「ああ、おはよう」
「ふふっ、今日も元気ね」
両親の笑顔を見て、僕は幸せを感じる。
これが僕の日常。毎日変わらない幸福の時間だ。
この幸せな時間がずっと続けば良いと思っているし、僕自身もそう願っている。
だが、そんな平穏な時間は突然壊されてしまうのだ。
―――バンッ! と大きな音を立てて、扉が開かれた。
部屋の中にいた者達は一斉に音の方に振り向く。
「……あぁ?」
そこには一人の男が立っていた。
この場にいる誰とも違う服装をしており、背丈も平均よりも少しだけ低いくらいだろうか。
髪の色は黒く、目元まで伸びている。表情は眠たそうで覇気が感じられず、まるでやる気のないように見える。
男は辺りを見渡して、不思議そうな顔を浮かべていた。
「ここはどこだ? 俺は確か自分の家でゲームをしていたはずなのに」
「お兄ちゃん!」
部屋に入ってきた男の後ろから一人の少女が現れた。
少女は嬉しそうな笑顔で男に飛びつき、そのまま抱き着いて頬擦りする。
「おいおい。一体なんなんだお前は」
「えへへー。お兄ちゃんの妹だよ!」
「妹? はっ。俺にそんな可愛い妹がいた覚えはないぞ。そもそもお前みたいなちんちくりんなんて見たこともないんだが」
「酷いよぉ~。私これでももう高校生になるんだよ!」
「はっはっは。冗談はその無駄に大きな胸だけにしろっての」
「むぅ~。馬鹿にしてぇ~。こうなったら絶対お兄ちゃんの鼻を明かしてみせるんだからね!」
そう言って、妹は頬っぺたを膨らませながら部屋を出ていった。……なんなんだあいつは。
俺は呆れ顔になりながらも、どこか微笑ましい気持ちになっていた。
さっきまであんなに元気がなかったくせに、今はすっかりいつもの妹に戻っている。
やっぱり女の子というのはよく分からない生き物だと改めて実感させられた。
そんなことを考えつつ俺もまた自分の部屋に戻ろうと階段の方へと足を向けた時――不意に誰かに腕を引っ張られた。
「ん?」
振り返るとそこには妹の友莉がいた。
「あの……」
友莉は何やらもじもじしている様子だ。
一体どうしたというのか。
「どうかしたか? トイレに行きたいなら早く行った方がいいぞ」
冗談交じりに言うと、友莉は顔を真っ赤にした。
「ち、違います! わたしだってもう子供じゃないんですからっ!!」
「そ、そうだよな。ごめん」