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兵士に拘束されたランナは城の地下牢に入れられた。
薄暗く冷たい石の床の上に座るランナには今の状況を冷静に理解する事ができない。
(どうして……こんな事に?)
おそらくアサを毒殺しようとした容疑で収監されたのだと、頭では分かっても感情が追いつかない。
音も光も何もない、時間すら分からない『無』の中にいても、次第に思考だけが動き始めた。
(今……何時だろう? 12時になったら……)
ポーラが毒を仕込んだのならば、パンに盛られた毒薬はヨル以外の人格を殺す魔法薬。
今はアサの人格を苦しめている毒が、昼の12時になればヒルの人格をも蝕んでいく。
(アサ様……ヒルくん……!)
ランナは鉄格子を握りしめて声を絞り出す。一気に弾けるようにして感情も動き出した。
「いやぁぁ! 誰か、誰かっ!!」
涙を撒き散らしながら叫ぶが、声が反響するだけで地下牢には人の気配がしない。見張り番どころか他の牢も使われていないように感じられる。
このまま、アサとヒルの人格が死ぬのを待つ事しか出来ないのかという絶望と無力感で涙が止まらない。
これが『人格の殺し合い』の現実。どの人格が生き残ろうと、必ず王妃の誰かが罪と悲しみを背負う。だからこそ全員が生きる道を見付けだしたかった。
ふと涙で滲んだ視線を正面に向けると、鉄格子の隙間の闇から僅かな瞳の光が見えた。
「……ランナ様」
耳元で囁くようにして聞こえてくるのはカレンの声。黒いメイド服で黒髪のカレンは闇に溶け込んでいるかのうに朧げで幻影かと思ってしまう。
「カレンさん! 私が毒を盛ったんじゃないの、信じて!」
「はい、当然でございます」
「お願い、アサ様とヒルくんを助けて!!」
「……出来る限りの事はします」
カレンにしては歯切れの悪い返事で、その表情にも焦りが見える。無感情なカレンがこんな表情をするくらいだから事態は重い。
カレンは鉄格子の隙間から何かを差し入れてランナに手渡した。
「私はいつでもランナ様の味方でございます」
中立であるはずのカレンが最後に力強く言い切ると、そのまま足音も立てずに立ち去って行った。
ランナがカレンから手渡された物を見ると、それはアサが図書館で借りて渡してくれた本。ジョルノ国に伝わる物語で、まだ序盤しか読んでいない。
こんな時に本を読む気になんてなれない。それでも『カレン』が届けてくれた本が、『アサ』からのメッセージのように感じた。
(今、私にできる事……それは真実を見付ける事)
そう自分に言い聞かせて涙を拭うと、牢の奥側の壁に設置されている小さな照明の下へと移動する。
その下に立って本を少し上に掲げると、かろうじて文字が読めるほどの明るさを確保できた。
そして意識を本の中の物語に集中させる。
(遥か昔、ジョルノ国には三匹の悪魔がいた。アサルト、ヒルマ、ヨルデオ……)
その三匹の悪魔とは人の姿をした魔族ではなく、巨大な邪竜の魔物。
三匹の悪魔はジョルノ国の支配者となるべく争い合い、やがて一匹が他の二匹を食らい尽くす形で勝者となった。
それによって、一匹の中に三つの魂が宿る最強の悪魔が誕生したという。
(一匹の捕食行為によって、結果的に三匹が合体した?)
最強の悪魔は隣国のレッドリアにも攻め入るが、レッドリア最強の聖女・エリスによって体と魂を別々に封印される。
体はレッドリア国の神殿に。三つの魂は聖女自身の体内に。聖域に体と魂を封印された悪魔に完全な死は訪れず、転生もできない。
(ちょっと待って、聖女が体内に三匹の悪魔の魂を封じるって……そんな事をしたら……)
その聖女、エリスは何度転生しても純潔を守らなければならない。転生しても魂は同一であり、体内に封じた三匹の悪魔の魂も同様。
エリスが子を宿せば、悪魔の魂は逃げ場を求めて子の体に宿る。悪魔にとって、それが魂を縛る封印からの唯一の逃げ道。
そして悪魔は生まれてしまった。一人の人間の体に三匹の悪魔の魂を宿した、アサ・ヒル・ヨルの人格として。
(という事は、ヴァクト陛下の母親は、三匹の悪魔の魂を宿した聖女・エリス様の生まれ変わり……!)
この物語が事実で史実であったとしても、それは遥か昔の話。転生したエリスも三匹の悪魔も転生前の記憶を失った可能性がある。
ランナはようやく気付いた。これは単に人格の問題ではなく魂の輪廻。聖女として自分が出来る事、その僅かな可能性も見えてきた。
(行かなきゃ……!)
ランナは立ち上がると、牢屋の出入り口のドア部分の鉄格子を握りしめる。力を入れてないのにドア部分が押されて前に動いた。
ドアの鍵はかかっていない。先ほどカレンが解錠してくれたに違いない。
(カレンさん、ありがとう)
牢の外に出て通路の左右を確認するが、やはり見張り番はいない。地上への階段を目指して歩こうとしたが、すぐに足が止まる。
誰もいないと思っていたが、他の牢屋の中から人の気配を感じる。ランナは階段とは逆方向の奥へと進んでいく。気配のした牢屋の前で止まって目を凝らしてみる。
そこに収監されていたのは40代くらいの男女二人。囚人にしては綺麗な服を着ている。女性の方がランナに気付いて近付いてきた。
「……あなたは……ランナ!?」
女性はランナを見るなり息を呑んで口を両手で覆う。薄暗い中で色を認識しづらいが、その女性はランナと同じく長い金髪に金の瞳。
しかしランナは、その女性に見覚えがない。すると女性の後ろにいた男性が歩み寄ってきた。
「ランナだって? ランナなのか!?」
男性は鉄格子を両手で握りしめて、飛び出してきそうな勢いでランナの名を呼ぶ。驚いたランナは思わず一歩下がる。
その男性は銀髪で金色の瞳。女性と並ぶと金髪と銀髪で髪の色は違うが、瞳の色は二人とも美しい金色。
偶然とは思えない色合い、瞳の色、そしてどこか懐かしい声、雰囲気……ランナは思い出してきた。
レッドリア国の英雄で『金と銀の聖者』と呼ばれた、聖者ガイスと聖女エリーナの夫婦の話を。そして、それが誰であるかを。
「父さん、母さん……!?」
三人に共通する金の瞳が確かな血の繋がりを証明している。
生き別れになった親子が今、16年ぶりに再会した。