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ご本人様とは全く関係ありません
あれ、ここどこだ?
気がつくと、知らないけれど、
どこか懐かしい場所にいた。
上を見上げると大きな満月が
俺を照らしている。
途端に強い風が俺の髪を揺らした。
「っ……寒っ、どこだよここ」
続く一本道を進むと
きれいな桜の木が咲いている。
月と桜……まるで幻想的な世界。
きっと、あいつも気に入るはず。
あいつは、あいつは――誰だ?
なんでだ、名前が出てこない。
ふと、桜の木の下に人がいることに気づいた。
あの人にここがどこか聞いて、
さっさと家に帰ろう。
「あのっ」
そう言って近づいた時に、その人が
何か呟きながら泣いているのが見えた。
「……っないこ……」
「……え?」
ハッと目が覚めた。
「はっ、はっ……」
また、いつもの夢……。
いつのまにか布団は蹴り飛ばされ、
床に落ちている。
ここ最近ずっと同じ夢を見ている。
大きな月と桜の木。
そして、必ずそこには誰かがいる。
その人は、毎回のように俺の名を呟く。
今日みたいに泣いている日もあれば、
笑っている日もあって。
1番怖いのは、知らない相手が
俺の名前を知っていること。
見たことがある相手の気もするが、
起きた時には相手の特徴を忘れてしまい
探すことが不可能。
だから、俺は
『知らない人が俺の名を呼ぶ』
奇妙な夢を毎日見続けている。
寝ようと思っても
『……っないこ……』
あの低い声が邪魔をする。
あなたは一体誰、
それさえ聞ければ、
こんなに不気味じゃないのに。
悶々と考えているうちに、
いつの間にか、カーテン越しの光が
部屋を満たしていた。
「おはよ、ないくん」
「……ん、りぃら、おはよぉ」
今日も眠そうだね、
なんて笑う赤髪はりうら。
結局あの後、一睡もすることはできず、
早めに家を出た。
大学に着いたものの
一睡もできなかったので頭が重く、
講義が始まるまで寝ることにした。
「りうらは、最近みてないの?」
りうらも俺と似たような夢を見ているらしい。
場所は違うらしいが、俺と同じように
誰かに名前を呼ばれている夢。
「んー…、見てるけど。
りうら、割と寝れるタイプだもんな……」
その返事にそっか、とだけ返す。
りうらも俺も似た夢を見ているが、
それはもう1人いて――
「りうちゃん!ないちゃん!おはよ!」
元気いっぱいな声で現れた水色髪、
いむ――こと、ほとけもだった。
「おはよ、いむ」
「ないちゃん起きて起きて、
ほら、もうすぐ講義始まるって!」
「いむこそ、今日もギリギリだったじゃん」
「ちょっとそんなこと言わないでよ、
りうちゃん!ちゃんと間に合ってるんだから
いいでしょ!」
わちゃわちゃ話していると、
それじゃ前回の続きから始めるぞ〜と
教授が言い始めたので慌てて席に着いた。
教授が授業を進めているのを横に、
りうらといむとこっそり目線を合わせ、
この後いつもの場所で、
と小さく伝えると2人は親指を立てて返した。
「んー!!終わったぁ…」
いむが大きく伸びをする。
講義中伝えたいつもの場所――カフェで
全員の講義がすべて終わったあとに合流した。
話す話題はいつだって同じだ。
『今日どんな夢見た?』
ただそれだけ。
似た夢を見ているからこそ、
些細なことにも気づくことは多く、
この夢を見る理由を知りたい気持ちから、
話が尽きることはない。
「りうらは、相変わらず
花火の下に人がいたよ」
「僕もいつも通りクリスマスツリーの下に
いるだけだったしなぁ……」
うーん、と考え込む中、静かなカフェには
いむのアイスコーヒーを飲む音だけが響いた。
「ないくんもなんだよね?」
りうらに聞かれ、そうだなぁと
朧げな記憶を引っ張り出す。
「今日は泣いていたと思う、たぶん……」
俺の答えにさらに2人はさらに顔をしかめた。
互いの情報を出せば出すほど、
わからなくなっていくこの謎。
果たして、答えが分かる日は来るのだろうか。
「分からないことは置いといてさ!」
突然、いむが声を上げた。
「来週日曜日の夏祭り、一緒に行かない?」
どうせ、みんな一緒に行く相手いないんだし
と付け加えた一言は余計だ、いむ。
ほら、だからりうらから肘鉄食らうんだよ。
「りうら暇だから行けるよ、ないくんは?」
白けた目でいむを見つめるりうら。
それに少し苦笑しながら、俺は答えた。
「俺も行けるよ、大丈夫」
それから数日後。
夏祭りの前日に、急遽りうらから
いつものとこに集合!!とメールが届いた。
何か起こったのだろうか。
「ごめんね、急に呼び出して」
別にいいけど……と、いむと2人で頷く。
りうらがカフェに着いたのは3人のなかで
1番最後だった。
「今日見た夢がいつもと違って……」
すみません、アイスラテ1つ、
と店員に頼んだあと
そのまま話を切り込んできた。
今まで誰にもこのようなことが
起きたことがなく、少し驚いた。
いむも、早く教えてほしいと言わんばかりに
体を乗り出す。
「いつもいる人がね、今日は歌を歌ってたんだ」
りうらの言葉に、歌?と首を傾げる。
「その歌を聴いた時に、
すごく懐かしい感じがしたんだ」
優しそうな顔をして、
りうらはぎゅっと手を胸の前で握りしめた。
確かに、りうらは歌うことが好きで、
一般的に上手いと言われる部類の人だ。
だからこそ……
「その歌、知らなかったの?」
いむが、俺の心を読んだかのように質問した。
「うん、知らなかった」
りうらは悲しそうに微笑んだように見えたが、
言葉を続けた。
「だからね、
2人にも聞いてほしくて、録音してきたんだ」
その言葉に思わず『ん?』と目を丸くした。
「え、どうやって録音したの」
次から次に出てくる疑問が浮かび、
俺は抑えきれずに1つずつ質問していく。
どうやら、起きてすぐに覚えている歌詞や
メロディーを書き出して、
カラオケで録音してきたらしい。
だから、来るのが遅くなったんだ、
とりうらは言った。
「〜♪♫♬」
うるさくならないように、
いむと2人で有線イヤホンをつけながら、
りうらの歌声を聴いていく。
その歌声は、自分のもやがかかった心に
じんわりと染み渡った。
「すごい!すごいよ、りうちゃん!」
歌を聴き終わったあと、いむはテンションが
上がった様子だった。
うるさいよ、いむ。と言いながらも、
俺も知らず知らずのうちに高揚していた。
「〜♪♫♬」
そのせいか途切れ途切れになりながらも、
りうらの歌声を思い出して、
鼻歌を口ずさんでしまう。
すると、りうらもいむも自然と俺に合わせて
鼻歌を重ねた。
「なんか……、懐かしい感じがする」
一通り鼻歌を口ずさんだあと、
いむがそう感想を漏らすと、
りうらが目を輝かせて詰め寄った。
「でしょ!?これを花火の下で歌うんだよ!?
なんかこう、ぐっと来るの!わかる!?」
よく分かんないけどさ!
と鼻息荒く伝えるりうら。
分かってるのか分かってないのかはどっちだよ
というのはさておき、ぐっと来る感覚だけは、
何となく理解できた気がした。
その日の夢は、俺自身にも異変が起きていた。
知らないけど懐かしい場所。
大きな満月に、続く一本道の先にある桜の木。
そして、そこにいる人。
変わらないように見えて変わっている風景。
それは――
「月が、赤い……?」
りうらが夢で見た歌を
聴かせてくれたからなのだろうか。
木の下にいる誰かも赤い月を見上げていた。
すると、俺に気づいたのか、
その人物はこちらを振り向き、
りうらと口が動かしていたような気がした。
夢の中の赤い月が頭の片隅にちらついた
夏祭り当日の朝。
俺は影のように忍び寄る嫌な予感を覚えた。