コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
奇縁ちゃんは私の言葉を聞くと、嫌そうに顔を歪めながら言った。
「絶対嫌なんだけど。てか言ったよね。美輝ちゃんは連れてかないって」
私は奇縁ちゃんに、やっぱり美輝ちゃんは連れてった方が良くない?と言ったのだ。
奇縁が顔を歪める理由は分かる。だって話した時は連れて行かない、と言われたのに行く直前になって連れていった方が良い、なんておかしいだろう。
だが、お父さんに頼むなら、どちらも行った方がお金の話とかも簡単だろうと思ったのだ。
「ほら、お金の話とかもあるからさ?二人ともお父さんと会った方がお金の話とかも簡単でしょ?」
私がそう言うと奇縁ちゃんはまた、いつものよつにイライラとしたように私を睨んだ。
「…お姉さんみたいなのなんて簡単に殺せるんだからね。私だってお母さんのスマホで色々仕事探せるんだから」
奇縁ちゃんはそう言い終わってから、奇縁ちゃんの母親のと思われるスマホと、以前私を脅すために使った包丁をバッグから取り出した。
「…っ、それはずるいよ奇縁ちゃん…」
私と美輝ちゃんの部屋の扉が開いた。すると、寝惚けた美輝ちゃんが目を擦りながらリビングに来た。
「きふちちゃんとおねえさん、どこかいくの?」
眠そうに美輝ちゃんが言ってきた。
「うん、お姉さんのお父さんと会うんだよ」
私は美輝ちゃんに笑顔で言った。すると、美輝ちゃんは眠気が覚めたように焦って言ってきた。
「え!じゃあ、わたしもいく!」
まあ、私にとってその言葉は、想定の範囲内だった。
美輝ちゃんは支度をしようとするけれど、私はそれを止めた。
「駄目だよ、美輝ちゃん」
私の言葉を聞いた美輝ちゃんは、疑問そうな顔をした。
「美輝ちゃん、お母さんに何されたか覚えてないわけじゃないでしょ?」
私がそう言うと、美輝ちゃんは怯えたような顔をして俯き、右手をぎゅっと握り胸元に当てた。
「外には美輝ちゃんのお母さんみたいな汚い大人しかいない。子供だって、その汚い大人に染まってるんだよ。美輝ちゃんにとって、外の世界は危険すぎる」
私はそう言い終わると、怯える美輝ちゃんをぎゅっと抱き締めて言った。
「美輝ちゃんには私が居るでしょ?私は美輝ちゃんの味方だから、私が美輝ちゃんを守るから、ね?」
笑顔で言いながら美輝ちゃんの頭を撫でた。美輝ちゃんは怖さを思い出し、涙を少し流していた。美輝ちゃんの顔を見ながら私は言った。
「美輝ちゃんは危険な目になんて遭わなくていいんだから。絶対に外に出ないで」
微笑み、そう言った。
その後、美輝ちゃんをベッドに連れていき、寝かせた。お姉さんは今、支度をしているから平気だろう。
美輝ちゃんは私と違って、戸籍というものがある。美輝ちゃんの両親を殺した今、殺人現場に美輝ちゃんが居ないのはおかしいと疑問になるだろう。殺人現場に警察が行くのも、血や死体の匂いなどで近所の人からクレームなど受けたら行かざるを得ないだろう。
それでもし、私たちの元へ警察が来れば、美輝ちゃんは確実に私と一緒に居られなくなる。それだけは避けたい。
「奇縁ちゃん?」
部屋の扉を開けて、お姉さんが静かな声で私の名前を呼んだ。お姉さんは実家に行くからと大きな三つ編みを作り、メガネをかけている。前髪はいつも通り、お姉さんから見て左の前髪をピンで留めている。
「そろそろ行くよー?」
私はベッドから立ち上がり、部屋の扉を閉めて玄関に行くところだった。お姉さんが急に言いにくそうに話してきた。
「あのさ?奇縁ちゃん、今日のことなんだけど、美輝ちゃんさ、……」
「この子が一緒に暮らしている子か?」
お父さんは私にそう聞いてきた。
私は久々に家に帰り、お父さんの部屋まで奇縁ちゃんと一緒に行った。お父さんが私たちが来たことに気づき、この質問を投げかけたのだ。
「うん。この子と一緒に暮らしてるの。隣の部屋が欲しい理由は電話で言った通りだよ」
「奇縁って言います。お姉さんには、お世話になってます!」
私が話すと奇縁ちゃんは、なるべくちゃんとした普通の子供を演じて自己紹介をした。まあ、私からすればいつも通りの怖い奇縁ちゃんだけれど。
お父さんに電話で話したことや、奇縁ちゃんの話を詳しく話そうとした時だった。
「すみれ」
お父さんが私の名前を呼んで真剣な表情を見せた。
「今働いている所では慣れてきたのか?」
一瞬だけ、時が止まったように錯覚した。どう回答すればいいのかの言葉を瞬時に組み立てて、集中する。周りの音が何も聞こえないくらいに考えるんだ。
私はそうして、震えそうな声を力強く振り絞るように、それでいていつも通りに答えた。
「うん。そこの仕事でわかってくることもあるだろうし、そしたら他の所で働くつもりだよ」
いつも通りを装い、なるべく笑顔で答えた。バレないように、いつも通りのように。
お父さんは私の反応を見るかのように目を見つめてきた。それからゆっくりと口を開いて言った。
「…それは良かった。上手くいっているようで」
それからしばらくして、仕事やお金のことを詳しく話してから、私と奇縁ちゃんは家に帰った。
お姉さんは自分の父親に質問をされた時、少しの間があり、焦っているように見えた。
それに、いつものお姉さんと違って、いい子を演じてるみたいで気持ちが悪かった。作り笑いをして、本当の自分を隠してるみたいで。
私はお姉さんと帰りながら話した。
「お姉さんの名前、すみれって言うんだ」
「そうだよ。佐藤すみれっていうのが私の名前」
私が話しかけると、お姉さんはいつもの調子に戻った。けれど、私は気持ちが悪かったさっきのことをお姉さんに言った。
「…さっきのお姉さん、自分を隠してて気持ち悪かった」
お姉さんは驚いたように目を見開き、私を見た。そのまま私は立ち止まって真顔で言った。
「お姉さんの勝手な妄想の勘違いと偽りの笑顔とか、そういうの気持ち悪いから本当にやめて。不快」
私が真顔で怒りを乗せて言うと、お姉さんは戸惑いながら言った。
「……そ、っか。なんか、ごめんね」
戸惑いながら言うのも無理はない。だって急に悪口と似たことを言われるのだ。
ただ、それほどさっきのお姉さんは気持ちが悪くて、胸のもやもやと頭がぐるぐるするような違和感をなくさざるを得なかった。それをお姉さんに伝えて分からせるために。
でも、伝えてからは二人とも無言で、若干の気まづさが胸のもやもやに黒い感情を更に被せた。
ああ、そうだ。そういえばこの感覚は美輝ちゃんと出会った時と似たような感覚だと思い出した。