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両片思いをこじらせている二人の話。

66話

66

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2022年12月05日

#青春恋愛#コメディー#甘々

第66話 「決意」

「偶然会ったなっちゃんに連れてきてもらった店が偶然藤堂の仕事先とか……ありえるの……!?)」

というところで、鞘佳の思考はフリーズした。

「藤堂くん、だよね。覚えてる? 高校のとき隣のクラスだったんだけど」

「ああ。桜木だろう。草薙とクラスが同じだった」

(なんで違うクラスのことまで知ってんの!?)

「で?」

「え?」

「注文。後にしたほうがいいか?」

「あ! さやちゃんどうする?」

「へっ!? えと……!」

夏実に促されて身体が動き、テーブルに置いてあったメニューを慌てて広げる。

「どれもおいしそうだねぇ」

「うん……ディナーセットが、お得かな」

「そうだな。サラダからデザートまでつくから、この時間はセット注文が多い」

「じゃあ、あたしはディナーセットの……ボロネーゼで」

「かしこまりました」

返事と同時に伝票に書き込む楓。

(やばい私も決めなきゃ……!)

「藤堂くん、その格好……もしかしてホール担当じゃないの?」

「見ての通りの混みようだからな。駆り出された」

「じゃあ普段はキッチンに?」

「ああ」

(ってことは、今日ここで会えたのってほんとに……偶然!?)

「店長が気まぐれだから、いつもそうとも限らないが……決まったか? まだ悩んでいても構わないが」

「あっ、私はこのドリアセットで」

「かしこまりました。飲み物とデザートはどうする?」

「あたしはアイスコーヒーと、プリンで」

「私はアイスティーと……バニラアイス」

「かしこまりました。飲み物は食前でよろしいですか?」

「いいかな?」

「うん」

「では、少々お待ちください」

伝票に書き終えると、楓は一礼してその場から離れていった。

「びっくりしたね」

「……うん」

夕飯時の店内で、楓とは違うホール用の制服を着た人たちが忙しそうに歩き回っている。

「ここのお店、結構繁盛してるんだね」

「うん。史花が隠れた名店だって。でも藤堂くんがいるなら、教えてくれればよかったのにねー」

「知らなかったんじゃない? 普段奥にいるって言ってたし」

――それなのに、自分は会うことができた。

この偶然に胸騒ぎを感じると同時に――ニコニコしている夏実を見て、鞘佳は思うところもあった。

「なるほど、そうかも」

楽しそうな夏実の笑顔に何もおかしなところはない。

「なっちゃんさ。もしかして――」

だがだからこそ思い至ったことを鞘佳はスルーできなかった。

「杉崎さんと行けなくなって、代わりに別の人とここに来ようとしてたんじゃない?」

「え」

「ただの勘だけど……私と会ったとき、方角的にはそのままこの店に向かう感じだったよね。ドタキャンされてて、しかも一人で行きづらいところだったら、そもそも店の近くになんていなかったんじゃない?」

「っ」

(またやっちゃった……)

夏実の顔を見て、少し後悔する鞘佳。

普段はなるべく当たり障りない言動でその場を切り抜けるようにしていた鞘佳だったが――つい、余計なことを言ってしまった。

「ごめん、なんか詮索してるみたいだよね……」

「ううん、そんなことない。確かに史花にドタキャンされて、誰か誘おうとはしてたからびっくりしたけど」

「やっぱりそうだったんだ。もしかして、篠塚、くん? 確か、杉崎さんたちとも仲良かった」

「え!? う、うん……そう」

「だったらなおのこと、ごめんなんか」

夏実と史花ほど仲が良かったわけではない。

だがそれでも、夏実が京輔と特別な関係であることは何となく知っていた。

(仲いいクセに、なっちゃん以外の人と付き合っててなんか煮え切らないヤツだった覚えあるけど)

「ほんとに、いいの! きょ……篠塚とは、また来られるし。それより」

(って、ことは)

と、鞘佳がまた余計な詮索を脳内でしようとしていた直後。

「さやちゃん見たとき、なんか放っておけなくて。それこそ、余計なお世話かもしれないけど」

「!」

言われて鞘佳は思い返す。

夏実からごはんに誘われたとき、何を考えていたか。

――飲み会の帰りに楓に会い、連絡先を交換しなかったことを、後悔していた。

好きな人との時間を取らずに、鞘佳を誘ってくれた夏実がいたからこそ、こうして楓と再会できたわけで。

「――そんなこと、ない」

ハッキリとした、意思の篭った声。

「ありがとう、なっちゃん」

「さやちゃん?」

「なっちゃんが誘ってくれなかったら……私たぶん、今度こそ諦めてた」

「……」

主語のない、唐突な鞘佳の説明に対して、夏実は何も言葉を挟まなかった。

「――お待たせしました。先にアイスコーヒーとアイスティーです」

「!」

突然割って入る声――トレイにグラスをのせた楓の声に、思わず鞘佳は思いっきりビクついた。

「あ、ありがとう藤堂くん」

「……」

「……」

夏実の言葉に軽く会釈だけして、淡々とグラスをそれぞれの前に置いていく。

(今なら、話しかけられる!?)

本来ならあり得ない偶然が、鞘佳の背中を無理矢理押そうとしている――だが。

「楓ぇー! ちょっとー!」

「!」

喧噪の中からひと際大きな男の声が響く。

「今戻ります。それではごゆっくり」

厨房のほうに顔を向けた楓は、そのまま軽く会釈すると再び鞘佳たち席から離れていった。

「忙しそうだね」

「う、うん」

「さやちゃん、えらい」

「え?」

にこっと人懐こい笑みの夏実に、鞘佳は首を傾げる。

「ここ、いい感じのところだよね。ちょっと混んでるけど、今ごはん時だしね」

「……?」

急に話が変わり、戸惑いつつ夏実を見やる鞘佳。

「お昼のピーク後とか、夕ごはん前とかなら……すいてるかもよ?」

「? う、うん」

「だからまた――くればいいよ、ね?」

「!」

ようやく、夏実の言葉の意味を理解した鞘佳の頬が、熱くなる。

(話しかけようとしてたのバレバレ……!)

「またあたしも来たいなー」

「つ、次は篠塚くんと?」

「! その前に史花と来ないと、ふてくされちゃうかも」

「……杉崎さん、ふてくされるとかあるの?」

「うん、あるよー。すっごいつまんないことで」

そのまま二人は、料理が運ばれてくるまで他愛ない話で盛り上がった。

ハッキリとは言わないが、恋の話も混ざったりして。

(高校のときはこんなこと話すことなかったのに……不思議)

猫を脱ぎきれなかったところがあっても、普段では考えられないくらい、鞘佳は夏実と色んな話をした。

(……決めた。私)

いくつも重なった偶然の末に、鞘佳は密かに心に誓った。

(藤堂とまた仲良くなって、あのときのことをちゃんと謝る。謝って――また、仲良くできたらそのときは)

――自分の気持ちを伝えよう。

そう決意していた。

次回へつづく。

両片思いをこじらせている二人の話。

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