「間宮さん。佳佑さん、颯佑さんですね?」
さらに奥から、父さんくらいの年齢の人が出てきた。
「「はい」」
「こちらへどうぞ。私からお話します」
そう言い応接室で向かい合った彼は
‘三岡弁護士事務所 所長 三岡学’
という、この事務所の代表者だった。
「佐藤さんは昨日から私のクライアントです。私は彼女を守る立場にある。もちろん守秘義務もあります。ですから、彼女が了承していることのみお伝えします」
「昨日からクライアント?」
「ええ、昨日彼女に依頼されたことを私が受任しましたので、そういうことになります」
「何を依頼したのですか?」
「それは言えませんよ。弁護士がそれをしてはいけない。あの人は相続放棄、あの人は養育費相談とか言えますか?ただ今言えるのは、彼女を守るため彼女はここからは離れた場所にいること。私が信頼できる者に、仕事も住まいも整えてもらいましたのでご心配なく」
「守るとは?」
「外部からも内面からも一瞬で蝕まれた彼女が私に連絡をくれたのは正解です。あなた方のお母様からいただいたおはぎが食べられない、食べても吐いてしまうと泣いていました。おばちゃんに本当に申し訳ない、ごめんなさい…これはお母様に必ずお伝え下さい。彼女からの伝言です」
「先生は何があったか全てご存知ですか?」
「ええ。幸いここでの私の仕事を見て、佐藤さんの信頼を得られていたようで本当に良かった。お二人には今朝まで世話になっていたのにこんな形で申し訳ないと、今朝も泣いていました」
「電話は?」
「新しい職場と私だけです。佐藤さんのご家族にも、私経由でのご連絡とご了承頂きました」
「おっちゃんとおばちゃんと忠志くんがそれでいいと言ったのかっ?」
嘘だろ?
昨日の今日でどうなってる?
今朝には出て行くことがわかっていた?
「俺たちが連絡を取ることは?」
「申し訳ありませんが出来ません」
「先生はリョウコに会いますよね?」
「……クライアントと連絡は取ります」
「じゃあ俺たちと連絡だけ取れるようにしてくれと、伝えて下さい」
「…今、ここから離れたい彼女に…今すぐは無理でしょうね……私も彼女が可愛いもので。心身を完全に病む前に立ち直らせたい」
「仕事は弁護士事務所ですか?」
「お教え出来ません」
「県外?」
「お教え出来ません」
「何だよっ…くっそっ……俺たちの出来ることは何もないってことかよっ」
颯佑の苛立ちはよく分かる。
俺も目の前のテーブルを蹴り倒しそうだ。
「佐藤さんは、お二人にとても感謝していますよ」
「そんなのいらねぇ、会わせてくれ」
「申し訳ありませんが、出来ません」
「感謝なんていらねぇ……佳ちゃん、颯ちゃんって電話して来いよっ!」
颯佑の悲痛な叫びにも、三岡先生は表情ひとつ崩さない。
いろんな人の人生に関わってきた賜物と言えるのか……
今はこの人しかリョウコに繋がっていないのなら……敵にしてはいけない。
「先生、リョウコのことよろしくお願いいたします。また来ます」
俺が立ち上がり深く頭を下げると、颯佑も意図がわかったのだろう。
同じように深く深く……頭を下げた。
コメント
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そうだよ、今は三岡先生を敵にしちゃダメだよ!待とう。リョウコちゃんから連絡が来る日を🥺その時は前後から2人で抱きしめてあげて🥺そしておかえりって笑顔で迎えてあげて… おばさんのおはぎ食べたかっただろうに…