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第四章 黄金の太陽
第三話 再会 前編
フィルディアを出発してから約一月が経った。
高くそびえる雪山を越え、ソレイユ帝国へ辿り着いた一行を、巨大な白亜の城壁が迎えていた。
「……すご」
思わず漏れた声に、隣の商団員達も頷く。
どこまでも続く白い城壁。
陽光を反射する尖塔。
空を貫くように聳える白亜の城。
大陸最大国家。
太陽神の加護を受けし国、ソレイユ帝国。
シュンタは馬車の窓から城を見上げながら、小さく息を吐いた。
「何回見ても、やっぱ別格やなぁ……」
その前方では、商団長オルレアンが騎士達と話をしている。
各国を渡り歩く大商団とはいえ、帝国への正式入城には厳格な手続きが必要だった。
まして今回は、フィルディアの王子も同行している。
周囲には自然と緊張感が漂っていた。
一方、ジュウタロウは白馬の上から静かに帝国城を見上げていた。
久しぶりだった。
幼い頃、一度だけ訪れた場所。
まだ母が生きていた頃。
帝国建国祭。
各国の王族が集められた祝宴。
人混みを嫌って抜け出した中庭で、
一人の少年と出会った。
金色の髪。
太陽みたいな笑顔。
『静かな場所が好きなんだな』
初対面にも関わらず、当たり前みたいに隣へ座ってきた少年。
『また会おうな!』
そう言って笑った顔を、なぜか今でも覚えていた。
やがて、重厚な城門が開かれた。
近衛騎士達が左右へ整列する。
白銀の槍。
眩い甲冑。
そして、階段の上へ、一人の青年が姿を現した。
金色の髪。
黄金の瞳。
白を基調とした皇族衣装。
その姿は、陽光そのものみたいだった。
周囲の空気が変わる。
騎士達だけではない。
商団員達まで、思わず息を呑む。
ソレイユ帝国第一皇子。
ハヤト・ソレイユ。
その名を知らぬ者は、この大陸にはほとんど居ない。
「頭を下げろ」
小声で団長が告げる。
商団員達が一斉に頭を垂れた。
シュンタもそれに倣う。
その中で、ジュウタロウだけが、王族として正式な礼を取る。
静かで、完璧な所作だった。
ハヤトは階段を降りながら、穏やかに微笑む。
「遠路遥々、ようこそソレイユ帝国へ」
柔らかな声。
けれど自然と、周囲を安心させる響きがあった。
まずジュウタロウが一歩前へ出る。
「お久しぶりでございます、ハヤト皇子殿下」
銀の瞳が静かに伏せられる。
「此度は受け入れに感謝致します」
その瞬間。
ハヤトの目が、僅かに開かれる。
ジュウタロウ。
幼い頃の記憶が蘇る。
中庭で花を摘んでいた少年。
母の隣で、穏やかに笑っていた少年。
あの頃のジュウタロウは、誰より優しい雰囲気を纏っていた。
けれど、今目の前にいる青年は違う。
美しい。
けれど近寄り難い。
氷を削って作った彫像みたいに、張り詰めている。
噂は聞いていた。
母妃を失ってから、別人のようになったことも。
魔物討伐へ身を投じていることも。
北の守護者として名を轟かせていることも。
だが実際に再会してみると、想像以上の衝撃だった。
どれほどの時間を、一人で抱えてきたのだろう。
ハヤトは一瞬だけ言葉を失い、それから静かに笑った。
「そんなに堅くならなくていい」
その声音だけは、昔と変わらなかった。
ジュウタロウの瞳が、ほんの僅かに揺れる。
続いて、商団長オルレアンが前へ出る。
「この度は我々商団をお迎え頂き、
誠に光栄にございます」
落ち着いた声音。
長年各国を巡ってきた男らしい、堂々とした態度だった。
「こちらが息子のシュンタです」
シュンタは一歩前へ出る。
そして丁寧に頭を下げた。
「初めまして、ハヤト皇子殿下」
普段より少し落ち着いた声。
「旅芸人兼、商団の手伝いをしております」
ハヤトは少し目を細めた。
赤い髪。
真紅の瞳。
異国風の装い。
妙に目を引く青年だった。
人懐っこい笑みを浮かべているのに、どこか不思議な空気を纏っている。
その時、シュンタが何気なくジュウタロウへ視線を向けた。
すると、ジュウタロウも僅かに視線を返す。
ほんの一瞬、本当に些細なやり取り。
けれどハヤトは気付いた。
今のジュウタロウは、他人に壁を作っているはずだ。
それなのに、この青年に対してだけは違う。
目の前の彼は確かに、完全に心を閉ざしてはいない。
ハヤトは静かに思う。
そうか、お前は一人じゃなかったんだな。
何があったのかは分からない。
けれど、彼の中であの日で止まっていたはずの時間が、少しずつ動き始めている。
そんな気がした。
そして同時に、胸の奥で燻り続けていた、あの得体の知れない予感が微かに強くなる。
何かが始まろうとしている。
理由は分からない。
だが不思議と、悪い予感ではなかった。
太陽の光が、白い石畳へ降り注ぐ。
その眩しさの中で、三人の運命は、
静かに交わろうとしていた。
#見て
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コメント
1件
comiさん、第38話読みました! ジュウタロウとハヤト皇子の再会、すごく良かったです…。昔みたいに自然に話せない距離感、でもハヤトが「一人じゃなかったんだな」って内心で気づくところ、じんときました。幼い頃の中庭の記憶が蘇る描写、切なかったです。 あと、シュンタとジュウタロウの無言のやり取りにハヤトが気づくシーン、好きです。この3人の関係、これからどう動くんだろう…ドキドキしながら次話待ってます🌙