「おとうさーん、開けるわよぉ」
引き戸の外から声を掛けると、今にも消え去りそうな弱々しい返事がした。
「な、なんじゃぁ、だ、誰か来たのかぇぇ? こんな惨めな、じ、ジジイに声を掛けてくれる優しい人はぁ一体ぃ、い、いいや、いつもの幻聴、錯覚じゃろうてぇ…… 我は一人、最早、朽ちて行くのみ……」
コユキは慌て捲った、まさかここまで拗(こじ)らせていたとは…… 思いも依らなかったのだ。
「お父さん! アタシよ、コユキっ! しっかりして! 朽ちちゃダメよぉう! 善悪! 例の物をぉぅ! ほら、お父さん! PS4だよぉぉぅ!」
「りょっ! ん…… こ、これは? ぴ、PS5、は? ファイブぅ? えっと、コユキちゃん…… お父さん、ヒロフミさん…… PS5持っているでござるよ、勿論マニアも…… えっと、これって…… どういう?」
死臭を漂わせつつヒロフミ、コユキ曰くお父さんがはっきりとした声で宣言したのである。
青みが違う、と。
水色がソニ○クだと、鮮やかな青は似て非なるものだ、それはそう、フリ○ザとゴールデンフリ○ザ位違うのですよ、分かりますか? お馬鹿さんたち? とか、少し上手めの物真似まで披露しつつ主張するヒロフミ。
今もまだ、本当の恐怖を教えてあげましょうか? クフフフ! とか何とか言っているし……
普通なら優しいお医者さんに後を託して無かった事にするレベルだと善悪は思うのであった。
されども、未だ茶糖家の皆さんはこの狂った親父を家族として救おうとしているのである……
密教の沙門(しゃもん)、幸福(コウフク)善悪(ヨシオ)は気が付けば合掌をしつつヒロフミに語り掛けるのであった……
「青みって何だか分からない! んでも、んでも、違うのなら、違ってしまっているのであれば、僕ちんたちに任せて置くのでござる、ヒロフミさんっ! なに話は簡単でござる、強靭治癒(エニシァシ)で機種が新しくなったんで有れば逆に戻してしまえば修理されたサ○ーンに戻る事は必定(ひつじょう)! もうちょっとだけ待っていて欲しいのでござるよ! もうじき懐かしい愛機に再会出来るでござるよ、諦めないで偉かった! よしよしよしっ! おおぉ嬉しいでござるか、よしよしっ、ふぅ、大分落ち着いて来たでござるな、コユキちゃん! そのPS4今すぐ叩き壊すのでござるよ! 今すぐで、ござるっ!!」
「えっ? こ、壊すの? う、うん分かった! 『デスニードル』」
グシャっ!
「ラマシュトゥ! 戻して! よ、弱くでござる!」
「は、はい! 『弱体治癒(プトゥシ)』!!」
ピンク色のオーラがメシャメシャに砕けたPS4を包み、劣化修正されたゲーム機がその場に現れるのであった。
そこにチーンと鎮座していたゲーム機は…… 何故かPCエンジン、であった、
なぜ? 私には理解できなかった、しかし善悪は呟いた。
「あ、あー、そうかそうか、確かにソッチに戻る可能性も…… いや、そう来るのが当然の売り上げ結果だったでござるな…… くぅぅっ! 最早○ガに浮き上がる、可能性は…… 皆無(従魔ではありません)か、む、無念…… 何十回か繰り返したとしても、最早『MEGA CD』にしか到達できない気がする…… 我輩の、ま、負けで、ご、ござる!」
「ぜ、善悪様!」
ラマシュトゥの嘆きの叫びに被せるように父ヒロフミ、急激に老け込んだコユキの親父の声が居間中に響いたのであった。
「よしおちゃんありがとな、でもな、もう、もう、俺のソ○ックには…… ははは、会えないんだよ…… 仕方が無いんだ……」
善悪も諦めない。
「で、でも、新しいソニッ○は兎も角! マニアだったら昔同様、ポリゴン使用だったでござる! 青みは水色同じでござるよ? 何故? 何故この子を愛でてあげないのでござるか? 理解不能! でござる~…… ヒロフミさん?」
「…………ワイド、なんだ」
「は?」
「ワイドっ!」
「? わ、ワイド? でござるか?」
ヒロフミが一体何を言っているのか分からずコユキは無言、善悪は頑張ってオウム返しを続けるしかなかった。
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