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色とりどりの花や目にも眩しい緑の木々に囲まれた中に東屋があり、そこに置いてある大きなテーブルに、たくさんの料理が並べられている。 テーブルの角を挟んでラシェットさんの隣にリアムが、リアムの隣に僕が座る。

僕とリアムの向かい側には、ジルとゼノが座っている。

ラシェットさんが飲み物が入ったグラスを手に、目を細めて僕を見た。


「フィルが早く元気になってよかった。雪班症は大人になってからかかると、何日も高熱が続いて稀に亡くなる人もいる怖い病だからね。本当に軽く済んでよかった」


ええ?そんなに怖い病だったの…と、僕の心臓が跳ねた。

僕は姉上よりは元気だったけど、よく熱を出してラズールを心配させていたから、すごく身体が強いわけではない。しかも半年前に大怪我をして体力が落ち、二ヶ月前には死にかけて更に体力が落ちている。それなのに軽症で済んだということは、本当に運が良かったとしか言いようがない。

僕はラシェットさんに微笑んで頷く。


「はい、早く治ってよかったです。ご心配をおかけして申しわけありません」

「フィルは俺の息子同然だからね。心配するのは当然だ。ああそれと、ラズールにも手紙を出しておいたからね」

「…え、なんの手紙を…?」

「フィルが雪班症になって寝込んでいるという内容の手紙だよ。彼にはフィルのことをよろしく頼むと口うるさく言われてるから、フィルの身に起こったことを報告しなければならない」


僕は思わずため息をついた。

しかし隣でリアムが更に大きなため息をついた。


「アイツ…伯父上にまでそんなことを言ってたのか?図々しいヤツめ…」

「まあまあ。それだけフィルを大切に思ってるってことだろう?忠実な部下ではないか」

「ラズールは行き過ぎなんだよ。それで?そのラズールに手紙を出したって?すぐさま国境を引き返して来るんじゃないのか?」

「いや、戻っては来ないだろう。フィル、ラズールがここに来たのはね、今までのように頻繁にフィルに会いに来れなくなるから、再度俺に頭を下げに来たんだよ」

「え?来れない…?」

「そう。ラズールは、フィルのいないイヴァル帝国がどうなろうと知ったことではない。だがフィルに国をよろしく頼むと言われたからには、自分がやれることをやって国を支える…」


一旦言葉を止め、ラシェットさんが気づかうようにリアムに視線を向ける。


「それに…もしもフィルがリアムと別れた時に、戻ってくる場所を守らなければならないからと、とても真剣な顔で話していたよ」

「はあ?やっぱり俺はアイツが嫌いだ!俺とフィーが別れる訳ないだろうが!未来永劫!ずっと一緒だ!」


リアムが僕の肩を抱き寄せながら憤る。

ラズールはリアムを怒らせる天才だなと可笑しくなって、僕はクスクスと笑った。


「なに笑ってるんだよ…」


リアムが僕の頬を摘みながら言う。


「いたい…。いや、ラズールらしいなぁと思って」

「前から知ってたけど、本当にラズールは、おまえ以外のことはどうでもいいんだなってよくわかった!」

「でもね、そんなラズールが傍にいてくれたから、今の僕があるんだよ」

「まあ…それは…一応感謝はしてる」


口では感謝してると言うものの、リアムの顔は不満そうだ。その顔のまま、ラシェットさんの方を向く。


「それで?ラズールは何用で伯父上に会いに来たんだ?」

「おおそうだった。フィル、これを」


サンドウィッチを頬張っていたラシェットさんが、手を拭き封筒を差し出した。

リアムが受けとり僕に渡してくれる。

僕は封筒の表や裏を見ながら「これは?」と聞いた。


「ラズールが持ってきたんだ。たぶんその中に任命証が入ってるはずだよ」

「任命証…?」

「フィルはね、この度、イヴァル帝国の大公グランドデュークに任命されたらしい」

「えっ、僕が…」


驚いて声を上げ、ラシェットさんを見る。

ラシェットさんは、再び口に運んだサンドウィッチを飲み込みながら、にこやかに頷いた。


「リアムはいずれ、俺の跡を継いで公爵デュークになる。それにふさわしい地位を用意してあげたかったんだね。君の忠実な部下は」

「へぇ、ラズールもやるじゃないか。今ではもう、イヴァル帝国で一番力があるんじゃないのか?」


僕はリアムに顔を向けて首を傾げる。


「それはまだ…無理だと思う。大宰相や大臣達がいるし、トラビスやレナード達もいる。一人が勝手なことをし過ぎれば誰かが止めるはず…」

「ならこれは、王城にいる者達の総意ということだろう。遠慮なく受け取ればいい。というか、フィーは正当な王族なのだから当然だけどな」

「でも僕は、国を捨てたみたいなものなのに…」


しゅん…と俯いた僕の髪を、リアムが優しく撫でる。


「でもバカげた慣習の中で、おまえは十分やってきた。その慣習のせいで死にかけもした。だからこれからは自分のために生きていいんだよ」

「うん…」


小さく頷く僕に、向かい側から声がかかる。


「フィル様、グランドデューク就任おめでとうございます」

「おめでとうございます。その髪色を持つあなたは、やはり特別なのですよ」

「ありがとう」


リアムの傍にいられるなら、何もいらないと思ったけど、確たる地位をもらえたことは素直に嬉しい。こっそりとではなく、堂々とイヴァル帝国に入っていいと許されたみたいで。僕は心の中で、ネロを筆頭にラズールやトラビス、大宰相達の顔を思い浮かべて感謝した。

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